コラム

 公開日: 2015-05-14 

クレーの『死と火』に想う ―弾圧にも揺るがぬ気高さ―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 さる待合室で、60才の画家パウル・クレー(スイス)が、死ぬ年に書いた『死と火』を観た。
 1940年は、ドイツ軍がノルウェー、オランダ、アイスランドなどへ電撃的に侵攻し、パリを占拠する一方、ソ連はカティンの森で大虐殺を行い、リトニア・ラトビア・エストニアを併合した年である。
 昭和15年、日本もまた、紀元2600年を祝いつつ日独伊三国軍事同盟を締結して北部仏印へ侵攻し、中国に親日の南京国民政府を成立させている。

 画集は、クレーの日記を紹介している。

「何かが私の中で叫んだ。
 私は彼らに叫んで応え、しかも叫ぶことができなかった。
 ……私はひたすら叫んだ、涙ぬれて心の奥底から声をあげた。」(日記9269番S)

「私のすごす現(ウツ)し世の生よ、さらば、いつまでもそのままではいられないのだ。
 お前は気高かった。
 くもりない精神よ。
 物も言わずに一人淋しく。」(日記725番)

 中央には死に神の白い顔が大きく描かれ、細い手に魂とおぼしき黄色の玉を掲げている。
 斜め後から、角張った獄吏風の人物が棒で追い立てる。
 追い立てられる先は炎の世界。
 絵の上部から垂れ下がる3本の線は、魂を奪い去ろうとする何者かの指に見える。

 第一次世界大戦で従軍し、友人たちを戦死で失い、前衛的な作風でナチスから弾圧されたクレーは、思い通りに動かなくない手で46×44センチメートルの小さなジュート(黄麻の繊維で織られた布)へこの作品を描いた。
 もちろん、全体的に暗いのだが、絶望は感じられない。
 白い死に神はもしかすると、自分で魂をあの世へ運ぼうとするクレー自身かも知れない。
 持ち前のユーモアは最後まで失われていなかったのではないか。
 墓石に刻まれているクレーの言葉には、何となく、ゆとりすら感じられる。

「この世では、ついに私は理解されない。
 なぜならいまだ生を享(ウ)けていないものたちのもとに、死者のもとに、私はいるのだから」

 生きながらにして、この世ならぬ世界、この世ならぬ者たちと親しく過ごしていたのではないか。

 松岡正剛師は、『千夜千冊』に書かれた。

「一言でいうのなら、クレーには『スペーシャル・オーガニズム』があったのである。
 日記にはそのことをクレーが十全に検討していたことが綴られている。
 空間的有機体への確信だ。
 それとともに、クレーは、『インディビデュアル』ということを突きとめていた。
 これも日記を読んでいて、得心がいった。
 少しだけ、説明しておく。
 いま、英語でインディビュアリティ(individuality)といえば、誰もがみんな『個性』をさしているような気になっているようだが、"individual"とは、もともとは"vidual"(分割できるもの)に対する『非分割的なもの』を意味している。
 すなわち『分割できない有機性』がインディビデュアリティなのである。
 日記にはこう書いてあった、『無理にでも分割しようとすると、その引き離された部分は死滅してしまうのだ。分割できなくて融合していることが、本来のインディビデュアリティなのだ』。」

 クレーは何を題材にしても「空間的有機体」すなわち、この世全体を描いた。
 そして、「分割できない有機性」はあの世にまで及び、ついにあの世までユーモアという救済で包んでしまったのではないか。
 世界的規模で阿鼻叫喚の戦争が行われていた時代に、不自由な手で柔らかく温かなジュートへこの作品を描いたクレーの魂は、確かに「気高く」「くもりない」ものだったに違いない。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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