コラム

 公開日: 2014-09-28 

ご利益のあるお地蔵様とないお地蔵様の話 ―宇野浩二著『地蔵様の村』―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 今から約一世紀前、宇野浩二は『地蔵様の村』を書きました。
 
 150年ほど前、村へひょっこり現れた年老いた僧侶が二体のお地蔵様を建立しました。

「私(ワシ)は国々に二体づつの地蔵様をもって歩いているものじゃが、この村にも持って来た。
 この東の山の上と、西の野原とに一つづつ据えておいたから、お前たち勝手に信心するがいい。」

 そして、不思議なことを言い添えました。

「ところが、一つは聞く地蔵様、一つは聞かぬ地蔵様、つまり少々無理なことでも願をかけると、きっとかなえて下さるのと、願をかけても、めったに聞き届けて下さらないとの違いじゃ。
 一寸(チョット)考えると、聞かぬ地蔵様に参るのなぞは馬鹿々々しい、聞く地蔵様に参る方がいいと、みんなは思うかも知れないが、それはどうも、そうばかりは一概に言えないのじゃ。
 私は実はもう三百幾(イク)つになる老人じゃが、私も初めのうちは聞かぬ地蔵様よりも、聞く地蔵様の方がいいと思っていたんだが、これは仏様のお言い付けで、仕様がないから、どこでもこの二つの地蔵様を据えて歩いているのじゃ。
 ところが、この二百年以来、私もだんだん聞く地蔵様より、聞かぬ地蔵様の方へ熱心に参る方がよいということを知り出したので、こうして、二つづつ据えて廻ってはいるが、聞かぬ地蔵様はお参りしよいように、野原へ置いて、聞く地蔵様をお参りしにくいように、山へ置くことにしているんじゃが、どうもやっぱりどこへ行っても、誰でも、聞く地蔵様の方が好きと見えて、その方が繁昌(ハンジョウ)して困るのじゃ。
 ……私の言うことはこれだけじゃ。」

 西の野原に建てられた「聞かぬ地蔵様」へは道がつけられ、東の山に建てられた「聞く地蔵様」へは道もありませんでした。
 ところが、ご利益のあるお地蔵様のおられる山へは村人がこぞってお詣りするので、いつしか立派な参道ができ、野原へは誰も行かなかったので、50年もすると、道は草に埋もれてしまいました。

 さて、たくさんのご利益を受けた村人たちは誰しもが健康でお金持になりました。
 そして、思わぬ心が起こりました。

「人々は余り丈夫で、余り仕合わせで、それに皆々もう十分お金持ちでもあったものですから、毎日額(ヒタイ)に汗水たらして働く必要がなくなりましたので、次第々々に退屈になって来ました。
 余り退屈になって来ますと、悪いことでも、善いことでも、何でもかまわないから、何か目の覚めるような事件が起ってほしいと待つようになりました。
 それに人間というものは、それぞれ仕合わせで、金持ちになってしまうと、どんな人でも、誰よりも仕合わせになりたいとか、誰よりも金持ちになりたいとか、始終一段上を、一段上をと望むようになるものです。
 そこで、村の人は、言わず語らずのうちに、誰も彼もみんな山の地蔵様に出かけて、『私が一番金持ちになりますように、私が一番仕合わせになりますように、』と願うようになりました。
 すると、聞く地蔵様はそれぞれ誰の願も聞き届けるのですから、誰も彼も村中で一番の金持ちで、そして一番の仕合わせものになりました。そして又三十年も、五十年もの日がたちました。」

 この頃になると、もう、まじめにはたらく人はいません。
 では、めでたし、めでたしとなったかと言えば、そうではなく、人々は、誰もが自分と同じように幸せであることに耐えられなくなり、さらに競争心が高まり、ストレスはついに、とんでもない願いを起こさせます。

「どうか私の鄰の家の人たちがみんな病気になりますように、又私の向いの家が急に貧乏しますように、地蔵様、どうぞお願い申します。」

 病気になり、貧乏になった祈りの〝被害者〟たちは、自分だけが不幸になったことに耐えられず、周囲の人々の不幸を祈りました。
 悪しき願掛けが蔓延した結果、病人と貧乏人ばかりの村へは近づく人もなくなり、村の様相は一変したのです。
 それぞれ生活に困難を抱えた人々は、身体に無理をかけながら、昔のようにはたらき始めました。
 それでも、「聞く地蔵様」へのお詣りは欠かしませんでした。

 ある日、村へ、ひょっこり、年老いた僧侶が現れました。
 もちろん、村人の誰も、この僧侶が〝あの僧侶〟であることは知りません。
 
「もうお前たちもいいかげんに欲張ることを止めて、聞く地蔵様の方へは少し足を絶って、聞かぬ地蔵様の方に参ったらいいだろう」
「百年の間、お前たちの内で、誰一人野原の方の地蔵様に参るものがなかったので、せっかく私が附けておいた路も何もなくなってしまった。
 今、私が行って、改めて路を開いておいて来てやった。
 聞く地蔵様の方は、あの時も私が言ったように、めったに参っちゃいけないと思ったので、わざと路を附けずにおいたのに、お前たちであんな立派な路をつけてしまったが、今日から当分あの山の方の地蔵様は止めて、野原の地蔵様の方に参るがいい。
 そして、あの山の地蔵様の路にすっかり草が生えて、あの路がすっかりなくなってしまった時分には、又むかしのように、多分お前たちは仕合わせになれるだろうから……。」

 村人の目に、「聞かぬ地蔵様」のもとへ伸びる道がうつりました。

「しかし、聞かぬ地蔵様には何と祈りましょう?
 人々は何と祈っていいのか分からないものですから、無論もう人を呪う願をかける訳にも行かず、と言って自分たちの欲張った願いをしても無駄な訳ですから、唯だその地蔵様の前に行っては、何にも願うことなしに、ただ拝んで帰って来ました。
 そして働かなければなりませんから、男も女も、朝から晩まで働きました。
 そして朝か晩かの暇な時に、一寸(チョット)野原の地蔵様のところへ行っては、ただ何にもお願いしないで拝んでは帰って来ました。
 そして、もう誰も、恐いものですから、あの山の地蔵様にはお参りしなくなりました。」

 やがて、僧侶の預言どおり、村はだんだん「仕合わせな、平和な村」として甦りました。

 この物語は昭和2年に発行された童話集に載っています。
・私たちの欲には限りがないこと。
・欲しいものがあれば、はたらかなくなること。
・他人の幸せを本心から喜べず、疎ましく感じる心があること。
・私たちは善き願いだけでなく、悪しき願いもかけてしまうこと。
・自分の不幸を誰かに移したくなること。
・無心に手を合わせる敬虔な気持を忘れず、自分の分を尽くせば自他へ真の幸せをもたらすこと。
・お地蔵様は、ご利益がどうであるかにかかわらず、いつも私たちを見ているくださること。
・常々は感謝と謙虚な気持を持ってお地蔵様へ手を合わせ、いざという時にこそ、願いをかけること。
 今から約90年前の子供たちは、こうした学びに満ちた童話を読んでいました。
 いつの時代も、子供たちへ〈与えるべきもの〉を与えたいものです。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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