コラム

 公開日: 2015-05-03 

揚羽より速し吉野の女学生 ―超越から聖性へ―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈今年も鳴子温泉郷の中山平温泉『琢琇』様で水子地蔵の供養会を行いました〉

「揚羽より速し吉野の女学生 ―藤田湘子(ショウシ)― 」

 蝶は不思議な飛び方をする生きものだ。
 揚羽は特に大きく豪華ななりをしているので、一旦、目に入ると動きを追わないではいられなくなる。
 不規則な動きをしながら、すぐに視界から消える。
 実に速く、ボンヤリなどしてはいない。
 当山にもよく、飛来しては一瞬、法務を忘れさせる。
 特に期待されているわけではないが、来れば誰からも歓待され、珍重されるものとして、オニヤンマや銀ヤンマなどと双璧だ。

 さて、この句における主人公は揚羽でなく、女学生である。
 女学生といえば、吉野のイメージより先に、大津波に呑み込まれた浜辺での光景がまっさきに浮かぶ。
 凪いだ海の手前には、一面、泥で覆われたなだらかな浜が広がっている。
 かつて家々があったことを示す土台や瓦礫は、古代都市の廃墟ほども残ってはいない。
 人の姿がないのはもちろん、犬や猫などの姿も鳴き声もない深閑とした空間は、静止画像にされたままの動画のように、あまりにも非現実的だった。

 両膝の上にようやく載っている上体が経文を口にしている時、視界の右手から自転車を引いた女学生が二人、現れた。
 その動きは時間が止まっていないことを示して充分、現実的なはずなのに、非現実感を増幅させた。
 生きものの気配のかけらさえない空間に、あまりに輝かしいいのちのはたらきを存分に表現しつつ、語り合う二人は視界を横切り、左側へ消えて行った。
 うちひしがれた様子もなく、普段の日の朝、ごく日常的な会話を楽しみつつ仲良く普通に登校する途中といった風情の二人は、〈ほとんどそこにあり得ない存在〉だった。
 シュールさは、二人が醸し出す明るさ、穏やかさ、和やかさ、柔らかさといった死とはかけ離れたものたちのせいだった。
 浜に満ちている死の気配とそれらは、あまりに隔絶していた。

 冒頭の句を詠んだ藤田湘子の感性は、ごく普通の光景に、どこか超越的なものを感じていた。
 女学生が放ついのちの勢いは圧倒的な存在感で眼前を疾駆した。
 どこにでもあるはずの光景が超越的場面として立ち顕れたのは、そこが吉野だったからである。
 神々や祖霊たちの鎮まる地域であることを深く体感していたであろう藤田湘子にとって、揚羽よりも速く際立つ動きで行き過ぎる女学生は〈ほとんどそこにあり得ない存在〉だった。
 そこに〈いた〉のは当然、女学生だが、〈あった〉のはきっと、勢いそのものだったのだろう。

 この句を幾度も口ずさんでいるうちに、異質なはずの女学生も吉野の空気をまとい神性を帯びているように思えてくる。
 もちろん、揚羽も。
 ――この句は聖性すら含んでいる。
 死が支配する浜で女学生を目にした一行者はいまだ、咀嚼(ソシャク)できていないが、俳人はたちどころに作品へ昇華させたのか。
 芸術の力は凄まじい。

 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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