コラム

 公開日: 2015-01-29 

「人を殺してみたい人」の誕生 ―失いつつある空気を考える―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 名古屋市昭和区のアパートで、77歳の女性を殺したとされる女子大生は「子どものころから人を殺してみたかった」と供述した。
 どうして最近、こうしたわけのわからない考え方で事件を起こすようになったのか?
 数人の議論になって思い出したのが「維新の十傑」と呼ばれる横井小楠(ヨコイショウナン)である。

 勝海舟は、「生涯で出会った恐るべき人物」として西郷隆盛と横井小楠を挙げている。
 彼は、中国北宋時代の儒学者程明道(テイメイドウ)の句「道(ミチ)用に就(ツ)けば是(ゼ)ならず」をあちこちへ貼っていたという。
 およそ、「道」というものは、「用」によって考えてはならないと言うのである。

 この場合の「用」とは、「利害の私心」で「智術の計策」に陥る姿勢である。
 利害というものさしを用いて知恵をはたらかせ、こうやればうまく行くといった計算や策略をめぐらせることを指す。
 小楠はさらに厳しく指摘する。
 ここで言う「私心」とは「事の成否を見るの利害心」であり、成り行きを見て損が無いようにふるまう、あるいは、うまくやれそうな方向を選ぶ、といった小賢(コザカ)しい考え方を言う。
 真理や真実を第一の価値としない考え方、身の処し方である。
 当世風なら、勝ち馬に乗る、目先の結果を第一とする、などと言えば近いかも知れない。

 では、そうした「用」を離れた道とは何だろう?
「天地の間、第一等のほか第二等第三等の道これなく」
 真の道は最も根本的なもののみであり、そこから外れたものにかまけてはならない。
「第一等」の道は、真理を第一とし、真理に至る道を至心に探求し続ける勇猛心によってのみ見つけることができる。
 しかもそれは、天と地の間で生きる人間にとって普遍的なものである以上、そうして心を修めて行けば、老若男女を問わず、おのづから現れてくる。

 だから小楠は、学校を建てて有能な人材を育成しようといった意見になかなか賛同しなかった。
 最後に「どうしても学校は要らないのか」と詰問され、本心を語った。
「学校を建てるのは道を行うためである」
「人材養成などという功利的思想を捨てねばならない」

 今、こうした〈恐るべき人物〉はどこにいるだろう?

 さて、冒頭の事件が起こった遠因は、〈空気の喪失〉ではなかろうか?
 思い起こせば、自分の子供時代(昭和20年から30年代)は、太平洋戦争に負けて価値観がすべて喪失したとされているが、無軌道で自暴自棄で気まま勝手な人々があふれていたわけではない。
 むしろ、淡々と、黙々と、人々は助け合いながら汗を流していたという印象が強い。
 人々は戦前と変わらぬ共通の空気を吸い、室町時代や江戸時代にも遠源を遡られる共通した価値観が知らぬ間に心の血肉となっていたのではなかろうか?
 そうした空気を色濃く染めていたものの一つが功利的思想や自分本位に走る恥ずかしさであり、人がまっとうな人と成るための障害を排除する智慧だったのではなかろうか?
 だから、貧しくとも「我利我利亡者(ガリガリモウジャ)」になることを恥じた。
 大人も子供も周囲の人のためになり、助け合うのが当然であり、勉強であれ、商売であれ、出世であれ、自分のことにばかりかまけていると見なされることは恥だった。
 途方もなく儲けた人は決してそのことだけで称賛されず、高位高官に昇った人もまた、肩書だけでは称賛されなかった。
 どこに住み、年収がいくらあるといったことのみで堂々と憧れの対象となる時代が来るなど、思いもよらなかった。
 人々は、空気を吸うように誰しもが、人として〈してはならないこと〉と〈すべきこと〉を子供のうちから心へ染み込ませていた。

 もしかすると、敗戦によってではなく、敗戦から奇跡の復興を成し遂げた後、進み過ぎた功利主義や個人主義や弱肉強食思想によって、たった今、日本人は大きく変質しようとしているのではないか?
 ご先祖様も吸ってきた空気が薄くなり、別な空気が人を殺してみたいという新たな人格のパターンを生み出しつつあるのではなかろうか?
 殺してみたいから殺す、ムシャクシャするから殺す、目立ちたいから殺す、……。
 この先を想像してみたい。
 ドナルド・キーン氏は指摘した。
「もし書道の授業がなくなれば、日本画の消滅も時間の問題だろう」
 もし、ご先祖様が遺してくれた空気をすっかり失えば、日本人は今度こそ、本当の根無し草になるだろう。
 ――根無し草は何でもやる、何でもやれる。
 立ち止まって考える必要があると思えてならない。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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