コラム

 公開日: 2015-04-15 

弥勒菩薩(ミロクボサツ)とお大師様 ―「人生の道」に想う(その2)─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈瞑想の印を結び五輪之塔(塔婆)を持った弥勒菩薩(ミロクボサツ)〉

 アメリカの哲学者チャールズ・モリスが昭和17年(1942)に書いた詩「捧げ」の後半である。
 その3年前、すでにドイツがポーランドへ侵攻し、第二次世界大戦が始まっている。
 そして、1年前に日本と戦争状態に入った最中(サナカ)、彼は、弥勒菩薩(ミロクボサツ)を人類の救世主として称賛した。
 この詩は、昭和41年に理想社から発行された『人生の道』に掲載されている。
 訳者の一文字一文字を正確になぞった。

「われらは物を見まいと目を盲にしてきました。
 われらは物を考えまいと急ぎつづけてきました。
 われらは実行を延ばそうとするただそのために思想をもちました。
 われらは感覚をにぶらせ、心をくもらせ、筋肉を飼犬のようにつなぎとめてきました。
 われらは恐れや偽りや歎きの子供です。
 われらは全一ではありません。
 われらは混乱しています。
 われらは弱きものです。

 われらのこの混沌の豊饒(ホウジョウ)を一点に集中したまえ。
 われらに一体性を、埃なき心を、憎しみなしに打擲(チョウチャク)する腕を、
 曇りなき眼を、敢行する勇気を与えたまえ。
 偽りの、作りものの、飾りたてた足場を引き裂き下ろしたまえ。
 われらに単純性を、偽らぬ謙遜を、永劫のヴィジョンを、
 一瞬に暖かさを失わぬ心を与えたまえ。
 われらからわれらの恐怖や仮面や逃避を取り去りたまえ。
 われらに弾力性を、このように生まれこのように死することの喜びを、正しい姿勢を、
 苦難にうちかつ強さを、離脱にたえる強さを、愛しうる強さを、与えたまえ。

 御身の出生がそのままわれらの出生となるよう。
 ふたたび法輪をめぐらしたまえ。

 われらもまた、我らの全一の姿で、宇宙の母の前に立つでしょう。
 御身の立つごとくそのようにわれらもまた立つでしょう。
 御身と同じように、縛られて、脅されず、遙かなるもの、愛するものとして。
 やすみなく笑いつづける母なる宇宙世界劇中の仲間として、
 永遠の劇の役者同志として、観客同志として、
 ひるみなく、自由に、遠く隔たるもの、愛するものとして。
 御身の影をわれらの前に投げかけたまえ、われらがいつまでも影のままでいないように。」

 弥勒菩薩の救済によって迷いから解き放たれ、力強く立ち上がる人びとのイメージが溢れている。
 弥勒菩薩は、お釈迦様が入滅されてから56億7千万年の後、この世へ下生(ゲショウ…降りる)し、まだ悟っていない人びとをすべて導く。
 有名な広隆寺の半跏思惟像(ハンカシイゾウ)は、下生の時期を待つ姿である。
 弥勒菩薩が「一生補処(イッショウフショ)」の菩薩とされているのは、「この一生の次に、仏の位処を補う」という意味であり、修行者の菩薩から成仏して弥勒如来(ミロクニョライ)となり、最高の導き手としてはたらくことが約束されていることを意味する。
 弥勒菩薩は成仏後、鶏足山(ケイソクサン)に登り、深い瞑想に入ったままでいるお釈迦様の弟子摩訶迦葉(マカカショウ)を目覚めさせ、お釈迦様から与えられていた大衣(ダイエ)を受け取り、お釈迦様の衣鉢(エハツ)を嗣ぐ者となる。
 そして、瞑想の状態で説法する時、手にお塔婆(トウバ)、あるいは舎利塔(シャリトウ)を持つこともまた、お釈迦様の後継者であることを示している。
 成仏後に下生して説法するのは、まるで龍が百宝を吐くように枝という枝に百宝の花を咲かせる龍華樹の下である。
 第一回目の説法で96億人、第二回目が94億人、第三回目が92億人が救われる。
 後白河法皇の撰になる『梁塵秘抄(リョウジンヒショウ)』には、こうした光景を詠んだものがある。

