コラム

 公開日: 2014-10-16 

一代墓は先祖供養の否定をするものではありません ―落とし文とガンジー―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 ブログ「一代墓は先祖供養の否定か?」にひき続き、一代墓(イチダイボ)が先祖供養の否定でないことについてお話ししましょう。

 日本古来の情報伝達法に「落とし文(ブミ)」があります。
 思いを寄せ合いながらも浮世の事情により、隠れて花を咲かせるしかない男女が、寺院や神社の境内などのしかるべき場所へ手紙をそっと落とすように置き、意志を通じ合おうとするものです。
 風雨による破損、喪失や、他人による思わぬ発見、露見などの危険性を孕みながらも、つながって行こうとする心を想像する時、二人の間でいかに深く、熱く、かつ細やかな情感が育っていたか、また、仏神へ祈るしかない切なさがいかなるものであったか、想像するとほとんど憧れに近い気持になります。
 落とし文にはもっと広い意味もあり、「大辞林」は以下のように示しています。
①公然とは言えないことを文書にして落としておくもの。落書(らくしよ)。 「物によせて歌を作りて-にし侍れば/筑波問答」
②江戸時代,火付けなどの脅迫文を書いて家に投げ込んだ文書。捨て文。
③オトシブミ科の甲虫。体長8ミリメートル 内外。首が細長く,前胸部は三角形。体は黒く,上ばねは赤い。広葉樹の葉を巻いて巣を作り,中に産卵する。シベリアから日本にかけて分布。ナミオトシブミ。 [季] 夏。 《 -ゆるく巻きたるもの悲し /山口青邨 》 〔巣の形が巻き紙に似ているとして「ホトトギスの落とし文」などといわれたことから転じた名〕

 東日本大震災の後、岩沼市にある「岩沼民話の会・語りっこ岩沼」が、ご近所さんから体験談を聞き書きし、A5版の文集三冊にまとめて「おとしふみ」と名づけました。
 その第一集の前書きです。
「新緑の時期に、広葉樹の野山などを散策していると、『落とし文』の様な筒状に巻かれた葉が落ちていることがある。
 この『落とし文』をせっせと作って路面に落とすのがオトシブミ科の昆虫である。
 江戸時代に他人に知られないように、そっと手紙を道端に落とし、他人に渡したという。
 私たちは、たくさんの人々の震災の体験を、後世の人々に伝えたいと思い、そっと『落とし文』をいたします。」
 80才になるリーダー親子から珠玉のような文集をいただいた時、頭を上げられない思いになりました。

 その二年後、高校で同期の仲間と文集『おとしぶみ』を作りました。
 もうすぐ70才になろうとする今、このまま消えて行きたいと願う人がいる一方で、言い遺したい思いを持つ人もおり、後者の面々が「落とし文をしておこう」ということになったのです。
 亡き後に読まれるかどうかわからないものでよい、そっと言い遺そうという趣旨でした。

 さて、前段が長くなりましたが、一代墓もまた一種の〈落とし文〉ではないかと考えています。
 この世に生きた証(アカシ)を人知れぬ墓地の片隅にそっと残すこと、この奥ゆかしさと、慌ただしく、切り貼りされるモザイクのような〈今〉だけでない死後の未来にも通じる時間の流れに身を委ねるゆったりした心は、私たちの文化の奧にある大切な何ものかと通底しているのではないでしょうか。
 また、自由に墓地へ足を運び、そうした〈落とし文〉たちへ目をやる人々は、それぞれの墓地に込められた知人、あるいは見知らぬ人の思いを感じる時、やはり、心に大切な何ものかが静かに兆(キザ)すのではないでしょうか。
 そして、こうした時間の中にある経験は、〈今〉が決して単独で存在しているのではなく、〈過去〉と〈未来〉とを含むものであり、私たちのいのちも心もそうした存在であるという真実に気づくきっかけとなることでしょう。

 私たちは功利的思考に慣れています。
 役に立つか立たないか、損か得か、といった判断形態です。
 もちろん、こうした思考は現実に生きて行く上で欠かせぬものですが、すべてのものへその物差しをサッと当てるだけでは、深い価値判断をせぬままに、真の価値があるものを、回転寿司の台へ乗せるように意識の外へ追いやってしまう虞(オソレ)があります。
 あけすけに言ってしまえば、楽をしてお金をかけずに何ごともやり過ごすだけの生き方は心を磨かず深めず高めず、大切なものを受け嗣ぎ、引き渡す機会を失うのではないかということです。
 それでは、魂の底から湧きあがる共鳴、共感に震えることもなく、自分もそうありたいという憧憬や、それにかけたいという志望に熱く燃えることもない、薄っぺらな人生になりかねません。

 真の価値は必ず時間との関係を持っています。
 たとえば、ノーベル物理学賞を受賞した赤崎勇教授(85才)は、窒化ガリウム結晶の研究に着手してから受賞まで41年かかっています。
 ノーベル文学賞を受賞したフランス人パトリック・モディアノ氏(69才)の受賞理由にはこう書かれています。
「記憶を扱う芸術的手法によって、最もつかみがたい種類の人間の運命について思い起こさせ、占領下の生活、世界観を掘り起こした」
 また、戒名について人生相談に訪れる方のほぼ100パーセントが、祈りの伴った意義と、祈りの現場におけるさまざまな事実に接して、こう言われます。
「初めて聞きました」「初めて知りました」
 もちろん、当山では、結果として戒名をお求めになるかならないかは100パーセント自由意志にお任せし、戒名でも俗名でも一切のわけへだてなく修法しますが、質疑応答のたびに、対話の大切さを実感させられます。
 それは、戒名として私たちへ過去から与えられている文化的価値を有するものに具わった時間と心の集積を感じとっていただけるからです。
 感じとることは現場でしか、あるいは現場に携わる人の声を通してしか、なかなか、叶いません。
 紅葉についてテレビの説明を観るよりも、眺めにでかけることです。
 ラーメンの旨さについての番付を調べるよりも、食べてみることです。
 真の価値は手軽につかめないのです。

 お墓はまぎれもなく、先に逝った御霊との交感を行う聖地であり、あの世のより所であり、思いを遺す場です。
 仏教的には、空(クウ)や無常を考え、供養と感謝という人生修行を行う場として、先に逝かれた方々が造り伝えてくださった聖地です。
 ガンジーは説かれました。
「人間には果たすべき役割があり、それを実践する場としてこそ、人生を生きているそれぞれの場所がある」
 家にあっても、会社にあっても、地域にあっても役割があり、それを果たすことによって、家にも会社にも地域にも真の意義が生じ、生きている実感も喜びも得られます。
 人生の行く末を考え、あるいは締めくくろうとする時、功利的思考を離れ、世論や風潮に流されて思考停止せず、「お墓とはいかなる場なのか……」と立ち止まる必要があるのではないでしょうか。
 その先にこそ、永代に守るお墓、あるいは共同墓、自然墓、そして一代墓といったその方なりの人生観を真に反映する決断が生じることでしょう。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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