コラム

 公開日: 2015-07-21 

【現代の偉人伝】第209話 ―イラク派兵の実態を明らかにした医師福間詳氏―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 7月17日付の朝日新聞は、平成15年から平成17年までの間にイラクへ派遣された自衛隊員の精神的ケアに従事した医師福間詳氏に対するインタビューを掲載した。
 すでに国会において、派兵された陸上自衛隊員のうち21人が在職中に刺殺したことが報告されている。

「派遣された約5480人は、精神的に健全であると確認したうえで選ばれた精鋭たちです。
 そのうち21人が自殺したというのは、かなり高い数字ですね」

 21人は〈在職中〉の自殺者のみの数字であることに注意せねばならない。
 退職するしかなくなり、その後、自殺した隊員が相当数あったことは容易に想像できるが、そうした調査発表は行われていない。
 事実、医師は述べている。

「自殺は氷山の一角で、イラク派遣の影響はもっと深刻なのではないかと私は考えています」

「当時、勤務していた自衛隊中央病院に、帰国後、調子を崩した隊員が何人も診察を受けにきました。
 不眠のほか、イライラや集中できない、フラッシュバックなど症状はさまざまでした。
 イラクでは体力的に充実し、精神的にも張り詰めているためエネルギッシュに動いていたものの、帰国して普通のテンションに戻った時、ギャップの大きさから精神の均衡を崩してしまったのです。
 自殺に至らなくても、自殺未遂をしたり精神を病んだりした隊員は少なくないと思います」

 ストレスの緩和をはかったが、「全体の3割が『ハイリスク』(過緊張状態)という部隊」もあった。
 2年ほどの間に13回、迫撃砲弾などが撃ち込まれた生活環境は想像を絶する。

「宿営地は一辺750メートルの正方形で、周囲を壕(ごう)と有刺鉄線に囲まれていました。
 正門につながる道路にはコンクリートの防護壁が並び、周辺では地雷や不発弾も見つかっています。
 日差しが強く、テントの中に入ると明暗差から周囲が見えなくなるほど。
 夏は気温60度、パソコンが突然シャットダウンしたり、水道をひねると熱湯が出たり。
 生活環境が過酷なうえ、攻撃を受ける可能性もあり、緊張度は高かったですね」

 着弾後、警備についていた隊員へ聞き取り調査をした。

「警備についていた隊員から聞き取りをしました。
『発射したと思われる場所はすぐ近くに見えた。恐怖心を覚えた』『そこに誰かいるようだと言われ、緊張と恐怖を覚えた』。
 暗くなると恐怖がぶり返すと訴える隊員は、急性ストレス障害と診断しました」
「夜間に望櫓(ボウロ…監視用のやぐら)に立つのは、おもに警備中隊以外の隊員です。
 銃の取り扱いに慣れていない彼らが恐怖から発砲したり、逆にテロに襲われたりした場合、多くの隊員が連鎖的にパニックに陥る可能性はあったと思います」

 アメリカでは帰還兵の心的障害が大きな問題になっている。

「アメリカで社会問題になっているイラク帰還兵の心的外傷後ストレス障害(PTSD)はコンバット(戦闘)ストレスとも呼ばれ、目の前で敵を殺したり、味方が殺されたりしたときに起きます。
 惨事を経験したショックによる『高強度ストレス』です。
 一方、自衛隊員が直面したのはおもに人間関係や仕事の単調さなどによる『低強度ストレス』で、質的に全く違います。
 極論すれば、日常のストレスと変わらないものでした」

 日常的ストレスの延長にあったとは意外な指摘だが、過去の派兵地の中でイラクは「最も戦場に近い」と言われながらも、あくまでも「非戦闘地域」であるとされていたことを考えてみれば、当然なのかも知れない。

「たとえば、上官が意見を聞いてくれないなど、人間関係のこじれ。
 あるいは、警備担当なら『仕事の成果が形に残らない』、給食担当は『仕事が単調で達成感が得られにくい』といった訴えがありました。
 宿営地設営に追われた初期には、休みが取れないこともストレスでした。
 自分を否定的にとらえ、『逃げ出してしまいたい』『銃で自分を撃とうと考えた』と打ち明ける隊員もいました」

「多忙な、あるいは単調な任務、職務の変更、環境の激変、対人関係といったストレスが凝縮されていました。
 一部の緊迫した場面をのぞけば、情報不足、裁量権のなさ、不適切な評価といった要因からストレスをためこんでいたのです」

