コラム

 公開日: 2015-05-04 

水俣病公式確認から59年 ―作家石牟礼道子氏の述懐―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 5月2日付の河北新報は、水俣病公式確認から59年を迎え、石牟礼道子氏へのインタビュー記事『苦しみ背負う人々 忘れてはならない』を掲載した。
 世の中の反応を知りたくてネット上を探したが、同記事に関する文章は見つからなかった。
 ここに書き残しておきたい。

「汚染された魚介類で神経障害を発症した水俣病患者を描いた『苦界浄土(クカイジョウド)』で知られる作家石牟礼道子さん(88)=熊本市=が、共同通信のインタビューに応じた。
 水俣病は1日で公式確認から59年。
 被害の全容はつかめないまま、患者の高齢化が進む。
『苦しみを背負ってあの世に行こうとしている人がいることを忘れてはいけない』」

 私たちは、「あの世に行こうとしている」人を忘れようとしてはいないか?
 自分の敵、あるいは辛く当たった人、あるいは債権者、あるいは嫌いな人……。
 こうした人々があの世に行ってくれれば、自分の心に刺さったトゲが消えて楽になると思ってはいないか?
 しかし、敵が死ねば、和解の機会を失う。
 辛く当たった人が死ねば、許す機会を失う。
 債権者が死ねば、返済の機会を失う。
 嫌いな人が死ねば、好き嫌いにとらわれる自分の心を放置するしかなくなる。
 その場に至って自分の愚かさに気づいた人は、相手の死後ずっと、ときおり到来する苦みに耐えつつ生きねばならない。
 応えのない懺悔が欠かせなくなる。
 だから、早く懺悔し、早く解決を得ねばならない。
 自他を救うためには、「忘れてはいけない」のである。
 
「石牟礼さんは訴える。

〈55年ほど前、最初に水俣病の患者を見た時を鮮明に覚えている〉
 夕暮れ、結核の長男が入院していた水俣市立病院(当時)に、真っ白な包帯で頭を包み、ゆっくり歩く人がいた。
 何の病気かと思ったら『奇病の病人』とうわさになっていました。
〈許可を得て病棟に入ると、『苦界浄土』に登場することになる患者の釜鶴松さんがいた〉
 私は見知らぬ人間でしょ。
 ベッドに寝ていた釜さんは、漫画でパタッと顔を隠した。
『しまった』。
 自分が(健康な)人間である嫌悪感に耐えられませんでした。」

 石牟礼氏の「自分が(健康な)人間である嫌悪感に耐えられません」は人間に霊性があることを証明する感覚である。
 自分が光輝く側にあっけらかんと立っているだけでは、苦しむ人々にとって、ついに〈異物〉でしかない。
 苦しみの言葉を聴く資格もない。
 この感覚がない人々による政治も経済も非情な世の中をもたらす。

 高倉健は亡くなる3年前、自ら望んで映画『ホタル』を撮った。
 太平洋戦争当時、知覧基地近くで食堂を営み、若い特攻隊員から母のごとく慕われていた鳥浜トメ氏の言葉にうたれた高倉健は、「特攻とは何だったのかを問う映画を作りたい」と願い、降旗康男監督へ相談した。
 そのおり、いくつもの特攻隊関連の映画に出演してきた高倉健は言った。
「忠君愛国を信じて飛び立つ映画の中の若者と、トメさんの話は全然違っていた。
 本当のことを伝えずにギャラをもらい、そのまま死んでいくのは嫌だ」
 高倉健は、厳しい検閲を通り抜けた輝かしい特攻隊員の手紙や遺書とは異なるところにある苦しみに感応したのだろう。
 もしかすると、これまでの自分のどこかに、石牟礼氏と同じような嫌悪感を感じたのかも知れない。

「〈患者は各地で出ていた〉
 どの家も生活できなくなり、裁判や原因企業であるチッソとの交渉に入った。
 患者たちは、チッソ社長なら偉いから人徳があって分かってもらえると思っていた。
 ところが、長い間、多忙を理由に面会を断られ、偉い人でも人徳があるとは限らないと知ったんです。
〈解決は遠い〉
 59年という年月は人間の一生ですよね。
 私は書いたり話したりできるけれど、それでも一生は語り尽くせない。
(発達障害)の出る胎児性患者や小児性患者の中には、語ることさえできない人もいる。
 患者があまりにも多く、チッソも国も(被害の全容が)分からないのでしょうが、一人一人聞けば、生々しい状況が分かるはずです。
 でも、行政は全然調査をしない。
〈最近では東京電力福島第1原発事故、沖縄の基地問題が……〉
 日本は近代、大企業中心、経済第一の社会が制度化されてきた。
 中央志向とも言われる。
 水俣の苦しみと同じです。
〈水俣病患者の多くが高齢化している〉
(語り部として活動していた)水俣病患者の杉本栄子さんが亡くなる前に来ました。
『全部許すことにした。
 チッソも、私たちをいじめ、差別した人も世間も許す。
 その代わり、水俣病の苦しみを全部あの世に持って行く』と言う。
 苦しみを知っていたから、よくそんな気持になれたなと感じた。
 現代に生きるわれわれが許される。
 それでいいのかしら、と思いますね。」

 杉本栄子氏の遺志を嗣ぎ、水俣病の語り部となった漁師の杉本肇氏(54才)=水俣市=は、1日に水俣市で行われた慰霊式において、遺族代表の言葉を述べた。

「母さんが去ってから7年が過ぎました。
 そちらでは手の痛みは消えましたか。
 割れるような頭の痛みはなくなりましたか。
 人を恨まず、人を好きになろうとしていたあなたの姿は、みんなが大好きだった。
 あなたは『国も県も(原因企業の)チッソも許す』と言った。
 誰も恨まないから、私で終わりにしてほしい、と。
 受け入れ難きを『許す』ことで、同じ悲劇を繰り返さないという『約束』を取りたかったのですね。」
「十字架を背負った患者にとって、子どもは大きな希望。
 家族や街が受難から再生していくことこそ、犠牲になった人たちの願いだと思います。」
「犠牲になられた患者さんやご家族にはたくさんの思いがあるでしょう。
 無念に亡くなられたこと、不自由な体で懸命に訴え、心の溝を修復しようとしたこと、この街を再生しようと生きたこと。
 そのことを私たちは忘れません。
 この地で考え続け、未来ある子どもたちに託していきたいと思います。」

 児童・生徒代表植田竜至君(市立袋中3年)は述べた。

「水俣に生まれ育った私たちだからこそ、私たちにしかできないことがあります。
 水俣病の犠牲になられた方々が精いっぱい生きたかった今を、未来を、誇りを持って精いっぱい生きることを水俣の地に誓います。」

 私たちは、被害者の一部からは許されたのかも知れないが、「それでいい」とは到底、思われないし、「大企業中心、経済第一の社会」のままでいいはずもない。
 同じようなパターンで苦しみを与えられ、被害者が「調査をしない」まま死を待たれるような社会でいいはずがない。
 社会を変えるためには、元気な人や儲けている人や偉い人に、石牟礼氏や高倉健のような「嫌悪感」を感じて欲しいが、さて、どうか。
 せめて、苦を身近なものとなっている人々は、「嫌悪感」的感覚を鈍らせずに感じ、考え、語り、行動したい。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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