コラム

 公開日: 2015-01-19 

「狸のお祭り」に大震災を想う ―真に忘れてはならないもの―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 大正から昭和の前半にかけて活躍した仏文学者にして小説家の豊島与志雄(トヨシマヨシオ)の作品に『狸のお祭り』という児童文学がある。
 狸を撃とうとした猟師が狸に化かされるのだが、最後は大団円となる。
 以下、あらすじである。

 猟師次郎七と五郎八が八幡神社のまわりにある森へ入り、高い椋(ムク)の木の上で腹鼓(ハラヅツミ)を打っている狸を見つけて撃とうとしたが失敗した。
 悔しい二人は翌日もでかけたが、またもや失敗し、今度は、獲ったはずの椋鳥(ムクドリ)が家に帰ったら皆、椋の葉になっていた。
 二人に相談された長老は、一緒に森へ出かけ、椋の木へ声をかける。
「それ、木の葉が小鳥になった!」
「それ、狸が姿を現わした!」
「それ、狸が腹鼓をうちだした!」
「それ、狸が死んで落っこった!」
 長老は、狸は人の言うとおりになるという言い伝えを実行したのだ。
 そして、狸に問う。
「お前は人間を化かして不都合な奴だ。
 だが今度だけは助けてやってもいい。
 まあ、何でこの二人を化かしたか、その理由(ワケ)を言ってごらん。
 そのままでは人間の言葉が喋れないだろうから、人間に化けて言うがいい」
 お婆さんの姿になった狸は答える。
「どうも悪うございました。
 けれども、もとはこの人達の方がいけないのです。
 私が月にうかれて腹鼓をうってると、いきなり鉄砲でうとうとしましたから、つい化かす気になりました。
 でもあまりしつこく化かしたのはすみません。
 どうか助けて下さいませ」
 長老は指示する。
「お前がそう言うなら、この二人と仲直りをさしてやってもいい。
 けれども、それには何か手柄をしなければいけない。
 三日の間猶予をしてやるから、そのうちによいことをして私の家へ来なさい。
 そしたら、この二人と仲直りをさしてあげよう。
 もし約束を違えたら、村中の者で狸狩りをするから、よく覚えていなさい」

 その翌日から八幡様の周囲で不思議なことが起こった。
「今まで荒れ果てていたお宮の中が、綺麗に掃除されました。
 屋根は繕われ、柱や板敷は水で拭かれ、色々の道具は磨き上げられました。
 お宮のまわりの森も、草が抜かれ枯枝が折られ、立派な径(ミチ)まで出来て、公園のようになりました。
 朝と晩には、神殿の前にお燈明があげられました。
 しかも、誰がそれをしたのか更(サラ)にわかりませんでした。」

 三日目に長老を訪ねた立派なお婆さんへ言う。
「あなたは狸さんですね。
 約束を守ってほんとによいことをして下さいました。
 村のお宮が綺麗なのは何よりも気持ちのいいものです。
 これから長く、村の人達と親しくして下さい」
 そして、大団円となる。

「老人はすぐに、村中の者を集めました。
 そして狸のお婆さんを皆に紹介して、一部始終のことを話し、八幡様を綺麗にしたのもこの人だと言ってきかせました。
 村の人達は、始めはびっくりし、次には大喜びをして、やがてうちとけてしまいました。
 それからは、八幡様が村人の遊び場所となり、昼間皆がたんぼに出ますと、その間狸が子供達を守りしてくれました。もし狸に仇するような獣が来ますと、次郎七と五郎八とが鉄砲で打ち取りました。
 毎年一回、秋の月のいい晩に、村中の人が八幡様に集まりまして、酒宴(サカモリ)を開きました。
 それを『狸のお祭』と言いました。
 男も女も子供も、大勢の子狸や孫狸と一緒に踊り騒ぎました。
 御隠居がいろんな唄を歌いますと、それに合わして大きな狸が、腹鼓のちょうしを合わせました。
 ポンポコ、ポンポコ、ポコポコポン、
 ポンポコ、ポンポコ、ポコポコポン。」

 他愛のない童話と言ってしまえばそれまでだが、あくまでも人間中心でありながら、私たちが普段〈思う通り〉にはゆかない世界があることを示している。
 自然の奥深さと、そこに棲むものの力は侮れないし、私たちが見聞きする能力にも限りがある。
 それに気づき、人間が自然と真の意味で共生するには叡智が必要である。
 人間も生きものたちも輪になって生きる世界の象徴がお祭であり、その場は本来、神社である。
 お祭は年に幾度もないが、その日のために神社は守られ、人々も又、日々、神社に護られている。
 長老のさり気ない一言は、私たちが大切にすべきものを示した。
「村のお宮が綺麗なのは何よりも気持ちのいいものです」

 東日本大震災直後から津波に流された地域を訪れると、まず、倒れたり流されたりしていた小さなお地蔵様やお宮様がいち早く手をかけられ、やがてお祭が復活し、地域の復興が進むようになった。
 路傍に立つ小さなお地蔵様の首にかけられる紅い布が増えるのを見るたび、しゃがんでいる背後を次々に通り過ぎるトラックの風を感じながら涙し、感謝してきた。
 震災から2年半後となる平成25年11月、多賀城市にある東北歴史博物館において「神さまと仏さまの復興」と題する「東日本大震災復興祈念特別展」が開催された。

「歴史をふり返ると、いつの時代も、神さまや仏さまは地域コミュニティとともにあり、地域コミュニティは神さまや仏さまとともにあります。
 両者は決して引き離すことのできない関係といえます。」
「あの日、多くの像が失われたり傷ついたりしました。
 それが今、無数の善意や努力によって修復が進み、神さま仏さまが復興を迎えつつあります。
 これは、地域との関係から言い換えると、地域の復興への灯りが徐々にではありますが耀きを増してきたということができそうです。
 その灯りはまだほの暗く、地域によって明るさに違いがあるようにも感じられますが、地域が復興へと歩みを進める一つの『』としての意義が修復にあることを県民の皆さまが感じてくだされば幸いです。」

 阪神・淡路大震災から20年が経った。
 東日本大震災からはもうすぐ、4年となる。
 中国の凄まじい大気汚染を見るまでもなく、私たちは失って初めて、これまで普通に在ったかけがえのないものに気づく。
 大切にしてこなかったことに気づく。
 気づいてハッとしたなら、立ち止まろうではないか。
 私たちが真に忘れるべきでないのは、その瞬間につかんだ真実ではないか。
 私たちが本当に立ち直り、繰り返すべきでないものを繰り返さないためには、この真実をこそ、忘れないようにしたい。
 
「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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