コラム

 公開日: 2014-12-01 

味方も天子、敵も天子 ―12月の聖語「空と忍耐について」―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈お焚きあげの不動堂と半月〉

  お大師様の言葉です。

「一切所聞(ショモン)の音はみなこれ陀羅尼(ダラニ…真言)なり。
 即ちこれ、諸仏説法の音なり」

(私たちが耳にする音はすべて、真言である。
 そっくりそのままに、み仏の説法である)

 私たちは耳で聞き、目で見て、心が動きます。
 自分にとってよい、悪い、あるいは苦しい、楽だ、などという反応がすぐさま、起こります。
 煩悩(ボンノウ)が動くのです。
 しかし、情報を受け取る心が仏心になっていれば、皆、み仏の教えであることに気づきます。
 誉めてくれる人だけでなく、厳しく叱ってくれる人の言葉も又、ありがたいだけではありません。
 守ってくださるみ仏も、害をもたらす敵もまた、ありがたいのです。

 出家してまもなく、師から教えられました。

「味方は守ってくれる天子なり。
 敵は鍛えてくれる天子なり」

 自分の立場に同調し、自分を守ってくれる味方はとてもありがたいものです。
 窮地に陥ったり、周囲から理解してもらえない状況になったりしている時は、友人や家族などに泣けるほど感謝してしまいます。
 このことは、娑婆で大失敗をやらかし、自分の愚かさや甘さに打ちのめされると同時に、世間の辛さも強く味わっていた頃なので、よくわかりました。
 しかし、敵の存在も重要であるとは、考えたことがありませんでした。
 自分を意図的に騙し、破滅させた人々に対する激しい気持はまだ、色濃く残っており、腰を落として考えました。
 もちろん、師が言わんとしてことは頭で理解できても、心の底からそう思えるまでは、月日を要しました。
 今では、以下経文についても、とても納得できます。

「この世に布施行の福田(フクデン…功徳を生む田んぼのようなもの)となる乞食はたくさんいるが、忍耐行のきっかけである危害をなす者は稀である」
「手に入れようと努力もしないのに、自宅に宝が湧き出たように、敵を自分の菩提行(ボダイギョウ…自己中心でないまっとうな人となるための修行)の味方として、好むべきである」

 私たちは、災害や事故や事件など、あるいは戦争やテロや伝染病や飢餓などによって苦しむ方々をたくさん、目にしては「大変だろうな」と思い、放置できない気持になり、何かをします。
 布施を行う機会はこの世に満ちあふれています。
 しかし、自分へ害を与える敵にはそうそう巡り会いません。
 普通はこうした生活環境、あるいは治安のよい国家であることを、安全でありがたいと考えますが、教えはかなり、そうした感覚と異なっています。
 与えられた害に苦しみ、耐え、相手を憎まず、利他(リタ…他のためになろうとする心)の心を保つための忍耐行を試し、負けないように鍛えてくれる相手は、まるで、稀にしか手に入らない宝もののようなものであることに気づかねばならないと説かれています。
 これはどういうことなのか?

 私たちのあらゆる苦しみは、この世の成り立ちが根本的に、原因と結果の連なりによる縁起(エンギ…あらゆるものが縁によってのみ、生じること)であり、すべてのものは空(クウ…独立した実体を持たず仮そめに存在していること)であることが腑に落ちていないところから生じています。
 好きな人に近づきたくて苦しみ、嫌いな人を遠ざけたくて苦しみ、財産や地位にしがみついて苦しみ、競争相手の没落や消滅を願って苦しみます。
 何もかもが〈ままならない〉のはすべて、空の真理から離れた執着心が主役になっているからです。

 仏教は、対象が空であると知れば、執着心も消えると説きます。
 空を説く般若心経はまさに、苦から脱した世界への最有力な導きとなる経典です。
 ところが、頭では「そうか」と理解しても、執着心を起こさせる対象が本体のない幻であるとはなかなか腑に落ちません。
 だから、味方も空、敵も空であることにおいて等しいと説く経典をよく読誦し、納得できるまで考えぬく必要があるのです。

 空の理を真に理解するためには、私たちを存在させるためのあらゆる縁となってくれている生きとし生けるもののありよう、すなわち、空なのに空に即して生きられず、苦しむありようを、ありのままに観る必要があります。
 ありのままに観る眼に映る友人も他人も、猫も犬も皆、等しく、自分と同じく〈ままならない〉生を生きている愛おしく哀しい同胞です。
 等しく、愛おしく哀しいと感じられれば、仏心が動いている証拠です。
 この気づきのためにこそ、忍耐が必要なのです。
 忍耐できなければ、いつまでたっても、気に入るものにのみ近づき、気に入らぬものは破壊したくなり、ついに、空の真理はわからず、煩悩のままに苦しみ、周囲へも苦しみを発生させたまま一生を過ごすしかありません。

 ここまで来れば、〈敵〉に感謝せねばならないのは明らかです。
 では、社会へ苦しみをもたらしている人を放置すべきかと言えば、そうではありません。
 そうした人は、悪業(アクゴウ…未来に悪しき結果をもたらす影響力)を積む哀れむべき人であり、本人のためにも、改善を強く迫るのは当然です。
 私たちは、人を憎むのではなく、慈悲心を持ち、人から悪を切り離す強い行動に出るためにも、忍耐力が欠かせないのです。
 もしも忍耐力がなければ、悪人を憎み、この世から除外したくなり、私たちの心には憎悪・嫌悪・闘争心・我欲などが居座ったままであり、空の真理にはたどり着けず、自他の苦しみはいつまでたっても解消されません。

 思えば、師は「天子」という言葉で、縁となる人々が等しく尊い存在であると説かれたのでしょう。
 そもそも天子とは、君主、国王、皇帝、天皇に対して用いる言葉であり、高校で聖徳太子の手紙を習いました。

「日出(イズ)る処(トコロ)の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙(ツツガ)なきや」

 そうそう、お釈迦様も説かれました。

「忍は行の尊」

(忍耐行は、あらゆる修行の中で最も尊い)
 出会う人々、生きとし生けるものに等しく感謝し、無言であっても〈天子の言葉〉を聞き、難しく、根本的な修行を続けたいものです。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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