コラム

 公開日: 2015-03-24 

故人のお導きで人間の誕生を考える ―法楽庵の福祉葬―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 旧知のAさんが亡くなり、葬儀堂『法楽庵』使用の第一号となった。
 夜、葬儀屋さんに調えられて明かりのついた法楽庵は、昔、托鉢から帰った時と同じく、この世の聖なる止まり木として待っていた。
 独り暮らしとなり、生活保護を受けていたAさんは白いお柩の中で、相も変わらぬ端正なたたずまいのまま血色を保ち、口を結んで眠っていた。
 死という苦を乗りこえたばかりの人とは思えない。
 むろん、この世での悪戦苦闘からも、もはや、離れきっている。
 まさに涅槃(ネハン)入りした〈ホトケサマ〉である。
 般若心経を唱え終わると、ご本尊様の加持力(カジリキ)に包まれた法楽庵は静謐(セイヒツ)な安寧(アンネイ)に満たされた。
 かつて、護摩法によって天井も壁もススだらけだったこの道場は、ご祈祷やご加持のエネルギーが渦巻いていた。
 天井も壁も明るく衣替えを行った聖地が動から静へと役割を変えたことがつくづくと実感され、葬儀堂としての活動再開へご本尊様からお墨付きをいただいたようで安心した。

 かねてAさんから送られてきていた小さな段ボールを4つ、開けてみた。
 中身はすべて本。
 語学が堪能だったAさんらしく、駄本とおぼしきものは一冊もない。
 目が不自由なのでラジオからの情報に基づいて選択したのだろう。
 生活に困り果てた人が、誰かに好きな本を読み聞かせてもらいつつ老後を過ごせる日本のすばらしさに、あらためて舌を巻く思いだった。

 供養にと一冊、手に取った。
 初めて名を知ったイタリアの作家ディーノ・ブッツアーティの『神を見た犬』という短編集である。
 トップにある「天地創造」は、神が世界を創るにあたり、天使たちへ生きものの設計図を描かせた物語。

 神が生命を誕生させたのは、「果てしない宇宙に浮かぶ小さな点のごとき惑星のうえで、多くの生命が誕生し、成長し、実を結び、死んでゆくというアイディアは、なかなか愉快に思われた」からである。
 やがて「厄介者にには永遠につきまとわれる運命」の創造主のもとへ、「新惑星制作実行委員」を命ぜられた数百万もの天使たちから「実物大」の上質紙へ記されたデザインが次々と提出された。
 クマムシは委員の誰からも相手にされなかったが、「どんなに小さなこともけっして見逃さない神」が片目をつぶり、OKとなった。
 恐竜類には「いっせいに意義が唱えられた」が、「一生懸命に考えた優秀なデザイナーたちをがっかりさせたくなかった神」は承認した。
 犬とバラと蚤には「輝ける長い未来を与えることが満場一致で可決された」という。

 やがて、右往左往していた一人の「うとましい」天使から人間の図面が提出される。
「どう考えても気持の悪い姿をした動物で、見ていると嫌悪感をもよおすほどだった」ため、「全能の神」は初め「美しいとは言えないな」と言い、「だが、おそらくなにか特別な役に立つ動物なのかもしれない」と「辛い評価を和らげるように、やさしい口調で言いたした」。
 しぶとい天使は食い下がる。
「厚かましいのを承知で言わせてもらいますと、わが主よ、なんとかあなたに似せて創ろうとしたものなのです。
 ありとあらゆる創造物の中で、理性を持ち、あなたの存在を理解し、崇めることのできる唯一の生物となるでしょう。
 主を讃えるために壮麗な神殿を建立し、主の御名のもとに血なまぐさい戦いも辞しません」
 知識のある動物すなわちインテリに疑いを持つ神は応える。
「インテリなどというものはろくなことをせぬ」。
「おまえの言うとおり、並はずれた資質があるのかもしれぬ。
 だが外見から判断するに、厄介ごとを際限なく招くような気がしてならないのだ」。
「こいつらは、ちょっとでも好きなことをさせたら、いつの日か多くの難題を引き起こす。
 いや、よそう。
 やめておくべきだ」。

 地球が生まれる前夜、「神の承認を得ることができたデザイナーたちは、満足げな顔で思い思いの方向へ散って」ゆき、神は「心地よい疲労とともにひとり残され」、「心穏やかに、眠りにつこうとしていた」が、あの天使が「しぶとく挑戦に」やってきて、マントの裾をかすかに引っぱった。
 彼は「自分の設計をもういちど説明し、すがる眼差しで神を見つめる」。
 神は思う。
「人間だなんて!
 なんてたわけた発想なんだ。
 これほど危険な思いつきはない。
 だがよくよく考えてみると、実に魅力的な賭けでもあり、耐え難い誘惑を感じずにはいられなかった。
 もしかすると、やってみるだけの価値はあるのかもしれぬ。
 なるようになるだろう……。
 天地を創造するからには、楽観的な発想も必要だ」。
 そして言う。
「こっちに寄こせ」
 決定的な一瞬がやってくる。
「全能の神は宿命の設計図をつかむと、承認のサインをしたためた」のである。

 この快作を読み聞かせられ、斜に構えるところのあるAさんは〝我が意を得たり〟と感じたのではなかったか。
 Aさんの気持を想いながら、ご本尊様へ祈り、戒名をいただこう。
 引導を渡す時はきっと、導師しかいない。
 でも、ご本尊様と故人と導師とが一体になれば、ご葬儀は成り立つ。
 しっかり法を結びたい。
 そしてAさんの希望どおり、共同墓でお守りさせていただこう。
 Aさん、ご苦労様でした。合掌


 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

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