コラム

 公開日: 2014-11-17 

戦争がないなら死んでもいいですよ ―鳴戸奈菜の世界―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 恐ろしい句に出会った。

「戦争がないなら死んでもいいですよ」(鳴戸奈菜)

 人は皆、死ぬ宿命にある。
 それなのに「死んでもいい」とは、死に対する主体性を持つということであり、宿命への挑戦である。
 普通に言い換えれば、「私は、戦争などで死にはしません」となる。
 さらりと読む限り、平凡な会話の一部が切り取られたかのようである。
 死も戦争も相手としては巨大過ぎて、表面的にはいささかドン・キホーテ的滑稽さすらあるこの句は、いわゆる〈名句〉には選ばれにくいかも知れない。
 しかし、数度、口の中で繰り返しているうちに、句の奧に屹立している容易ならぬ精神が姿を顕し、絶句する。

 凡人の考え方で言い換えず、このままに受けとめればどうなるか。
「戦争をなくすためならば、私はたった今、ここで死んでも、一向に構わない」
 NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』にも登場した備中高松城主清水宗治は、いかなる好条件を出されても官兵衛側に寝返らず、講和を条件に自決した。
 まさに、この一句はそうした世界をはらんでいる。
 しかもさり気なく、あまりにさり気なく……。
 さり気ないが故に、本気としか思えない。
 ――〈本気〉とは。
 口先の反戦思想と異次元のところにある魂の強靱さに凝然となった。

 仰天して、他の句を読んでみた。

「枯野出て枯野に入りぬちんどん屋」

 人生は人気(ヒトケ)の絶えた枯れ野を背景にどこからともなく表れ、いつの間にか枯れ野へ消えて行ってしまうチンドン屋ではないか。
 厚く化粧し、華やかで安っぽい鳴り物を抱えて賑やかしに懸命だが、チンチン、ドンドンという耳を刺激する音に伴っているのは哀感でしかない。
 本人の〈実態〉を隠し切ったチンドン屋は、そもそも、本人の〈実体〉など、すでになくしているのではなかろうか。
 まさに無常であり空(クウ)である。

「生涯を土手より眺む西日かな」

 西日のもの哀しさは、生老病死の四苦(シク)のうち、三つに関わっている。
 子供の頃、大病を患った私は、湿布の包帯でグルグル巻きにされたまま、じっと仰臥し、西側の障子が橙色になり、電灯が点される頃にはその向こうが漆黒に変わって行く様子を毎日、眺めていた。
 西日は病気と死に、あまりにも似つかわしい。
 そして、鳴戸奈菜氏は淡々と詠んだが、老いた眼は沈む夕日をなかなか追いきれない。

 一方、こうした句もある。

「冬うらら隣の墓が寄りかかる」

 托鉢行の途中で見かけた墓地では必ず手を合わせたが、当然のことながら、寂寥感に包まれつつの祈りだった。
 だから、自坊が墓地を用意できるようになったなら、いささかなりとも、和やかさや温かさが感じられるようにしたいものだと願うようになった。
 おかげで、当山の墓地『法楽の苑』では時折、「あまり淋しくありませんね」と言っていただける。
 空いたスペースでご家族がブルーシートを広げ、おにぎりなどを食べておられるのを見かけると、本当に嬉しい。
 だから、冬の寒気の中で陽光が射し、麗らかな温もりを感じる俳人には、お墓の縁で隣人となった魂同士もまた、温もりに優しい気持をうながされていると感じられたであろうことは、理解できる。 

「生きている人がたくさん初詣」

 自分も〈生きている人〉の一人である。
 自分も〈たくさん〉のうちの一人である。
 初詣という文化が持つ力と、人々の胸に流れる讃歌を見事にとらえきった。

 鳴戸奈菜氏は、昭和18年、現在の韓国ソウルに生まれた英米文学者である。
 ご生涯については知らない。
 ただ、あまりの透徹さと温かさに圧倒されるのみである。

 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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