コラム

 公開日: 2015-05-28 

日本が戦争をする時、小学生はどうするか? ―寺山修司の「祖国」―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 お祖母さんの年忌供養が終わり、皆さんがゾロゾロと本堂から出られる時、足を止めた小学生とおぼしきお子さんから突然、訊かれた。
「和尚さん、日本は本当に戦争をする国になるんですか?」
 驚きながら答えた。
 ご両親も真剣な顔で後に立っている。
「少なくとも、『絶対に戦争をしない国』という看板を下ろそうとしていることだけは確かなようだね。
 もちろん、お国を動かしている政府の人たちは、『戦争にならないための準備をしている』と言っているけれど、ほとんどの戦争は、自分の国を守るということを理由に掲げて始められた歴史を忘れてはいけないと思うね」
 そして、伏し目がちで黙った少年へ質問してみた。
「もしも、日本が戦争をする国になったら君はどうする?」
 即答が返って来た。
「ぼく、どこか他の国の人になるよ」
 二度、びっくりである。
 ご両親はごく普通の仕事をしている庶民的な方々である。
 世界をまたにかけて飛んで歩きもしなければ、社会的役割を放棄して知らん顔をするような無責任な方々でもない。
 いわゆる左翼的思想に強く傾いた考えを持っておられるとも思えない。
 そうしたごく普通の家庭環境にあるお子さんが平然と、しかも、何か確信めいたものを持って国を捨てると語る場面は見聞きしたことがなく、「そうか……」と応じるしかなかった。
 もちろん、社会に生きる人間には権利も義務もあるといった〈説教〉はチラリと浮かんだが、このお子さんはそんな理屈を遥かに超えた地点に行ってしまっており、今、口にしたところで何の意味もない。
 それにしても、小学生に国を選ぶという発想があるとは……。

 寺山修司の歌が脳裏に浮かんだ。
「マッチ擦るつかのま海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや」
 敗戦後13年が過ぎ、日本中が復興にかけていた時代、22才の彼はこの歌が載った第一歌集『空には本』を発行する。
 触発された本歌は、昭和16年、太平洋戦争開戦の年に中国を転戦していた富沢赤黄男が詠んだ「一本のマッチをすれば湖(ウミ)は霧」である。
 寺山修司の名を知らしめた有名な一首であり、さまざまな解釈が行われているが、土台が崩れ行く先の見えない国家社会そのものの不安と青年期特有の不安とが重なり合って生まれたのだろう。
 彼は、この一身をかけて悔いなきほどの日本はあるのだろうか?と自分へ答のない問いを問いかけ、あとは霧に任せた。
 しかし、それから半世紀、少年はこともなげに、戦争をするくらいなら祖国を捨てると言う。

 こんなことを考えていたら、すぐに逆襲された。
「和尚さんはどこの国がお勧めですか?」
「そうだねえ、世界には、サンマリノ共和国といった戦争をする軍隊がなく、世界一長寿な人びとの住む国もあるよ。
 でも、いざという時は隣のイタリアに助けてもらうしかないし、何度も他国から占領されているよ。
 スエーデンでは税金が高いけれど福祉をしっかりやっているよ。
 でも、お年寄りは安楽死する慣習があるし、30人に1人は軍人として国を守っているし、お金持ちになりたい人は他の国へ出て行くという話もあるから、よく調べてみようね。
 一番、大事なのは、住む国を選ぶよりもまず、自分がどういう人になるか、ということじゃないかな。
 よく勉強してみようね」
 ご両親はホッとした表情で頭を下げた。
 お子さんの頭をなでて送り出しながら、若い世代の知力と情報量に感心した。
 ――自分が小学生の頃は、洟をたらし、かけっこして遊んでいた記憶しかないのに、この少年は自前の選択肢を持っている……。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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