コラム

 公開日: 2014-12-16 

人類に空爆のある雑煮かな ─東北関東大震災・被災の記(第159回)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈凍えず、凛として勁(ツヨ)き外の猫〉

 雲が垂れ、すっかり雪景色になりました。
 直前に行った福島市の青空が思い出されます。

 小高い丘の上にある新しい団地では、除染が行われていました。
 ものものしい服装の男性が6人、近くに大きな車を2台止め、小さな道路標識をあちこちと動かしながら、通路や側溝を相手に丹念な作業を続けています。
 目的のお宅に訪問してから小一時間が経ち、外へ出てみたら、まだ奮闘のまっ最中。
 いくらも進んでいません。
 一緒に外へ出たこの家の主Aさんは、ちょっと失礼、とタバコに火を付けました。
「いったい、何をやっているんでしょうね。
 私はちっとも構わないんですが……」
 大きく広がった青空を見上げ、転じた視線の先では吾妻連峰が悠然と人間の営みを見下ろしています。
「――そうですよね……」
〝あの山々の岩陰にも、草むらにも降りそそぎ、地表から沈み込みつつある微少なものたちは、何万年もこの世にとどまっている。
 その圧倒的な存在力の前で、人間のものものしい行為はいったい、どれほどの意味と価値があるのか?と、科学者Aさんは嗤っておられる。〟
 原発事故の被害者Aさんは、悠揚迫らぬ態度でタバコをふかしています。
 あくまでも部外者でしかない小生には口にすべき言葉がありませんでした。
 そして、冒頭の俳句を思い出しました。

「人類に空爆のある雑煮かな」

 私たちはもうすぐ、お雑煮にありつきます。
 恵まれた家庭でも、あるいは路上生活者のためのテントでも、私たちは熱いお雑煮を食べて新しい年がやってきたことを実感します。
 俳人関悦史氏は、そうした〈我が生〉の確認作業中にあって、遠く離れた異国で行われている空爆に思いを馳せました。
 襲う者と襲われる者、殺す者と殺される者、憎悪による取り返しのつかない破壊、人間の手によってつくり出されるあらゆる不条理が彼(カ)の地にはまぎれもなく〈在るはず〉なのです。

 東日本大震災で自宅が半壊した関悦史氏は、こうも詠んでいます。

「激震中ラジオが『明日は暖か』と」

 激震に見舞われ生死の境にいる思いの被災者とは無関係に、ラジオは明日の天気予報を流しています。
 今この時、地上に併存する自分の恐怖と、遙かな地にある長閑さ……。
 冒頭の俳句をひっくり返せば、こうなりましょうか。
「空爆中日本では熱々の雑煮」
 雨あられと降る爆弾の下で、日本通の誰かは焼かれつつ、雑煮の場面を想像しているかも知れません。

 Bさんがやってきて、こんな話をされました。
「住職。
 原発事故の時、どうしてヨウ素剤が配られるか知っていますか?
 甲状腺はヨウ素を蓄積するので、放射性ヨウ素が溜まれば病気になる確率が高まります。
 そこで、あらかじめ、安定ヨウ素剤を摂取して甲状腺を満杯にしておけば、後からやってくる放射性ヨウ素の入る余地がないため、甲状腺を守られるそうです。
 診療放射線技師Cさんから聴いたのですが、何もわからなかった私は、とてもよく理解できました。
 万が一の時は、まじめにヨウ素剤を飲むつもりです」
 小生もようやく理屈が呑み込めました。
 言葉が具体的な想像力を伴うと、腑に落ちる具合はズンと増します。

 私たちはすべて〈井の中の蛙(カワズ)〉であると言えないでしょうか?
 見える対象も聞こえる対象も触れる対象もすべて、井戸の底から丸い井戸口の外に見える小さな空を眺める程度のものでしかありません。
 小さな世界であれこれ思念を廻らせていても、広い世間様や広い世界を相手にしているような気分でいます。
 しかし、広がっているのは、あくまでも気分でしかありません。
 わずかに、しかし、確かに〈他の井戸〉の住人と通じ合えるとしたら、想像力がはたらいた時ではないでしょうか。
 そもそも「思いやる」とは、「思い」を「やる」ことだったはずです。
 お釈迦様は、鳥についばまれる虫や、病人や老人や死人を思いやるところから、人生の根本を探求し始めました。
 見えるものも、見えぬものも、思いやりつつ生きたいものです。
 互いが互いに〈単なる井の中の蛙〉であれば、個々の人生も社会も、なかなか明るい方向へと進まないのではないでしょうか。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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