コラム

 公開日: 2015-01-18  最終更新日: 2015-01-19

相撲に武士道を見せた元小結・豊真将 ―【現代の偉人伝】第203話―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈「雑草ポエム」様よりお借りして加工しました〉

 1月16日、元小結・豊真将(ホウマショウ・33才)は、師匠の錣山(シコロヤマ)親方(元関脇・寺尾)同席で引退会見を行った。
 ケガや番付の不運などと真正面から戦ってきた漢(オトコ)がついに矛を収めた。

「懸命にリハビリ、稽古に頑張ってきたんですが、応援していただいたみなさんに申し訳ありませんが今場所限りで引退させていただきます」

 平成16年、日大相撲部を退部し、小柄ながら気っ風のよい相撲で人気を博した元関脇・寺尾の懐へ飛び込んだ豊真将は、ふり返る。

「新弟子検査の時に親方と、2人でこれから頑張っていこうと話したことを思い出します」

 そして、14連敗で迎えた千秋楽、ついに一勝を挙げた一番が、最も思い出深いと言う。

「あの時のお客さんの温かい声援が忘れられません。
 あの一番があったからがんばれました」

 親方は評した。

「横綱、大関といった強い力士にはなれませんでしたが、相撲道で一番、大切な礼に始まり礼に終わるを体現した数少ない力士だと思っております」
 
「本人は復帰に向けて最後の最後まで頑張ってきましたが、願いかなわず引退となりました。
(右膝は)1、2年で治るけがではありませんでした。
 ただ、稽古場では常に体を動かすことをやめませんでした。
 わが弟子ながら尊敬しています」

 師弟は拍手に送られ、深くお辞儀をして両国国技館の会見場を去った。

 朝日新聞の抜井規泰記者が書いた文章(1月17日付)に目を奪われた。
 以下、一部を掲載しておきたい。

「この2年間、けがに泣き続けた。
 2年前には左肩の動きをつかさどる腱板(ケンバン)を断裂。
『俺たちの根性とプライドを見せてやろうじゃないか』と背中を押してくれた師匠の声を励みに、はい上がってきた。
 だが、もう一度、三役を狙える地位まで戻った矢先の大けがで、土俵人生を断ち切られた。
 引退会見の少し前、豊真将は私の手を握り、『あの記事を読みまして……』。
 豊真将が負傷した翌日、こんな記事を書いた。
《全力士の手本と評される所作の美しさ。
 分け隔てない優しさ。
 古武士のようなド根性。
 豊真将の復活を願っている》
『根性を……絶対に……僕は……』。
 言葉が続かず、豊真将の目からぼろりぼろりと涙がこぼれた。
 豊真将の土俵が、好きだった」

 私の目からも涙が流れ、この記事で書かれた大けがの場面を思い出した。
「昨年名古屋場所の5日目。
 日馬富士に潰され、豊真将の右ひざが、あり得ない方向に曲がった」。
 ――そうだった。
 7月、真夏の場所からずっと、再起をかけて治療とリハビリに励んでいたのか。
  
 これまであまり関心を持たない力士だったが、ネットで平成23年11月14日付の日本経済新聞に載った記事を見つけた。
 幾度、読んでも、その度に心が新鮮かされる記事である。
 以下、全文を転載しておきたい。

○歴代4位の高齢昇進、故郷に凱旋

 3大関を総なめにするなど、4度目の東前頭筆頭で初の勝ち越しとなる10勝を挙げた。
「(三役の壁を)払拭しないといけないと思っていた。長かった」と実感を込める。
 山口県出身の豊真将にとって、九州場所(13日初日、福岡国際センター)は準ご当地。
 30歳6カ月と歴代4位(1958年以降初土俵)の高齢で悲願の三役(小結)昇進を決め、堂々の凱旋だ。

 4年前に昇進していても不思議ではなかった。
 2007年春場所では東前頭5枚目で11勝を挙げる活躍を見せたものの、東筆頭に留め置かれた。
 同年秋場所では上位総当たりの西前頭筆頭で8勝7敗と勝ち越したのに、またも東筆頭に「半枚」上がっただけ。
 いずれも三役に届く成績ながら、他の力士との兼ね合いで見送られた。
 豊真将は「勝負弱かった」と振り返るが、不運だけで片付けるのはあまりに気の毒だった。

