コラム

 公開日: 2014-09-11 

『多毛留(タケル)』、席を譲った中国人、二つの真理

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





1 不戦堂へのご意見

 当山の「平成の不戦堂を建立し、祈り、不戦日本を貫きましょう」という呼びかけに対して、さっそく、ありがたいご指摘をいただいた。

「それでは、誰が日本を守るのか。
 例えば中国が、韓国が日本領土に侵入してきたらどうするのか?
 米国に頼むのか、等々。
 嫌なことは他人任せで、きれいごとに過ぎるのではないのか。」

2 『多毛留(タケル)』のこと

 故米倉斉加年(ヨネクラマサカネ)が昭和51年に出版し、翌年、ボローニア国際児童図書展グラフィック大賞を受賞した絵本に『多毛留(タケル)』がある。
 平成24年には第43刷となっている。

 多毛留(タケル)は、海の向こうから流れ着いた娘と漁師の間に生まれた。
 ある日、15才になった多毛留(タケル)は、母親と同じように流れ着き、ようやく助けられた二人へ「百済人(クダラジン)!」と叫びながら襲いかかろうとする父親阿羅志(アラシ)を、とっさに殺してしまう。
 そして、かつて父親がそうしていたように、「遠くの方をばじっと見るようになった」という。

 なぜ、この作品が国際的コンクールで大賞に選ばれたか?
 井上ひさしは生前、こう絶賛していた。
「細密巧緻な彼の絵が常に立ちのぼらせているこの怪しい雰囲気は私の魂を人界の外へ吹き飛ばしてしまう」
 そして、氏が言うように、文章も又「簡にして潔、読む者の胸を抉(エグ)る」みごとなものだが、審査員たちは、飛び抜けた表現を可能にした深い視点にもうたれたのではなろうか。

3 席を譲った中国人のこと

 東北大学名誉教授川添良幸氏は、「宮城社交飲食新聞MSA」9月号へ「大震災は我々に歴史問題を正しく理解するチャンスを与えた」と題する随想を寄稿した。
 その中の文章である。

「公共交通機関が混雑しているのに、荷物を座席において広く占拠して平気な若者が増えました。
 情けないことです。
 7月末に北京に行った時、タクシーは渋滞で時間がかかるからと友人と地下鉄に乗ってびっくり。
 若い中国人がニコニコと私に席を譲ってくれたのです。
 我が国は先進国、皆平等を信じてきた世界が急激に変わっています。
 発展途上国とさげすんではいけません。
 我々も東京オリンピック前はやたらとクラクションを鳴らしていたのです。」

4 二つの真理

 上記の二つは共に、自分、あるいは自分たちの心に巣くうものを観る視点があってこそ、書かれた。
 情報社会に溢れる「あいつら!」という雰囲気を超えているからこその気づきである。

 もとより、当山は不戦を主張するからといって、武力無用、自衛隊不要などと主張するものではない。
 日々、警戒を怠らぬ自衛隊をはじめとする関係者の方々の献身的な姿勢に深く感謝し、敬意をはらっており、おりおりに当山へ足をはこばれる関係者の方々もおられる。
 万が一、他国が日本の領土へ踏み込んできたなら、若い人だけを死なせるつもりはない。
 今般の決意の表明を重陽(チョウヨウ)すなわち、「菊の節句」としたことには、ご英霊のご遺骨が埋もれたまま崩れ去ろうとしている沖縄の洞窟で祈り、涙した者としての思いが込められている。

 私たちは普段、昨日の自分と今日の自分とは膨大な細胞が入れ替わって同じ肉体でなく、骨格も血液も体温も呼吸も精神のはたらきも整い、たまたま今日も生きていられるだけの危うい存在であることを忘れ、「昨日の自分は当然、今日の自分であり、今日の友人は変わらず明日も友人である」と思いつつ暮らしている。
 しかし、何か極まりへと追いつめられるようなできごとが起これば、日常生活的感覚や前提だけでは対応し切れなくなる。
 その時、非日常的次元が現出する、あるいは、そこを観ないと立ち上がられなくなる。
 空(クウ)が観えるのである。
 お釈迦様もお大師様も〈観ている者〉として、極まった人々を観える所へ誘い、救われた。
 空(クウ)という真理の満月はその時、急に出現するわけではない。
 大風が吹き、覆い隠していた雲が晴れただけのことである。
 大風が吹かなくても、覆われたままでも、満月はある。

 昨日の自分が行った約束を今日も同じ(と厳密な意味では錯覚している)自分が果たすことは正しい。
 これを世俗諦(セゾクタイ)すなわち、世俗的真理という。
 お互いが一瞬後にこの世を去りかねない空(クウ)なる存在であると観るのは、心の満月に照らされていることであり、不変の真理に立っている。
 これを勝義諦(ショウギタイ)すなわち、より勝れた真理という。

 人はすべて、世俗内で生きる。
 持ち場なり、立場なりに、時に応じ、ことに応じ、相手に応じて世俗諦をもって誠意を尽くすのは当然である。
 同時に、勝義諦にも気づいて生きていれば、誠意に潤いや深みが加わるだけでなく、思いもかけぬ事態に立ち至った時、崩れず、誤らない。
 また、見聞きするものの中から真に大切なものを選び取り、空気や思惑に流されない。
 ぬるい五右衛門風呂へ入れられたカエルが気分良くしているうちに、湯加減がだんだん危険なレベルに達してきても気づかず、死んでしまうといった哀れな最期を避けられもするだろう。

 当山の不戦堂は、勝義諦に気づき、勝義諦を忘れないための場としたい。
 決して世俗諦を否定するものではない。
 寺院も僧侶も世俗内存在である。
 弘法大師は、日本中の誰もがなしえなかった満濃池の改修に取りかかった際、当時にあって最高レベルの科学的技術による指導を行い、かつ、〈現場〉で、仏天のご加護を祈る護摩法に専念された。
 当山も皆さんと共に、世俗諦によって誠意を尽くし、かつ、勝義諦に立って進みたい。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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