コラム

 公開日: 2015-02-10 

転んだ子供に手を差し伸べる母親は観音様 ―『クローズアップ現代』が教える愛着障害―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 待ちに待った立春を過ぎたのに、春はまだ名のみに過ぎず、雪空にかかる雲はあまりにも分厚い。
 弱々しい陽光を頼りにガソリンスタンドへ向かう朝、ジーパン姿で子供を抱いた母親と、少し後から焦茶色をした熊のぬいぐるみにすっぽりと包まれた小さな女の子が、左横前方の歩道を歩いてきた。
 三人を視界に認めた次の瞬間、母親を追おうとしたぬいぐるみの子がバタンと前のめりに転び、膝をついたまま万歳して母親を呼ぶ。
 ウィンドウガラスを閉めているので声は聞こえない。
 思わずスピードを緩め、心で「待ってくれ!」と叫んだ。
 振り向き、ゆっくりと方向を変えるショートカットの母親の顔に「しょうがないわねえ」という観音様の気配を感じたまま、通り過ぎた。
 女の子の安堵感が胸にこたえ、無性に嬉しくなった。
〝これで、この世を信頼しつつ大人になれる……〟

 その夜、NHKテレビの『クローズアップ現代』が「少年犯罪・加害者の心に何が ~「愛着障害」と子供たち~」を放映した。
 聞き慣れない愛着障害とは、「幼少期に親から虐待などを受けることで、自分の感情や行動をうまくコントロールできなくなる」状態で、「自分のことを大事に思うことができない、他者への想像力が働かないなど基本的な社会性を持つことができず、人とのコミュニケーションがいびつになる」結果をもたらす。
 親と子の間で結ばれるべき〈無条件の信頼〉が構築されないほど酷い扱いを受けた子供の心は、大きく歪んでしまう。
 少年院に入る男の子は2割、女の子は4割が幼少時に虐待を受けているという調査もある。
 平成25年、広島の呉市において16才の少女を7人がかりで殺害した事件における首謀者と目される少女(当時16才)に対し、懲役13年を言い渡した広島地裁は、減刑の理由として「持続的に受けてきた虐待による愛着障害」を挙げた。
 少女は「家で生活することが苦痛だった」と述べており、その結果、あまりに幼く、粗暴な人格が形成された。

 愛着障害を持った子供は少年院などで、あまりにべたべたしてくるかと思えば、ふとしたことで凶暴になり、基本的な人間関係が築けないので教官も苦労する。
 こうした人格的不具合は、虐待による愛着障害か、それとも先天的発達障害によるものか。
 判断はとても難しいが、福井大学医学部附属病院友田明美教授などの研究により、愛着障害に陥った子供の脳に著しい特徴があることは明らかになった。
 一つは、「反社会的行動を抑制する信号を発する」前頭皮質の体積が減少していること。
 もう一つは、「前頭皮質からの信号を受け行動を起こしたり抑止したりする」線条体のはたらきが低下していることである。
 逆ギレする、パニックになる、よいことをして誉められても反応しない、悪いことを指摘されるとフリーズする、これらは脳の状態と密接に結びついており、薬を用いた治療も研究され始めてはいるが、あくまでも人間対人間のやりとりによる改善が基本である。

 岐阜大学医学部精神神経科准教授高岡健氏は指摘する。
 親や家族のいる家は港のようなものであり、子供は船のようなものである。
 港がしっかりしていればこそ、安心して船出ができる。
 しかし、港で裏切られた経験が積み重なると、常に警戒信号を発し、ちょっとしたことにも過剰に反応する。
 誉めてくれる相手すら信用できず、周囲を試そうと、他人の嫌がることをわざと行うなどの異常な行動に走ったりもする。
 大切なのは、長く一緒にいてやるという時間そのものよりも、子供からのアプローチに対する応答性であり、とにかく〈きちんと応えてやること〉が最も大切である。
 子供が自然に〈船出〉し始める3才までが勝負である。
 ただし、家庭環境について、子供の心を発達させる大切な要因であると考えることは欠かせないが、虐待と脳と犯罪とを因果関係として胆略的に結んでしまってはならない。

 少年院の教官は述懐する。
「子供がマイナスの状態から出発するので大変だ」
「赤ちゃんを抱いているような感覚で接しなければならない」
「親を孤立させず、子供に自身を持たせたい」
「ここでは、〈これまでと違った大人がいる〉とわかってもらいたい」
「子供がやがて自分の気持や考えを語り出すと、ああ、自分を大切にし始めている、と嬉しくなる」

 今朝、目にしたのは救いと希望の光景だった。
 どうしようもなくすがりたい時、目を向け、心を向け、手を差し伸べてくれる相手がいてこそ、真の希望が持てる。
 子供を持った親はすべて、子供によって、菩薩(ボサツ)になるきっかけを与えられている。
 やはり、この世はマンダラそのもの、大日如来の世界であると合掌しつつ眠りに就いた。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0



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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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