コラム

 公開日: 2014-10-14 

一代墓は先祖供養の否定か? ―村上春樹のエルサレムスピーチ『壁と卵』を考える―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 ブログ「この世で生きた証(アカシ)に一代墓(イチダイボ)を建てませんか」を読んだAさんから交流サイトへ感想が届きました。

「夫婦、友達同士、なんかいいですね。
 道祖神のような男、女が仲良く彫られてるようなのも、なんかいい~。
 生きてきた証ですよね。」

 ぜひ、こうした自由な発想でお墓を造っていただきたいものです。

 病身を書道にかけているBさんからのお便りです。

「私はあまり長生きできません。
 気に入った自分の作品を気に入った石に彫っておきたいと思います。
 建てさせていただけますか?」

 ぜひ一代墓を建て、生前から、ご自身の、あるいはお仲間のよりどころ、交流の場にしていただきたいものです。

 ご来山された墓石業者様Cさんから嘆息が漏れました。

「先祖供養のベースだったお墓が『要らない』の大合唱になるとは、日本人の心はどこへ行ってしまうんでしょうね。
 住職の一代墓もNHKさんが報じた〈墓じまい〉と似てはいませんか?」

 ご説明申しあげました。
 一代墓は決して先祖供養の否定ではありません。
 お墓というものへの間口を広げようとするものです。

「そうか、こうして自分の死後へ遺志が残せるのか」
 新たな発見が、新たな〈死後の未来〉をイメージさせます。
 そして、家族であれ、知人であれ、他人であれ、自由にお詣りできる墓地のお墓を目にすることにより、人の思い、志、多様さを感じた方々が、ご自身の〈死後の未来〉を考えるきっかけになれば、情操が深まり、生き方にも必ずよき変化が生ずることでしょう。
 お釈迦様は、はっきりと説かれました。
 「死後は無になると考えれば、それは迷妄である」
 この教えには二つの依って立つ道理があります。
 一つは、原因には必ず結果が伴い、それは、自分という一人の人間が死のうと生きようと、ずっと続いて途切れないこと。
 もう一つには、〈現在〉をもたらした原因は〈過去〉にしかなく、自分が特定の人間として生まれた原因は過去世にあり、過去世、現在世、来世のつながりは途切れないこと。

 もちろん、死後の有無は別にして、自分の死後には何も残したくないとお考えの方々もおられます。
 そうした方々は、そうされればよいだけであり、当山はそうした願いを否定するものではありません。
 起こりつつある「お墓は要らない」という大合唱の中でなお、生きた証を考え、何とかならないかと悩む方々へも手を差し伸べさせていただきたいという一心なのです。
 み仏のお力には〈救い漏れ〉がないからこそ凡夫とは違う存在であり、み仏のお慈悲を忖度すれば、見捨てられるべき〈少数派〉という区別、差別はあり得ません。

 とても興味深く、忘れられないできごとがあります。
 平成24年2月、エルサレム賞を授賞した作家の村上春樹氏は、イスラエル軍がガザに侵攻しており受賞を辞退すべきであるとの糾弾をものともせず、エルサレムへ出向き、受賞スピーチを行いました。
 その一部です。

「1つのとても個人的なメッセージをお伝えすることをお許しください。
 それは、私がフィクションを書いているときに、常に心に留めていることなのです。
 紙に書いて壁に貼り付けるようなことはしたことがありません。
 むしろ、それは、私の精神の壁に刻印されているのです。よろしいですか。
 『高く、堅い壁と、それに当たって砕ける卵があれば、私は常に卵の側に立つ』
 しかも、たとえ壁がどんなに正しくて、卵がどんなに間違っていようとも、私は卵の側に立つのです。」

「こんなふうに考えてみてください。
 私たちのそれぞれが、多かれ少なかれ、1個の卵なのだと。
 私たちのそれぞれは、脆い殻の中に閉じ込められた、ユニークでかけがえのない魂です。
 これは、私にとっても当てはまりますし、皆さん方のそれぞれにとってもあてはまります。
 そして、私たちそれぞれは、程度の差こそあれ、高く堅い壁に直面しているのです。
 壁には名前があります。
 『システム』です。
 システムは、私たちを守るべきものです。
 しかし、時には、それ自身が生命を帯び、私たちを殺し、私たちに他者を殺させることがあります。
 冷たく、効率的に、システマティックに。」

「私が小説を書く理由は1つだけです。
 それは、個人の魂の尊厳を外側に持ってきて、光を当てることです。
 物語の目的は、警鐘を鳴らし、システムがその網の中に私たちの魂を絡めとり、損なうことがないように、システムに光を照射し続けることです。」

「本日、私が皆様にお伝えしたいことが1つだけあります。
 私たちは皆人間であり、国籍や人種や宗教を超えた個人であり、システムと呼ばれる堅い壁に直面した脆い卵なのです。
 どう見ても勝ち目はありません。
 壁はあまりに高く、あまりに強固で、あまりに冷たいからです。
 少しでも勝ち目があるとすればそれは、それは、私たちが、自分自身と他者の魂の完全な唯一性とかけがえのなさを信じることと、皆の魂を1つにすることによって得られる温もりから得られるに違いありません。」

「このことについて、少し考えてみてください。
 私たちのそれぞれが、触れられる、生きている魂をもっています。
 システムは、そういうものではありません。
 システムが、私たちを利用するのを許してはいけません。
 システムが、それ自体生命を帯びるのを許してはいけません。
 システムが私たちを作ったのではありません。
 私たちがシステムを作ったのです。」

 引用が長くなりましたが、氏の言う、「システム」を少々ずらし、「世論」や「風潮」と言い換えてみると、当山がこのタイミングで一代墓を強く打ち出した意味もおわかりいただけようかと思います。
 氏の言い方を変えればこうなります。
「世論や風潮に利用されないようにしましょう。
 世論や風潮それ自体生命を帯びるのを許さないようにしましょう。
 世論や風潮によって私たちの考え方が出来上がったのではありません。
 私たちの考え方が世論や風潮を作ったのです。」

 かつては托鉢で氏の言う〈卵〉を実感し、墓石が豪華になってゆく時代に、共同墓『法楽の礎』を造りました。
 今は人生相談で〈卵〉を実感し、共同墓『法楽の礎』および『自然墓』にも、一般墓『法楽の苑』にもたくさんのご縁をいただきつつ、あえて、一代墓も提案しました。
 当山は、お一人で、あるいはご夫婦で、あるいは親子で、あるいは友人同士でも、生きた証を考える〈卵〉の方々へ一代墓の場を提供しないではいられません。
 当然、一代墓は先祖供養を否定するものではありません。
 そのことについては、また、お会いした時に申しあげましょう。
 
 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

この記事を書いたプロ

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遠藤龍地

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