コラム

 公開日: 2015-03-10 

私がここに居るってどういうこと? ―文豪菊池寛のマンダラ―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈菊池寛著『十住心論』の表紙です。描いたのは堂本印象。〉

 夫も子供もいながら大病を抱えたAさんがご来山され、真剣に問われました。

「私がここに居るってどういうことでしょうか?」

 密教は、世界を4種類のマンダラと観ます。
 昭和10年、文豪菊池寛はそのことについて書きました。

「簡単に例えてみれば、まず、僕の身体が全体として成り立っているので、大マンダラと言います。
(世界も、国も、ネコも、メダカも、人間も、それぞれが一つのまとまりあるものとして存在しています)
 作家である僕が手にするペンや原稿用紙などは、作家である僕の存在意義を象徴するのでサマヤマンダラと言います。
(大工さんならカンナ、警察官なら警棒などによって明らかです)
 菊池寛という僕の名前や、本の名前などの固有名詞は、他から区別して特定するために欠かせない唯一のものであり法マンダラと言います。
(夏目漱石、三島由紀夫、安部公房という名前による特定が文学界全体を構成しています)
 一生懸命に参考書を読み、徹夜して原稿を書くといったはたらきによって作家として存在していることになり、それをカツママンダラと言います。
(魚屋さんは魚をさばき、八百屋さんは野菜を並べるからこそ、魚屋であり八百屋です)」

 お大師様は、私たちが生きている世界の姿を4つの方面からとらえ、1つの方面には必ず他の3方面がつき従っていると説かれました。
 たとえばプロ野球広島カープの黒田博樹投手は一人の独立した人間ですが、同時に名前があり、グラブを持ち、ピッチャーとしてマウンドに立ちます。
 あるいは、ピッチャーという仕事を持っている人なら誰もが、一人の人間であり、名前で呼ばれ、投球を行います。
 4つの方面は決してバラバラになりません。
 どれかが欠けている人もいません。

 また、お大師様は、特定のものが持っている4つの面は、他のものが持っている4つの面と互いに共通し合い、バラバラにならないと説かれました。
 ある人が独立した存在としてそこに居るのと同じように、無数の人々がそれぞれ独立して、存在しています。
 黒田博樹という名前があるなら、則本昂大も大谷翔平もいます。
 黒田博樹がピッチャーなら、則本昂大も大谷翔平もピッチャーです。
 黒田博樹が投げれば、則本昂大も大谷翔平も投げます。
 4つの方面それぞれは無数の同類を網羅しています。

 Aさんに当てはめると、Aさんはまず、一人の自立した存在として、ここにおられます。
 そして、Aという自分だけの名前を持っています。
 そして、妻であり母親であり、あるいは親からすれば娘であり、誰かにとっては友人であり、知人です。
 そして、今、生きて悩み、当山を訪れています。
 Aさんとは、こうした4つの面から特定されるかけがえのない人です。

 また、4つの面それぞれを考えてみましょう。
 一人の独立した人は、ご主人も、お子さんも、親も友人も知人もそうです。
 名前を持っているのも、同じです。
 それぞれが人間社会の中で、それぞれなりの形で存在意義を持っています。
 そして、存在意義に応じて一瞬一瞬を生きています。

 視野を広げてみましょう。
 玄関前にいたミケ子は、時折、新たなライバルと縄張り争いをしつつ、一匹の尊厳あるネコとして当山周辺を歩いています。
 いつしかミケ子と呼ばれ、他のネコと区別されるようになりました。
 鋭い爪と牙を持ち、ネズミや鳥を追うしなやかなジャンプ力も、甘える鳴き声も具えています。
 そして、まぎれもなくネコとして生きています。

 Aさんがここに居られるのは、こういうことです。
 4つの面から〈世界中でただ一人〉として特定される存在であり、その尊さは〈仏〉と言うしかありません。
 Aさんが仏ならミケ子も仏、今、お話ししている私も、恥ずかしながら本当は仏なのです。
 お大師様が説いておられるのでまちがいありません。
 何と嬉しく、ありがたいことでしょうか。
 何か考えるヒントになりましたか?

 Aさんは瞳に力を取り戻し、帰られました。
 最後に菊池寛の原文を挙げておきます。
「手っとり早く喩へて云ってみれば、先(マ)ず僕の身体を大曼荼羅(マンラダ)とする。
 僕が手にするペンおよび原稿用紙が三昧耶(サマヤ)曼荼羅である。
 菊池寛(或は十住心論《ジュウジュウシンロン》)といふ固有名詞が法曼荼羅である。
 一生懸命に参考書を読み、徹夜して原稿を書くといふ如きが羯磨(カツマ)曼荼羅である。」

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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