コラム

 公開日: 2015-02-12 

地獄と極楽を生じさせるもの ―願いをかける人と、修法する行者の心あるいは教団に姿勢について―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 当山がかつてブログと機関紙『法楽』へ載せた文章を、ご縁の方から示された。
「舘釋貢次さんの著書『宗教経営学』の冒頭で住職が書いた文章を読みました。
 忘れられません」
 今から15年も前の拙文をあらためて読んでみる。
 人生相談にご来山される方々は、この世の地獄も極楽もありのままに見せてくださる。
 現に苦や楽という結果が出ていることは厳粛だ。
 主たる原因となったものは逃げようがない。

「信仰心をあまり持っておられなかった医師が大病に冒され、ご家族が新宗教に救いを求められた。
 仏典を奉ずる名のある団体だったので、最初に言われた『全財産をかける覚悟がなければ治らないでしょう』にも不信を抱かず、言われるがままに蓄えが底をつくほど大金を納め続けたが、効なく、風が吹くように医師はこの世を去られた。
 最後に『この世には神も仏もない』と嘆かれたという。
 家風もあり、どん底に堕ちたお子さんたちは、〈宗教は恐ろしい、近づきたくない〉と考えている。」

「『おすがりする思いを金銭で表わせ』といって新宗教は大金を集め、たちまち勃興する。
 典型的な〈尊い経典の悪用〉である。
 縁の人を地獄に堕とし、死の恐怖を利用する死神となった自分たちもまた、悪因縁によって地獄に堕ちるであろう。
 この世の地獄である。」

「み仏の名を借りた似非(エセ)宗教のつくり出す地獄と、強い信仰心を持たなくとも自分の心の裡におわしますみ仏の心に導かれて温かくしみじみと生きられる方々の住まわれる極楽と両方を教えていただいた。
〝善があって 悪があって 善がある いずれも心がつくり出すさまを説き明かそう〟 ―『法句経』双要品―」

 当山が御霊と参列者の方々の心へ届くようお通夜で読誦する経典に慈雲尊者の『十善戒』がある。
 そこでは善と悪との正体が明確に説かれている。

「仏性(ブッショウ)に順じて心を起こすを善といい、これに背くを悪という。
 本性(ホンショウ)に身口意(シンクイ)相応すれば十善おのずから全きなり。」

 自分の心におわすみ仏のお心にそって自分の心がはたらけば善であり、み仏のお心に背いた心がはたらけば悪である。
 揺れ動き、定まらない心を司る根本のところに合わせて身体と言葉と意志とがはたらけば、十の善き戒めは自然に達成される。

 では、冒頭の問題はどうなるか?
 当山も善男善女のお申し込みに応じてご祈祷を行っている。
 まだ死ぬわけにはゆかない、何としても今しばし、生きてやるべきことをやり遂げたい。
 こうした方々の思いと一体になって、み仏のご加護を祈る。
 自分自身がこれまで幾度となく救われた体験上、結果はみ仏にお任せするしかないが、祈りは必ず通じ、好転する可能性は確かにあると信じている。
 だから、修法し、「必ずご加護があります」と励ます。
 しかし、大切なのは、お金でモノを買う交換経済とは異なり、かけたものと受け取るものとのバランスは、質量共にわからないという点にある。
 たとえば当病平癒(トウビョウヘイユ)を祈った場合、結果はさまざまだ。
 奇跡的によくなる方もあれば、あまり変わらない方も、あるいは、医者の宣告とそれほど違わない形で旅立つ方もおられる。
 問題は、それぞれの結果を受け、あるいは結果が出る過程にあって、病人がいかなる心で日々を過ごすかにより地獄も極楽も現れること、そして、当人がそれをいかに自覚するかということである。
 まず、奇跡的に快癒した場合、感謝し、み仏へ帰依(キエ)する心が強まり、自然と十善戒にそった生き方をするようになる場合もあれば、また、お金を納めれば何とかなるだろうと、日常生活での交換経済における〈便利さ〉というレベルでしか受けとめられない方もおられる。
 前者は生き方が変わり、後者は次の機会にも同じように祈願をかけ、もしも〈ご利益〉がなければ、たやすく他の便利な仏神を求めて彷徨い、生き方は何ら変わらない。
 病状にあまり変化がなかったり、好転しなかったりする場合も、同じような現象が現れる。

 だから、宗教における祈りの大切さは、祈りを通じてよき心になることであり、それは慈雲尊者の説く「仏性」や「本性」がよくはたらくことを意味する。
 よき願いをもって正しく祈るのは決して欲張りではなく、煩悩に後押しされた欲が清らかな大欲(タイヨク)へと昇華する過程なのだ。
 善に向かうのである。
 その手助けをするためにこそ、行者は、願主と共に祈る。
 ここで、行者にとって最も大切な条件が明らかになる。
 一つは、願主の願いを我が願いとして祈ることであり、もう一つは、行者はみ仏すなわちご本尊様と一体化せねばならないということである。
 後者は、行者が行者たる資格すなわち本当にプロであるかどうかが問われる。
 それは能力の問題だけでなく、〈私心〉がないかどうかが問われることでもある。
 
 ようやく冒頭の問題ににつながった。
 小生が指摘したのは、自分のため、あるいは教団のため、一気に大金を集めたい、世間的な力を持ちたいという私心が、み仏へおすがりするしかなくなった人の心を踏みにじりかねないし、実生活に悪しき影響をも及ぼしかねないということだった。
 つまり、〈私心〉によって、あるいは〈私心〉に負けつつ宗教的活動を行う者たちがおり、それが世間的には成功者となっている場合もあることに警鐘を鳴らしたつもりである。
 舘釋貢次氏も、ここを衝くべく、拙文を引用されたのだろう。

 実に、宗教者と名乗る者の私心(=我欲)のありなしは、他者からわかりにくいし、当然、うまくオブラートに包まれてもいる。
 しかし、原因は必ず結果をもたらす。
 また、行者は永遠の修行者であり、永遠の未熟者なので、修法した結果に対して敏感でなければならず、そこから自分の心を省みるという手順を絶対に怠ってはならないと肝に銘じている。
 もちろん、それは〈効き目〉があったかどうかとご本尊様のおはからいをチェックするのではなく、願主が宗教に触れてよき変化を得てくださったかどうかという一点の問題である。
 だから、受験合格を祈願し、受かってお礼参りにご来山されるのも嬉しいが、志望校に落ちてなお、ご来山されることはいっそう嬉しい。
 実にこの世の地獄も極楽も、「善があって 悪があって 善がある いずれも心がつくり出す」ことによって生じる。
 願主の心と行者の心とがあいまって、この世は地獄にも極楽にもなるのである。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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