コラム

 公開日: 2014-09-06 

観音も地蔵も泣く。もし、不動なかりせば……。

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 今朝は、まるで枕元にいるようなコオロギの強い訴えかけに起こされてしまった。
「――おい、おい、まだ早いんじゃないか」
 見知らぬ彼に声をかけながらベッドを離れ、時計を見たら、まだ午前2自30分。
 やれやれと呟きつつ作務衣に袖を通した。
 闇の向こうでは、幾種類もの虫たちの声が重なり重なって合奏している。
 おそらく数センチあるかなしかであろう彼らの身体がなぜ、これほど一匹一匹の存在を明瞭に主張できるほど大きな音を出せるのか、不思議でならない。
 人間界が発する余分な雑音のないところでは自然界の豊かさがわかるということなのか。

 さて、火葬炉の前はいつも辛い。
 炉の火は不動明王の炎であり、いのちを失った肉体が灰になると同時に、空(クウ)の真実が観えずに起こる執着心もまた智慧の炎によって消えてゆく。
 しかし、そうした理は99・9パーセントのご遺族に無縁であり、もし、理を知っていたとしても、扉の奧へ入って行く近親者を目にすれば強い愛着の心が動くことは禁じ得ない。

 Aさんは、見聞きする中でこれと思った言葉をマメに書きとめ、筆で清書し、心の糧としていた。
 いつも、人の道を踏み外さないようにと努力していた。
 入院した夫を気の済むまで看病した。
 お通夜では、明るく思い出話を語り、夫の好きだった音楽を流すなど、健気にふるまった。
 しかし、斎場で最後のお焼香が終わり、会葬者と一緒にゾロゾロと炉の前へ進む段になってとうとう頽(クズオ)れた。
 車イスのまま最前列に導かれたAさんは、動き出した棺へ叫ぶように呼びかけ、追いすがる姿勢を見せた。
 炉の蓋が閉まり、不動明王の真言を唱え終わった私の耳に、すすり泣く声があちこちから聞こえてきた。
 炉前のお焼香をどうにか済ませて後方へ退がった私も涙を催した。
 壁際に立ち、瞑目しながら思った。
「観音も地蔵も泣く。
 もし、不動なかりせば……」

 古来、仏教は四摂法(シショウボウ)を重んじてきた。

1 布施(フセ):施すこと。分かち合うこと。
2 愛語(アイゴ):思いやりのある言葉づかい。相手を傷つけず、相手の心に響く言葉づかい。
3 利行(リギョウ):相手のためになること。十善戒の実践。
4 同事(ドウジ):誰にでも平等に接すること。周囲の状況を理解し、調和を壊さないようにふるまうこと。

 これは、集団の中で生きる人間としての基本的ふるまい方であると同時に、集団がまとまり、互いを生かし合うよき集団になるための方法でもある。
 人間が霊性をはたらかせ、この世が極楽へ近づくための方法である。
 その中心となっているのは他者への思いやりであり、思いやりは他者の気持になるところから生まれる。

 思いやりの権化(ゴンゲ…形をとって現れたもの)を菩薩(ボサツ)と言う。
 観音菩薩などは思いやる余り、人間や獣や食べものなど、何ものにも変化(ヘンゲ…変身)してくださる。
 地蔵菩薩などは思いやる余り、身代わりにまでなってくださる。
 いずれも、困っている者、苦しんでいる者、悲しんでいる者、悩んでいる者、淋しい者、辛い者の気持になればこその思いやりであり、変化であり、身代わりである。
 泣かぬはずがあろうか。
 呻かぬはずがあろうか。
 苦しまぬはずがあろうか。
 文殊菩薩にも負けぬほどの悟りと神通力を持った維摩居士(ユイマコジ)が体調を崩して寝込んだ時、「あなたほどのお方がなぜ、病気になどなるのですか?」と質問され、「衆生(シュジョウ)が病気で苦しんでいるから、私も病気になるのだ」と応えている。
 菩薩が私たちの身近でお救いくださるとはこういうことであろう。
 まず、気持を同じくし、思いやり、そして、自己中心ではない智慧のはたらきから生まれる救済の方法を実践する。

 私たちの心には菩薩がおられる。
 他者を思いやる思いそのものに流され、負けてしまいかねない者を奮い立たせるための不動明王もおられる。
 不動明王は、菩薩になりきれず自己中心で自他を苦しめ続ける者を目覚めさせもする。
 そして、如来(ニョライ)は慈光の光源であり、智慧の泉であろう。

 誰かのために泣けてくる時は泣いて菩薩になろう。
 そして気持が負けそうな時は、不動明王へ祈ろう。
 慈悲と救済の慈救呪(ジクジュ)を唱えよう。
「のうまく さんまんだ ばざらだん せんだ まかろしゃだ そわたや うん たらた かんまん」
 南無観世音菩薩。
 南無地蔵菩薩。
 南無不動明王。
 南無大日如来。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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