コラム

 公開日: 2014-10-15 

問いかけるチベットの亡き巡礼者 ―人間の尊厳を否定するものへの直視―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 妻の方へ横向きになり、右側を下にして眠っていた。
 左耳の斜め後ろから「ターチャ!]と呼ぶ年配女性の声がした。
 亡き母かと思った。
 母は死ぬまで私を「たんちゃん」と呼んでいたからだ。
 でも、どことなく声が違う。
 続いて、両腿の後側を大きな風船のようなもので強く押され、首だけを後へ回しながら声にならぬ声で「誰だ!」と叫んだ。
 膝はもうだいぶ前から酷く、ようやく五体投地を続けているのに、グッと押されても痛くはない。
 はっきりと開いた両眼は、あるはずのない明かりを見た。
 居間との間にある扉が少し開き、微かな明かりが漏れている。
 視線の先に中年女性の顔が浮かんだ。
 赤黒く黒髪で埃にまみれている。
 細くなった眼の視線は宙を睨み、ほとんど死相である。
 顔は、こぼれている明かりの中へすうっと移動して消えた。
 消え去らぬうちに、同じような顔が浮かび、同じコースをたどって消え、それがもう一度、繰り返された。
 後の二人の顔つきは最初の人ほど鮮明ではないが、同族であろうとは思えた。

 母ではない。
 ターチャは、タチアナだったのか?
 ふと、思いつき、凝然として動けなくなった。
 以前、野町和嘉氏の写真集『地球巡礼』で出会ったチベット女性であると思い当たったからだ。
 チベットの聖地ラサを目ざして五体投地を繰り返し、芋虫のような動きで1800キロの道のりを進む巡礼者に、異次元の聖性を突きつけられ、身動きできなくなったことをありありと思い出した。
 彼女は亡くなられたのか?
 同じような巡礼者たちが次々と亡くなっておられるのか?
 宗教弾圧で殺されたのか?
 それとも、中国政府によって観光地化され、莫大な入場料を集められるだけの見せ物と堕したポタラ宮を目指せなくなった方々の怨みなのか?
 亡くなっておられるであろう彼女たちは、いかなるメッセージを託そうとして現れたのか?

 やはり、当山の「不戦」の祈りに感応されたのだろう。
 不戦は、戦争という行為そのものを問題とするだけではない。
 戦争による人間の尊厳の否定こそが許されざる行為であり、そのことをこそ畏れねばならない。
 人間から聖性を奪う尊厳の否定は、チベットにおいて、もはや日常と化している。
 しかし、国土を奪われ、100万人以上が殺され、文化も言葉も宗教も破壊されたチベットをもう、世界のほとんどが見向きもしない。
 日本の国会では、いつ、誰が、隣国で行われている人権蹂躙に対して問題提起を行ったのだろう。
 発展する中国経済の恩恵に与ろうとして、揉み手をする人々ばかりである。
 想像してみよう。
 チベットの首都ラサにおいては、正月の重大な行事である祈祷会モンラムを観光用に使おうとする中国政府に反発するチベット人たちが中止してから20年以上も経つ。
 もしも、日本でお正月に行うお宮参りができなくなり、お盆やお彼岸の宗教行為もできなくなったなら、私たちの心はどうなることか。
 中国では、キリスト教の教会を示す屋根の十字架が一夜のうちに当局によって引きずり下ろされるなどの蛮行が相継ぎ、信徒たちは当局の目に怯えながら地下教会で祈るようになりつつある。
 彼らの心を想像すると、同じ祈る者として、あまりの哀れさと自分の無力さに力が抜けてしまいそうになる。

 不戦の祈りは、人間の尊厳を否定する悪しき心を直視する祈りでもあらねばならない。
 尊厳の否定は人間が人間たる聖性の否定であり、ひいては仏神の否定でもあればこそ、気づく心に畏れが生じる。
 畏れという感覚を失った文化は恐ろしい。

 ターチャはタチアナカか?
 わからない。
 眠れぬ一夜となった。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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