 医師はなだらかなストレス解消をはかり、隊員を帰国前にクウェートのホテルに泊め、買い物などによる「クールダウン」をさせた。
 それでも、帰国後に不調を訴える隊員が相次いだ。

「あの状況下でストレスをためこむのは自然なことです。
 ただ、過緊張が長く続くと、正常な脳はダメージを受けやすい。
 だからといって急に休ませてはいけない。
 いわゆる『荷下ろし』によって気が抜けると、ストレスは悪化するのです。
 帰国後、1カ月の休暇を与えた部隊もありました。
 でも、ゴロゴロダラダラは逆効果。
 休養ではなく、リポート作成などリハビリが必要なのです」

 定期的なストレステストなど、できる限りのフォローを行ったが「サマワでの任務の影響は想像を超えるもので」あり、自殺は防げなかった。
 以下の事実は、隊員が決して外部へ語れず、一人で抱え込んで苦しむ状況を明らかにしている。

「原隊に戻ると、通常任務を続けていた隊員との間に齟齬(ソゴ)が生まれたり、1日2万4千円の危険手当へのやっかみなどからいじめられたり。
 サマワでの経験を生かすどころか、それが足かせになって追い込まれるケースもあったと聞きます。
 私はイラク派遣が終了した5カ月後に退官したため正確にはわかりませんが、未解明なことが多すぎます」

 そして、通常任務で留守を守った隊員の側にも、なかなか解消できない心の歪みが少なからず生じてしまう。
〝あいつだけが大金をつかんだ〟
〝人員が減ったために残った俺たちがどれだけ苦労していたかは誰も気づいてくれないが、あいつらだけは英雄扱いだ〟

 現在、自衛隊は、精神的な病気に罹った隊員の職場をさまざまな形で守ってはいるが、実態を公表することはない。
 安全保障体制を変え、海外派兵して米軍と一体になる前にやるべきことが指摘された。

「現在、自殺との因果関係を元に『公務災害』と認定されれば、約1億円の補償金が遺族に支払われます。
 今後、対象者が増える可能性があり、公金が使われるだけに、判定委員会といった組織を設け、統一した基準に沿って判断するシステムをつくることが重要ではないでしょうか」

 海外派兵における戦傷や戦死のリスクは今までより増すことはないといった国会の議論と正反対の提言が現場から発せられた。
 後手に回り、隊員やその家族を二重三重に苦しめることがあってはならない。

 そして、海外派遣とストレスの問題について、今までほとんど語られていない重要な指摘がなされる。

「なぜその任務につく必要があるのか。
 隊員たちが誇りをもって活動できるかは、国民のコンセンサスにも左右されます。
 ただ死者がでれば、世論は一変するでしょう。
 そうなれば、ベトナム帰還兵が社会から疎外されて精神を病んだのと似た事態が起きないとも限りません。
 社会の理解が不可欠です。
 アメリカでは、アフガニスタンとイラクから帰還した後の自殺者が戦死者を上回っています」

 隊員自身はもちろん、家族や周囲の人々も、そして世論も納得できる海外派遣であるかどうかが隊員を守る決め手となる。
 アメリカにおける帰還兵の自殺者数が戦死者数を上回っているという事実には戦慄すら覚える。
 そして、死者が出た場合、日本の世論はどう動くのか?
 想像するだに恐ろしい。
 もしも、イスラム教への嫌悪や恐怖や不安といった感情が醸成されれば、もう、〈大和の国〉日本にはなかなか戻れないかも知れない。
 決して〈最初の死者〉を出さぬよう、〈日本の敵〉を自ら新たにつくらぬよう、心したい。

 医師は最後まで患者を思いやる。

「最近は、幹部向けの課程に惨事ストレスセミナーなども採り入れているようですが、より重要なのは帰国後のケアです。
 隊員の精神状態は一様でないため、個別に時間を追って対応する必要がある。
 しかも任務が過酷になるほど重要性は増します。
 派遣前にはみっちりと訓練を積みますが、任務を終えた後のフォローアップには改善の余地がありそうです。
 イラク派遣隊員のメンタルへの影響を分析して、教訓を次に生かしてほしいものです」

 はたして、イラクで過酷な任務に励んだ隊員たちの心的状態はきちんと分析され、そのデータは今後に生かされるのか?
 注視したい。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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