コラム

 公開日: 2014-11-06 

死で終わる哲学から、よき生を繰り返す宗教へ ―この世を脱するか、この世へ戻るか―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈膨大なお塔婆に込められた善男善女の尊いお心に圧倒される思いでペット霊園『やすらぎ』さんの供養会を行いました〉

 前回、ブログ『輪廻(リンネ)思想は仏教の根幹』へ、「輪廻からの脱却を目的とするからこそ仏教の修行は成立しており、輪廻を意識しない出家者つまり、僧侶もあり得ない。」と書いた。
 問題意識は、「自分の中にあるつまらぬ考え方や悪しき欲望や愚かしい発言や行動、そして、傷つけ、騙し、殺し合い、自分勝手に生きる人間が構成する社会の様相は、〈これが永遠に繰り返される〉と思えば、限りなく恐ろしい。」というところにある。
 そして、お釈迦様は、輪廻から解かれ脱すること、すなわち解脱(ゲダツ)を目指して修行し、成功して仏陀(ブッダ…悟った者)となられた。
 だから、釈迦如来となったお釈迦様は再び、この世へ戻っては来られない。
 優れた弟子たちもまた、望みどおりに〈愚かしい自分〉から脱し、〈厭わしいこの世〉へ戻って来てはいないことだろう。
 現在もまた、同様に信じ、望み、実践している仏教徒がいて法灯は絶えない。

 さて、大乗仏教(ダイジョウブッキョウ)の行者である自分を省みると、お釈迦様の背中を追いながらも、相当に異なる道を歩んでいることを自覚せざるを得ない。
 宮元啓一博士が「歴史的に見れば、大乗経典というのは、ゴータマ・ブッダその人に源を発することのない、新たにこしらえたもの」であり、「『大乗非仏説』(大乗はゴータマ・ブッダが説いた教えとは無関係である)との、当然の批判が浴びせられました」と指摘したとおりである。
 では、お釈迦様が残されたナマの言葉と教えに近いとされる原始仏教(小乗仏教(ショウジョウブッキョウ))と、お釈迦様の入滅後300年ほどして起こってきた大乗仏教は、どう違うのか?

 博士は、著書「わかる仏教史」において大乗仏教の特徴を9つ挙げた。
 おおよそ、以下のとおりである。
1 超人的、超越的な仏菩薩(ブツボサツ)が衆生を救済する
2 無数の現在仏(ゲンザイブツ…現在、仏国土におられるみ仏)が衆生を救済する
3 悟りを開く途上の人々も菩薩とする
4 等しく仏性がある
5 在家者も仏教にかかわる
6 経典読誦などの功徳によって救われる
7 名号や真言を唱えて災厄を逃れる
8 無思考の瞑想で智慧が得られる
9 一足飛びに悟れる
 そして、「大乗仏教の起源につきましては、いまだにはっきりとした学問上の定説はありません」とした。
 おおまかには「救済主義的な民衆宗教として成功を収めつつあったヒンドゥー教にあこがれた仏教の在家信者たちが、同じような救済主義的民衆宗教としての、自分たちのための新しい宗教をつくろうとした」と見ている。

 博士のご見解には納得しつつも、今の時代に、ご縁の方々と共に仏法を実践している者として、四つほど、異なる点を述べておきたい。

1 大乗仏教の担い手は民衆でなく、卓越した能力を持ち優れた境地に達した仏教の天才的行者たちであり、そうした人々の感得した世界が新たな仏典として示され、その象徴として数多くのみ仏方が生まれたのではないか。
 経典を読誦し、祈っている者としては、民衆の〈作為〉ではなく、時代の空気を吸いながら修行する行者の霊性がもたらすイマジネーションこそが、新たなタイプの仏教を創造したと思える。

2 仏教に救いの可能性を感じる人々は、お釈迦様や高弟たちの「解脱」に憧れつつも、自分自身の問題として、解脱の内容である「不死(再び死なないこと)」と「不生(再び生まれないこと)」を望まなかったのではないか。
 二度とこの世に生まれないことは、ほとんど死のイメージと重なり、生きていられないほど追いつめられた特殊な状況でしか、明確なイメージとして望みきれない。
 一行者として生きている自分自身も、自分がそうした解脱の世界へ入るために修行し、ご縁の方々と接しているわけではない。
 悪しき因縁からは脱しなければならないが、理由は、それを放置したままで誰かのためになることなどできはしないからである。
 尊いお布施によって生きながらえることが許されないからである。
 因縁解脱の目的は決して自分の不死や不生にあるのではない。

3 行者であれ、民衆であれ真に望むこと、つまり仏教へ求めるものは自分が輪廻転生から脱して〈再び苦である生を得ない〉ことではなく、〈生きながら自分もこの世もよりよいものにする〉ことではなかったか。
 宮元啓一博士は説く。
「目覚めた人となったということは、当然ながら、根本的生存欲を断ち切ったということにほかなりませんから、ゴータマ・ブッダは、生きることに意味を見いださず、生きる意志をもたないという状況に入ったわけです。
 したがって、かれは、そのまま、朽ち木が倒れるように死んでいくはずでありました。」
 それでもお釈迦様は「みずからが体得した境地、その境地をもたらした智慧、さらにその智慧をもたらした修行法を、なんとかして人に伝えてみたいという気持もありました」という。
 そして梵天(ボンテン)に請われ、説法の旅を始めた。
 お釈迦様は博士が指摘するように、「慈悲というのは、それ自体が目的なのではなく、あくまでも、修行をよりすみやかに完成させるための手段であると、ゴータマ・ブッダは考え」て修行したのだろう。
 しかし、いつしか、慈悲は単なる手段ではなくなっていたのではないか?
 悟って苦を脱すること、しかし、それは自分だけの問題ではなく周囲の人々にも苦を脱してもらいたいこと、そして、〈共に苦を脱しようとする生き方〉にこそ、この世に生を承けた者としての究極的喜びがあること。
 お釈迦様が入滅してから3百年の年月は、人々へこうした方向を探求させ、たとえ悟りを開こうと自分だけが安寧(アンネイ)の仏界へ入ってしまわず、幾度でもこの世へ転生しながら万人を救いたいという菩薩のイメージに人間の理想像を発見したのではなかったか。
 この積極的なイメージが2千年の時をかけて育てられたのが現在の大乗仏教であり、私自身、現に仏教の行者でありながら〈再び苦である生を得ない〉ことを望まず、〈生きながら自分もこの世もよりよいものにする〉のみを望んでいる。

4 不死と不生である解脱を望まなくても、お釈迦様の説かれた仏教を信じ、修行することは可能であり、そこに、硬直したドグマから脱しにくい他の世界宗教と仏教との違いがある。
 お釈迦様が説かれた輪廻転生も因果応報もふまえつつ、大乗仏教の根幹をなす如来像思想も唯識哲学も中観哲学も成り立つ。
 この先、幾世紀か経つうちに、仏教はさらに深化し、発展するだろう。
 未来に生まれる行者も、信者も、その時代の空気を吸いながら、共に〈生きながら自分もこの世もよりよいものにする〉方向を目ざすことだろう。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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