コラム

 公開日: 2015-02-11 

「うごけば寒い」 ―橋本夢道の句を読む―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 厳しい寒波が来ている今、寒い外と暖かな内(ウチ)をあたふたと行き来しているうちに、橋本夢道の句を思い出した。

「うごけば寒い」

 私たちは普通、じっとしていると寒いから身体を動かして温めようと思うが、暖房のない獄中では、鳥や猫が丸くなっているように、動かずにいる方が寒さを感じないで済むという。
 滝行では、じっとしたまま一心に真言を唱えているので耐えられる。
 水の中を一定時間、漫然と歩いて来いと指示されたなら、なかなかやり通せないと思われる。
 太平洋戦争がまさに勃発しようとしていた時、38才の夢道は左翼思想を持った危険人物として投獄されていた。
 そのおりに詠んだ凄まじい句である。

 夢道は26才で弟を亡くしている。

「泣くまいたばこを一本吸う」

 何と直截な表現だろう。
 こうした感性の持ち主には、現象世界のすべてが簡明だったのではないか。
 あらゆるものが素(ス)のままに立ち顕れたのだろう。
 ただし、光景がカメラで写し撮られるように言葉が流れ出るわけではないはずだ。
 結果はサラリとしていても、組み立てる際の呻きは相当のものだったのではないか。
 その証拠に、昭和49年秋、臨終間際に句を作り、「推敲したい」と言ったきり旅立った。

「桃咲く藁屋から七十年夢の秋」

 徳島県の小作農家に生まれた夢道は向学心があったものの、高等小学校卒業を卒業してすぐ、15才で奉公に出された。
 人生の幕をまさに閉じようとしていた時、70年の一生が甦っていたのだろうか。
 病苦が緩み、ふと詠んだ一句でも、納得できるまで推敲したいという意欲を持っていた。

 夢道の代表的な句はこれだろうか。

「無礼なる妻よ毎日馬鹿げたるものを食わしむ」

 昭和22年、敗戦直後の貧しさの中では、一生懸命に炊事をしようとする妻へさしたる食材も与えられなかった。
〝お前はそんなに健気(ケナゲ)なのに、お前の思いとはあまりにもかけ離れたものしか作らせられないなんて……〟
 後姿に合掌しつつ詫びていたのではなかろうか。
 一軒家を本堂とし、トイレも水道もないボロボロのプレハブで寝起きしていた時代、小生も妻に深く詫びたことがある。
 真冬、ご縁の方々からいただいた食材で作った夕食をプレハブへ運ぶ途中、雪に足を滑らせた妻は、食器を載せたお盆を落としてしまい、泣いた。
 二人は言葉もなく、お賽銭箱などから小銭をいただき、ラーメンを食べにでかけたのだった。
 あの時ほど、愚かな自分を悔い、妻へ詫びたことはない。
 俳人は表現した。
 しかし、何の才能もない凡人は、しかも営利活動から離れた一介の行者は、何もできず、ただ、歯を食いしばるだけだった。
 そう言えば、歯医者から「奥歯がめり込んでいますよ」と指摘されたことがある。
 全身全霊で引導を渡しているからだろうが、その他の原因もあって不思議ではない。

 最後にもう一句、挙げておきたい。

「一生を棒に俳句や阿波踊り」

 普通、「一生を棒に振る」と言えば、取り返しのつかない大失敗などによって、それまでの人生がすっかり台無しになることを意味する。
 しかし、ここでは、潔く人生を賭けきってしまうという不動の姿勢が「阿波踊り」とあいまって、やや客観的で硬さを離れたダイナミックな句に結晶した。
 自問したくなる。
 自分は一生を〈棒に振っている〉と確信しつつ生きているか?

 夢道は『銀座 若松』に務めていたおりに蜜豆を考案した。

「蜜豆をギリシャの神は知らざりき」

 皆さんも蜜豆を食べながらゆっくりとふり返ってみてはいかがでしょうか。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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