「迦葉尊者(カショウソンジャ)の石の室、祇園精舎(ギオンショウジャ)の鐘の声、醍醐の山には仏法僧(ブッポウソウ)、鶏足山には法(ノリ)の声」
「迦葉尊者あはれなり、付嘱の衣(コロモ)を頂きて、鶏足山にこもりゐて、龍華(リュウゲ)の暁(アカツキ)待ちたまふ」

 衣を弥勒菩薩へ受け渡すようお釈迦様から大役を命ぜられた迦葉尊者は、じっと石窟の中で瞑想を続けている。
 道場で撞かれる鐘の音や、ブッポウソウの鳴き声や、森羅万象の発する説法の声が聞こえる。
 そうしてじっと、弥勒如来が現れ龍華樹の花開く時を待っている。

 お大師様は弥勒菩薩を深く信じ、弥勒菩薩の浄土へ上られた。
 これを、弥勒菩薩が降りてこられる「下生(ゲショウ)」に対して、「上生(ジョウショウ)」という。
 お大師様は天長9年(832)11月12日から、五穀を断ち、弥勒菩薩と一体になる修法に入られた。
 そうしていながら、2年後には般若心経を読み解いた『般若心経秘鍵(ヒケン)』を著し、弟子円澄がトップとなった比叡山延暦寺へ上り、落慶法要を指導した。
 さらに翌承和2年(835)正月には、宮中において正月8日から一週間、最高のご加持(カジ)法である『後七日御修法(ゴシチニチミシホ)』を修法し、この伝統は今でも生きている。
 そして3月15日、弟子たちへ戒めを伝え、21日寅の刻、弥勒菩薩の兜率(トソツ)浄土へ旅立たれた。
 日々、そこから私たちを眺め、すがる者をお導きくださっている。
 弥勒菩薩と一緒に下生してこられる日までご加護は続く。

 チャールズ・モリスが弥勒菩薩へかけた思いとお大師様の願いとはまったく別ものだが、理想を持ち未来へ向かって精進する〈人間への信頼〉と、見捨てぬ〈大いなるものへの信頼〉とは共通している。
 モリスはすでにこう言っている。

「科学は進歩してやまない。
 そしてその進歩のうちにたえず〈人間性〉も新たな解明をもち、たえず〈人間〉の概念はより正しく修正されていくであろう」
「本来、仏教はどんな形而上学の体系とも無縁な宗教である。
 そして、人間や宇宙についての科学的知識が増すことには、原則として好意を寄せている」

 わたしたちにとって大切なのは、日々、生きながら「〈人間〉の概念を正しく修正」し続けることだろう。
 修正によって科学を暴走させないことだろう。
 最新の調査によれば、24時間スマートフォンをチェックするなどで睡眠不足に陥る若者が急増し、テクノストレスからうつ病になるなど、その経済損失は3兆4700億円に上る。
 原発事故と同じく、こうして計算された〈損失〉などを遥かに上回る心身的〈被害〉が私たちを追いつめている。
 人間は、社会は、科学技術の利用はいかにあるべきか、目前の損得や利便性を超えた視点から、声高な改革などでない謙虚な修正を続けねばならない。

 弥勒菩薩とお大師様の存在は、そうした私たちにとって不動の北極星であり、勇気づける。
 モリスは「享楽と活動と観照とのダイナミックな統一」こそが理想的人間像であるとし、そのイメージを弥勒菩薩へ投影した。
 前稿の一部を再掲する。
「私たちは、何かを楽しみ、何かに憩う。
 私たちは、何か意義ある行動をしないではいられない。
 私たちは、何かをしっかり確認し、考える。
 享楽と行動と観照とのバランスがうまくとれてこそ、人生を豊かなものとして築いてゆける。
 こうした自分自身の内なる多様性に気づいていれば、自他の人生を破壊する狂気へは走らない。」

 ご守護くださる弥勒菩薩とお大師様へ祈ろう。
「おん まいたれいや そわか」
「南無大師遍照金剛」

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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