コラム

 公開日: 2014-11-26 

高倉健が言った「人間のことを想う美しさ」はなぜ、私たちの心をとらえているのか?

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 高倉健の言葉が静かで大きな反響を巻き起こしている。

「人間が人間のことを想う、これ以上美しいものはない」

 それは、「美しいもの」が危うくなっている社会的状況のせいではないか。

 労働環境があまりにも無慈悲で、人間が人間扱いされなくなりつつあるのは厳然たる事実である。
 目の下にクマをつくり、憔悴しきって人生相談に訪れる若者たちの話を聞いていると、疑問がわいてくる。
 そもそも、人材派遣業という商売は社会正義上、許されるのだろうか?
 つい30年ほど前までは禁止されていた職業紹介業や労働者供給業がなぜ、大手を振って儲けてよいというきまりがつくられたのか?
 はたらき手と職場の間にはさまり恒常的に利益を上げる商売に漂う社会的不正義の匂いはもはや、誰も感じなくなったのか?
 これほど情報が共有され、職安も整備された時代に、いったい誰が、何のために、人材派遣業者を必要としているのか?
 今の仕組が正当なものならば、なぜ、これほど多くの人々が生活苦に喘ぎ、未来に希望を持てないでいるのか?
 
 国際労働機関(ILO)が昭和19年に行ったフィラデルフィア宣言の根本原則は以下の四つである。

(a) 労働は、商品ではない。
(b) 表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない。
(c) 一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。
(d) 欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ、労働者及び使用者の代表者が、政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。

 そして、平成11年には新しい世紀を迎えるにあたり、「21世紀におけるILOの目標」を掲げた。

「すべての人へのディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現」
 つまり、人間が行う労働はモノのような商品ではなく、国家社会は人間が労働を通じて人間らしく生きて行ける仕組みを探求すべきであり、欠乏や貧困に対しては国家社会が断固、解消をはからねばならない、ということではないか。
 これは自由競争や自己責任とはまったく異なる理念であり、国家社会はこれを実現すべきであるという国際的共通認識が表明されている。
 国連最初の専門機関であるILOはノーベル賞を受賞し、日本もアメリカも加盟している。

 それにもかかわらず、今や、労働市場は派遣業者に牛耳られ、労働はコンピューターで数値的に管理される〈商品〉となっている。
 人間は労働という〈性能〉のみが求められる機械と見なされている。
 若者たちの嘆きも不安も、その根源はここにある。
 今や日本の労働者の約3割、24才以下では約半分が、簡単に取り替えのきく非正規雇用である。
 ちなみに韓国では労働者の半数がすでに非正規雇用であり、このまま進めば、9割の労働者が非正規雇用のまま、生涯を終えるという。
 そんな韓国の人々には日本を敵視する雰囲気があり、日本の人々には韓国を蔑視する雰囲気がある。
 あまりに哀しく、虚しく、耐え難い。

 高倉健が言う「人間のことを想う」は、ただ「思い出す」といったことではない。
 ある人間の存在がいつも心に留まっており、それが「想う」という形で顕わになるたび、切なく、やるせなくなるという状態である。
 こうした情緒の活動は、情緒へ何かの形を与えさせないほど強い他の使命感や責務に生きる行動によって抑制される時、いっそう、輝きを増す。
 想いを胸に秘めたまま、口を真一文字に結んで死地へも赴く高倉健が演じた主人公たちの世界である。
 このあたりを知りたい方はまず、DVD『冬の華』を観られればよい。

 一方、使命感や責務を感じにくい労働環境と窮乏生活にあっては、情緒の高揚や深まりもなかなか得にくいのではないか。
 だから、哀しくも、冒頭の言葉が多くの人々の心をつかむのではないか。
 人間のことを想わない社会だからこそ、人々は真実をつきつけられ、ハッと我に返るのではないか。
 また、11月22日に起こった長野北部地震において死者が出なかったのは、互いを「想う」地域だったからではないか。
 当山はご葬儀後の法話でいつも、申しあげている。
「人は生きて人々のためになり、最後は死をもって周囲の人々を立ち止まらせ、人間にとって大切なことごとについて深く考える貴会を与えてくださいます」
 高倉健はまぎれもなく、私たちを立ち止まらせている。
 よく考え、ふり返り、「人間のことを想う」人になり、じっくり「人間のことを想う」ことのできる社会にしたいと、強く願う。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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