コラム

 公開日: 2015-06-04 

生きながら死んでいる人 ―東日本大震災被災の記 第166回─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈河北新報様よりお借りして加工しました〉

 作家熊谷達也氏(49才)は、6月3日付の河北新報へ「書き手の私 死を体験」を書いた。

「あの日以来、この世に肉体は残っていても、生きながら死んでいる者、あるいは、死につつも生き永らえている者、そんな人々が私たちの隣人として当たり前に存在するようになった。」

 東日本大震災から1500日が経過してなお、ようやく生きておられるといった方々が、当山を訪れる。
 死者の死が、まだ受け容れられず、生の半分は死の世界へ委ねたままである。

 最近、息子さんを亡くされたAさんのお納骨を行った。
 共同墓『法楽の礎』に二人並んで契約し、何度もやりとりを重ねた上で、その日を迎えた。
 三回忌のご供養は終えていてもなお、納める前にもう一度、供養して欲しいと願い、修法中、すすり泣きが続いた。
 Aさんお骨を持つと、重みに腕は折れそうだったが、「自分で連れて行きます」と抱き抱え、共同墓へ向かった。
 石屋さんがカロートへ入れ、確認していただいた時、母は「私も行くからね」と小声で約束した。
 すべてが終わり、「これからはどうぞいつでもご自由にお参りしてください」と告げた時、ホトトギスがひときわ高く鳴いた。
 ようやく生活の場からお骨を切り離したAさんは喪服姿で頭のてっぺんから夏の陽射しを浴びていたが、なぜか、揺らめいて見えた。
 黒い薄衣が下がった肩の骨は、空中からぶら下げられた衣紋掛けのようだった。
 それは、小生そのものにも思えた。
 
 氏は震災後のある時期まで、異様に速く筆が進み、一段落してからは一転して書けなくなった。
 小説家としての断末魔と死を経験したと感じている。

「新たな作品はもう書けないだろうと思っていた。
 あの現実を前にして、フィクションとしての言葉を新たに紡ぎ始めるのは不可能だ。」

 氏は今、「自分の予想を裏切って」書き始めているが、「一つの言葉を選ぶのに、半日近くかかることもある」という状態になった。

「小説の書き手としての私は、おそらくいまだに半分死んだままだ。
 この世にありつつも、夥(おびただ)しい死者とともに生きている。
 原稿に向き合うたびにこちらの世界とあちらの世界を行き来しなければならないのだから、困難な行為になるのは当然だ。
 この地で小説を書く者が、彷徨(さまよ)い続ける死者の魂を置き去りにして安易に生き返ることは許されていないのだろう。」

 日々、修法の中で「あちらの世界」と行き来する小生のような者でも、さまざまな形で死者を観じ、自他の死を感じる機会が明らかに増えている。
 大震災の影響でもあり、自分の年令のせいでもあろう。
 ある時、研修にでかけた東京の四谷でジャズ喫茶『いーぐる』を訪ねた。
 今後、こうした時間をとれるとは思えず、一期一会である。
 客のいない店内はどこでも座れたが、新参者ゆえ、入り口近くの隅っこに陣取った。
 ヒュージョン系の音楽が流れ、意外感を持ちながらコーヒーを口にしていると、グレーのバンダナを襟に巻き薄茶色の山高帽を被った年配男性が、二つのスピーカーから真正面に位置する席へ深々と腰を下ろし、ビールを飲み始めた。
 いかにも常連という感じで、自分があそこに座らなくてよかったと安堵した。
 瞑目してピアノトリオを聴いていると、拍手が聞こえた。
 ああ、ライブ盤だったかと気づいた瞬間、音楽上のステージが小生の正面に来たような気がして目を開けると、右前方に山高帽だけが見える。
 山高帽の下は空っぽかと思えた。
 彼は居るのか?
 さっき、小生があそこへ入ったのではないか?
 階段を降りる音がして、鼠色のスーツを着たサラリーマン風の男が濡れた傘をたたみながら座り、続いて小太りの女性が紺色のスーツ姿で現れた。
 席を立ち、山高帽のやや後でかがんでみたら、やはり、さっきの拍手はこの辺りで聞こえるものだった。
 もちろん、彼は居た。
 ――微動だにせず。
 会計をしつつ、死後の小生が次にはああして来店し、あそこに陣取るのかと思った。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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