コラム

 公開日: 2015-06-15 

死者を送るプロたち ―井上理津子著『葬送の仕事師たち』を読む―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 葬儀社や斎場や石材店の方々、そして、なかなかお目にかかる機会のない納棺師の方々に対して、密かに敬意をはらってきた。
 亡き人を送るという一つの仕事をきちんとやり通すために欠かせない〈同志〉はいつも、謙虚で礼儀正しく、誠意にあふれておられる。
 その秘密の一端が井上理津子著『葬送の仕事師たち』によって明らかにされた。

 葬儀のプロを志す若者たちを描く第一章の1ページ目から、溜息がで出た。

「チャイムが鳴り、教員が入室すると、『起立』『礼』。
 男子学生達は左右の手の指先まで真っすぐ伸ばし、女子学生たちは両手を前にそろえて重ね、いっせいに九十度近く深々と頭を下げる。
 着席した後は、背筋をぴんとまっすぐに伸ばした姿勢だ。
 後ろから見ていて、机に肘をつく者、足を組む者すら一人もいないことに気づいた。」

 さる専門学校における一年生の教室風景である。
 小生は毎月、上京して行者としての修行を欠かさないが、教室の風景は残念ながら違う。
 読み進むうちに納得できた。
 この養成学校の教員は言う。

「皆、目的意識がはっきりしていて、志が高く熱意があることに驚かされます。」
「学生のあの食いつきはなんだろう。
 若いのに葬儀屋を目ざしているってなんだろうと思わないこともないですよ。
 でも、ほんとに食いついてきてくれるから、応えようと授業を工夫する。
 必死です。」

 秘密は学生の動機に尽くされている。

「若くして身近に死を経験したことが、葬儀業界への動機付けになっている人がなんと多いことか。」

 学生たちは死の体験に突き動かされ、死者への思いを表現しないではいられず、送る人としてのプロを目ざしている。
 やるせなく、切実な心がマグマとなり、死と死者へ向き合う真剣さをもたらしているのだ。

 実習の場面である。

「学生たちが、一言ひと言ことを聞き逃さないぞとばかり丹念にメモを取る姿があった。
 般若心経を全員で唱えて(学生たちは暗誦できた)、実習が終わった。」

 学ぶ者の本気度はメモにかかっていると考えている小生は深く納得できた。
 耳から入った言葉のほとんどは急速に忘れられる。
 メモをとり、帰宅して整理しなければ、自分の血肉になどなりはしない。
 目で食いつき、耳で聞き逃さず、手でメモをとる。
 授業を受けるとはこういうことだと思う。

 重要なことがはっきりと教えられていた。

「このごろのお葬式は遺影が中心になっていますが、祭壇のご本尊様は掛け軸です。」

 掛け軸であれ立体造形であれ、ご本尊様がおられなければ死者は安心して旅立てない。
 生まれてからずっと、親や教師や先輩などの〈おかげ〉でこの世を生き抜いた人間が、亡くなった途端にたった一人であの世をきちんと歩めると考えられようか。
 おのれの未熟さ、無力さ、愚かさに気づいていれば、〈おかげさま〉という気持と共にしか生きられず、〈おかげ〉を感じつつ旅立つのが自然というものではなかろうか。

「お葬式は亡くなった方に参列者がお別れをする場と思われがちですが、亡くなった方を仏様の世界、つまりご本尊様の世界にお送りするように祈るのが仏教式のお葬式の本来の意味です。」

 仏教書以外ではほとんど見られない祈りの本質が説かれている。
 葬儀・告別式と二段階になっているのは、結婚式を行ってから披露宴をするのと同じだ。
 ご葬儀を行ってから告別式を行わなければ、仏神へ祈りお守りいただくという神聖な部分が消え、社会的な告知や近親者のセレモニーだけで終わってしまう。
 形式的なお別れだけで本当に、送られる方も送る方も安心できようか?
 生まれ、生きて死ぬ一人の人間にとって一生に一度の機会を、簡単に、手軽に済ませようとするのはいかがなものだろう。
 たとえ簡素であれ、本質をふまえてなすべきことをなした方が、故人のあの世の道行きも、送る人のその後の人生も、より安心なものになるのではなかろうか。
 送るのはいっとき、しかし、どう送り、送られたかは永遠に動かない事実として〈その後〉を左右するのである。
 熟慮すべき人生の一大事と言うべきではなかろうか。

 この学校の理事長は、戦中戦後を共に生きた兄の急逝によって気づき、一念発起した。

「人は死ぬと肉体がなくなる。
 しかし、遺族の心に、亡くなった人は生き続け、『強く生きてくれ』とエネルギーを発する。
 遺族はそのエネルギーに守られて生きていくんだ」

 小生は一山を開基して3年後、托鉢生活の中で母を送った。
 法務があり、死に目には会えなかった。
 その母が今でも母親として「エネルギー」を与えてくれていることはまぎれもない実感であり、疑いようがない。
 だからこそ、おかげがあればこそ、ここまで来られ、今がある。

 著者は「あとがき」で、ご葬儀が要るとか要らないとかの議論をする前に、大切なことが抜け落ちていはしないか?と問う。

「議論以前に、葬送の仕事をする人たちが、どのような思いで、どのような働きをしているのか。
 私たちは知らなすぎやしないか」

 それは、引導を渡す僧侶についても同じである。
 お戒名がご本尊様から降りる真実も、引導を渡す際は御霊を感得し、導師もそのまま向こうへ行ってしまいかねない真実も、「知らなすぎ」たまま、どんどん、ご葬儀は要らないものにされつつある。

 著者は空(カラ)の霊柩車に乗せられて「仰天した」。
 加速や減速に気づかず、いつブレーキをかけたかもわからず、「車内に水がほぼ満杯のコップを置いても、その水がこぼれないように」運転する心遣いに驚いた。
 運転手へ問う。
「乗った方、驚かれるでしょう?」
 運転手は答える。
「いえ、ご遺族はお気づきにならなくていいのです。
 自分の中での約束ごとですから」
 当山も、死と死者を身近に感じつつ励んでおられる同志に支えられ、導かれ、自分なりの〈約束ごと〉は一ミリも動かさず、やり抜きたい。
 井上理津子さん、本当にありがとうございました。
 ご縁のプロの方々、あらためて心より感謝申し上げます。合掌

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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