コラム

 公開日: 2014-12-25 

いつまでも生きてて悪いな ―人も猫もいる場所―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈仙台市『春昼堂』さんにある小さな相馬焼〉

 急逝したAさんは二つが口癖だった。

「いつまでも生きてて悪いな……」
 同居しつつ介護している長女が応える。
「いいんだよ、お祖父ちゃん。
 生きているからこうやって会えるんじゃない」

「嫁探し……。
 婿探し……」
 家族が応える。
「大丈夫だよ、おじいちゃん」

 ご遺体のそばで、お茶をいただきながら、お聴きした話である。
 また、家族を考えた。

「いつまでも生きてて悪いな……」は、場所が福祉施設であれ、病院であれ、家族以外の相手へ聞かせたならば必ず、波紋を生じる。
 家族だからこそ思いがそのままに伝わり、感謝や尊敬などをも生む。
「嫁探し……。婿探し……」もまた、よほど相手と雰囲気と場所を選ばなければとんでもない結果となり得る。
 余計なお節介、嫌み、セクハラなどと受け取られ〈地雷〉が爆発する怖れがないのは、祖父が孫を思う一心だからである。

 家族とは不思議な社会関係だ。
 同族の生きものとの同居することの価値は、何よりも、〈ここ〉が自分の生活圏であり、警戒せずともよい裸になれる場所であると認識させる点にあるのではないだろうか。
 最近では、犬や猫などのペットたちが、「癒し」を超えた「救い」すらも与える家族としての価値が広く認められるようになった。
 家族であるかどうかは、必ずしも〈血〉だけが問題なのではない証左と言える。

 家族同士における日常生活では、共有する光景を観る視点が共有されている。
 猫が空になった皿を眺めて「ニャーウ」と言う時、飼い主も同じ皿に餌が入っていない状態を目にして猫の空腹を直感する。
 同じ光景を映し出し、思いを理解する目がお互いに具わっている。

 しかし、同居していても、共有する光景が消えれば、〈ここ〉は、〈ここ〉ならではの価値を失う。
 同居者はトゲを持つ存在になり、裸になれる場所は失われる。
 たとえば、猫が他人を見るような目で飼い主を眺め、餌を待つのではなく自分勝手に餌を漁るようになった時を想像してみればすぐにわかる。
 いかに美しい、あるいは高価な猫であろうと不気味で恐ろしく、同居は続けられない。

 私たちは、縛りを離れ、自我の命ずるがままに生きられる空間を求め、個の自立を目指してここまで来た。
 日本においてはかなり理想が実現され、都会ではすでに行き着いてしまったかのような感さえある。
 その過程で、家族という人間関係はかなり希薄になった。
 しかし、この世で誰一人〈光景を共有する人がいない〉ままの日々でしかないならば、私たちは心の安定を保てるだろうか?
 自分の生活圏が〈ここ〉であるという根源的安心感を持てるだろうか?
 熊には熊が住む自然という熊の生活圏があり、鷹にも鷹が住む自然という鷹の生活圏がある。
 人間だけは地球上のみならず、宇宙のどこかすら生活圏に選び取る自由を持っている。
 しかし、小さな肉体と共に在る生きものとしては、熊や鷹と何ら変わりないのだ――。

 Aさんのそばで枕経(マクラギョウ)を修法した時、決して広くはない部屋に温かなものが満ちるのを感じた。
 冒頭のお話をお聴かせいただき、納得できた。
 家族三代が今、ここにおられる。
 一代目は見事に生をまっとうされ、〈仏様〉として家族を見守る立場へ移りつつある。
 二代目、三代目の笑顔も涙も美しい。
 ――ここには確かな〈ここ〉がある。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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