コラム

 公開日: 2015-03-23 

樹木からの呼びかけ ―まだいるからね―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 作家柳田邦男氏の次男洋二郎氏は、自死する一年ほど前、日記にこう書いていた。

「ぼくは行きの電車で、孤独な自分を励ますかのように、『樹木』が人為的な創造物の間から『まだいるからね』と声を発するかのように、その緑の光を世界に向け発しているのを感じた。」

 邦男氏はこの件について後日、書いた。

「重い病気を背負っている人や死を間近に察知している人は、他者の内面を鋭く読み取ってしまうばかりか、自然界の山や森や木々の語りかけまでも、霊感的に聴き取ってしまう。」

「洋二郎は最後には、死への旋回をしてしまった。
 心の病は本当に難しい。
 それでも私は、今なお洋二郎の心に『まだいるからね』という言葉を感じさせた『樹木の緑の光の力』を信じている。
 あれは忘れられない福院の時間だった。
 あの言葉を語った洋二郎は、今では再生した姿で私の心の中で生きている。
 そして、そういう時間があったことは、私を絶望のクレバスに転落させない歯止めの一つになっている。」

 決して忘れられないフレーズである。
「まだいるからね」
「まだ」「いる」とは、避けられない死へ向かっているが、今はまだ、〈猶与〉の時間内で生きているという意味である。
 そして「ね」はたった一文字なのに、発信、語りかけ、思いやり、つながり、など決定的な意味を含んでいる。
 この「ね」を感得した洋二郎氏の心に、同士の発見、悲嘆と勇気の共有、奇跡的救済、など、生きる方向へと向かわせる力が生じたことは想像に難くない。

 それにしても「いる」とは何と悲痛な言葉だろう。
 ビルなど無機質で「人為的な創造物」たちに占領された空間で、ようやく息をついている。
 それも〈滅び行く抵抗者〉として。
 はかなく、勝利のあり得ない抵抗……。
 あまりにも切なく、哀しい悲嘆を帯びていっそう鮮烈に輝く「緑の光」は、洋二郎氏の心から、深い共感、共鳴を呼び起こした。
 共感、共鳴が邦男氏の言う「福音」だろう。
 逝った子供にとって、だけでなく悼む親にとっても。

 惨状と悲嘆に満ちているかのようなこの世界が発している慈光と福音を見聞きする心こそ、仏教徒の目ざすものである。
 惨状と悲嘆が〈見捨てられぬ〉という慈悲の思いを起こさせる。
 思いを抱いて離さぬ者は智慧が動き、実現する方法すなわち方便を必ず見つけ、実践する。
 この慈悲と智慧による救済者こそ菩薩(ボサツ)である。

 洋二郎氏はまぎれもなく、菩薩道の入り口に立っていた。
 あと少し自力の回復があれば、〈方便〉へと進めたことだろう。
 邦男氏が「絶望のクレバスに転落」せずに済んでいるのは、洋二郎氏の「再生した姿」が菩薩の光を帯びているからに違いない。

 ちなみに『大日如来讃歎経』は説く。

「宇宙の真理象徴(シメ)すなる○大日如来の働きは○人や獣をはじめとし○山川草木一切が○生命(イノチ)を燃やし活動す○その姿にぞ証(アカ)される」

「われら衆生(シュジョウ)が自らの○心の実相(スガタ)知るならば○この世のすべての存在が○共に一つの生命(セイメイ)を○生きていること悟られて○宇宙の生命(イノチ)を自らの○生命(イノチ)としてぞ生きること○そこにこの世の一切が○大日如来の現象(アラワレ)と○捉える曼陀羅(マンダラ)精神の○教えの根本(モト)を見出さん」

「大日如来の真言を○至心に念誦(ネンジュ)するならば○大宇宙との一体の○神秘な境地が現れて○自我の意識(ココロ)が消滅し○宇宙の中に生を得し○われらの実相(スガタ)気づかされ○一切衆生(シュジョウ)に平等の○生命(イノチ)と価値を授けらる○大日如来の深秘(ジンピ)なる○慈悲の心の存在と○その加持力(カジリキ)を感得す」

 常に「緑の光」を感じつつ生きることができれば、もう、大日如来の世界の住人であると言えよう。
 洋二郎氏の御霊があの世でそうなっておられるよう祈りたい。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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