コラム

 公開日: 2015-05-20  最終更新日: 2015-05-21

消えぬ声、届く声 ―東日本大震災被災の記(第164回)―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈今年の『法楽農園』はササニシキに挑戦です〉

 最近、再び、宗教の役割が意識されるようになってきた。
 カウンセラーや臨床宗教師やセラピストといった資格めいたものも議論されている。
 しかし、今さら特段の構えをとる必要があろうか?
 もちろん、宗教者が伝授された専門的分野だけでなく、心理学や医学や哲学や倫理学や社会学や文学や物理学なども学ぶのは意義あることだが、それは、一人のプロとして自己練磨する範囲の問題ではなかろうか?
 もしも、僧侶が経典と修法以外に何かマニュアルを求めるとしたならば、いかがなものだろうか。

 震災後、お骨を預かり、ご葬儀を行い、人生相談を受け、ご加持(カジ)やご祈祷やご供養を途切れさせることなく続けてきた者として、忘れられぬできごとは山ほどある。
 プライバシーに留意しつつ、そうした中の一つを記しておきたい。

 被災地で頑張る保母さんが人生相談を申し込まれた。
 強い陽射しの真ん中をやって来たショートカットのAさん(40代)は津波でご家族が行方不明となったが、子供たちのため、自分が崩れてしまわないため、張りつめた糸のような毎日を送っている。
 最近、夕刻になると子供の幾人かに不安な表情が浮かぶという。
 一人、二人と、遊び回る輪から離れてボンヤリし始める子供をどうすればよいかわからなくなる場合がある。
 また、Aさん自身も、いつということなく冷たいものに心を浸されるようになり、その時は抗し難くただ、沈んでしまう他ない。
 やや日焼けして化粧気の薄いAさんは、どうしたらいいのでしょうか?と真剣に訊ねる。

 ある浜で祈った体験を思い出した。
 いきものの気配が絶えた、だだっ広い空間は、白雲がボンヤリと浮かぶ青空と瓦礫があちこちで顔をのぞかせている泥地の間で、波が唯一の音を立てつつ寄せては返しているだけだった。
 空の鳥も、町の人もイヌもネコも、動くものは何もない。
 しかし、決して〈無〉ではなく、海を背にして走った人々の祈りや叫びはまだ、色濃く残っていた。
 ご葬儀で引導を渡す際に亡き人との感応を確認して行うのと同じく、耳には聞こえぬ膨大な声を受け止めながら供養法を結んだ。

 そうした〈声たち〉がまだ、消え去ってはいないのだ。
 子供たちがふと、心の耳でそれを聴けば、遊ぶ手足が止まるのだろう。
 また、Aさんにもきっと、それが別な形で届いている。
 家族が冷たい海に呑み込まれたという意識から離れられないAさんには、水に浸されるイメージに乗って何かが届いているのだろう。
 その時は無心に真言や御宝号を唱えることである。
 そうすれば沈み込まず、復活できる。
 ぼうっとする子供たちにはただ、沈み込みに負けないAさんが思いのありったけを込めたスキンシップで接すればよい。

 ある時、文字どおり長寿をまっとうしたお婆さんのご葬儀を行うことになり、ご本尊様へ祈って戒名を授かった。
 それを目にしたご遺族から指摘された。
 この世での生きざまが表れる真ん中の二文字に、若くして亡くなった母親の院号が入っているという。
 院号は魂の色合いを示す。
 きっと母親は、自分のように早世せず、長生きするようにと願いつつ旅立ったのだろう。
 その思いが娘へ伝わり、娘は見事に応えて見せたのだろう。
 母親の院号が娘の道号(ドウゴウ)となった事実が物語るものは深く尊い。
 戒名には人知を超えた背景がある。
 御霊と通じ合う宗教的感応の世界は、魂が震えるようなできごとに満ちている。
 
 ご加持を受けたAさんは法話に耳を傾け、合掌しながら伝授された真言を一緒に唱え、暗誦できるようになった。
 明るい声でお礼を言い、薄暗い玄関から燦々たる陽光の世界へと踏み出すAさんはまるで、船出をする人のようだった。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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