○「もう上に行けないよ」 陰口も乗り越えて

 その後は左手の負傷や頸椎(ケイツイ)捻挫で休場するなど、けがにも苦しんだ。
 番付を駆け上がったころの勢いはすっかり影を潜め、年齢を重ねた。
「豊真将はもう上にいけないよ」。
 上位力士からそんな陰口も聞こえてきた。
 そこからはい上がっての三役昇進。
 守りから攻めの相撲へと変貌を遂げ、秋場所では敢闘精神あふれる相撲をファンが評価するマークシート調査で、稀勢の里に次ぐ幕内第2位の評価を得た。
 30歳は成長を続ける。

 幕内土俵入りで、豊真将はひときわ大きな声援を浴びる。
 支持される理由は、けれん味のない相撲内容はもちろん、「礼に始まり、礼に終わる」という大相撲のよき伝統文化が所作から伝わってくるためだろう。

 相手と呼吸を合わせる土俵の上がり方や、蹲踞(ソンキョ)の姿勢、顔の前でかしわ手を打つ塵浄水(チリチョウズ)や、懸賞を受け取る前に切る手刀など、所作といっても実に幅広い。
 豊真将はその一つ一つを丁寧に行う。
 相撲教習所で幾多の新弟子を指導してきた大山親方(元幕内大飛)は「教えた通りにやっていて、所作は全力士の中で一番いい。立ち居振る舞いが立派だ」と高く評価する。

 中でも心地よさを覚えるのが、取組後に深々と頭を下げて礼をする姿だ。
 感情をあらわにして、相手を敬う態度があまり見えない力士も目に付くだけに、潔さが際立つ。

○正々堂々とした所作は力士を大きく見せる

 大山親方は言う。
「負けても不満ありげな顔で帰ることもなく、素直に受け止めている。
 武士道の精神でしょう。
 土俵の上では心技体が出ていないといけない」

 04年の入門時から師匠の錣山親方(元関脇寺尾)の教えを守る豊真将は「所作をきっちりやって正々堂々としていれば、相手に大きく見せられる」と話す。
 いかなる時でも心を内に秘めて深々と頭を下げるのは、簡単なようで実は難しいこと。
 苦労を重ねた人生。
 豊真将の真摯な姿勢が、土俵ににじみ出ている。

 大相撲はニュースでしか観られないが、〈武士道の精神〉が感じられる場面にはあまり、お目にかかれない。
 正々堂々の勝負、勝者と敗者が対等の礼、賞金をありがたく、しかしさり気なく手にする微妙な仕種や表情、引き上げる花道でのふるまい。
 番付の位置にかかわらず、いかがなものかと思うことがたまたま、ある。

 ネット上で「羽黒蛇」氏が鋭い指摘をしている。

「立合い変化、張り手、かち上げ。
 この三つが『相撲の美』に反するのは、多くの相撲ファンが合意すると思う」
 そこで氏は、二つの提案をしている。
「一つは、相撲の美に反する技を反則とする方法である」
「もう一つは、相撲の美に反する技を禁止しないで、美しい相撲を番付で優遇、変化・張り手・かち上げは勝っても番付に反映しない」
 そして例を挙げる。
「例えば、豊真将のように所作の美しい力士は、7勝8敗でも番付を下げない。
 張り手で勝ち越した力士は、8勝7敗でも番付を上げない」

 相撲はなぜ、国技であり続けられるか?
 それは、生存競争に勝たねば生き続けられない宿命にある生きものでありながら、〈美しく勝負を行い、結果を美しく受け容れる〉という人間にのみ許された可能性を、鍛え上げた心技体で目の当たりに見せてくれるからではなかろうか。
 勝利とは何ものかの奪取である。
 奪取する者がいれば、必ず奪取される者がいる。
 人間以外の倫理なき生きものにおいては過酷な結果しかなく、自分と全体を観る視点がなければ、真善美もない。
 私たちは戦場を「いくさば」と読み、武士を「もののふ」と読み、兵を「つわもの」と読む。
 松尾芭蕉は詠んだ。
「夏草や兵どもが夢の跡」
 こう読み、詠まずにおられない私たちの霊性は、たとえ生き死にをかけた場においても、人間には真善美が宿っていて欲しいと願う。

 豊真将は実に、人としての真(マコト)を尽くし切ったのではないか。
 実に、精進という善き道を見せてくれたのではないか。
 実に、所作とまごころによって勝負の場ならではの美しさを体現したのではないか。
 豊真将が相撲に武士道を映し出した最後の力士とならぬよう、祈ってやまない。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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