コラム

 公開日: 2015-07-22 

幸せな死とは?(その1) ―外科医中山祐次郎氏の提言―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





 私たちは往々にしてこう思います。

「なぜ自分がこんな病気になったのか?」

 37才の外科医中山祐次郎氏は著書『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと』で答えます。

「現代の医学では『たまたま』以上の説明はできないのです。」

「いのちの現場にいる医師は知っています。
 ほとんどの人は突然、なんの前触れもなく余命を宣告されます。
 それが何歳になるのか、どんな病気なのか、誰にもわかりません。
 私だって、自分がどんなことになるのか見当もつかないのです。」

「病院で医者をやっていると、『一度も病院にかかったことがないのが自慢だったのに、なんで突然がんになるんだ』とか、『毎年検診で異常なしと言われていたのになぜ、気づいたらがんになっていたんだ』と、おおしゃる患者さんが大勢いらっしゃいます。
 患者さんがそのように思ってしまうのにはカラクリがあります。
 そういう方は三十代、四十代、五十代を、死なずに健康に生きてこられました。
 それまでの多数のいのちの落とし穴を、たまたま上手にすり抜けてここまでいらしたから、そのお歳まで生き残れたとも言えます。
 だからこそ『突然に』がんがやってきたと思ってしまうのです。
 健康自慢で医者にかかったことのない人が、ある日突然治らない病気を宣告される。
 それが現実に起きていることです。」

「この人生の締め切りは、『必ずやってくるくせに、誰にも詳しくわからないし、予測が不可能』なのです!」

 医師は、自分の本音を確かめておくよう勧め、問題を出します。

「もし一年後に歩けなくなるとしたら、この一年でどこに行きますか?」
「もし一年後に目が見えなくなるとしたら、何を見ますか?」
「もし一年後に口からものを食べられなくなるとしたら、何を食べておきたいですか?」
「もし一年後に話せなくなるとしたら、誰と何を語りたいですか?」
「もし一年後に耳が聴こえなくなるとしたら、何を聴いておきたいですか?」

 せつない質問ですが、誰しもが自分の望みを知り、できることとできないことを整理し、できることに取りかかっておく必要があります。
 突然、〈その時〉がやってきても、くよくよせず、粛々と旅立ちの準備をするために。
 最も信頼できる人と今日、逢っておけば、それは一つの達成です。
 大好きな山で雨音を聴くのがたとえ小さなできごとであっても、達成しておけば、〈その時〉の衝撃は必ずいくばくか和らぐことでしょう。

 厳しい現実をそのまま伝えねばならず、その一方で、「失意のまま」病院に来なくなった患者さんや、「驚きのあまり『西洋医学は間違っている』と言って怪しげなサプリメントを出す店に通い、手の施しようがなくなってからまた外来に」やってくる患者さんを見ている医師は「いつも疑問に思って」います。

「はたして患者さんはこの現実に向き合えるのか。
 自分が不治の病にかかり、余命が宣告されることに耐えられるのか」

 アメリカ人のような強い愛国心や宗教心などを持たず、訴訟社会にも慣れていない日本人が、「見よう見まねでアメリカ式個人主義を『直』輸入」してしまった日本人の現状に強い危惧を抱いています。

「信じる神を持ち、来世を信じて死を笑顔で受け入れる人はごくまれです。
 愛する人を守るためと若くして死んでいった特攻隊員のように、集うべき靖国の桜を持ちません。
 主義もなく、宗教もなく、血縁関係も希薄なのです。
 その意味では歴史上かつてないほど、『孤独』であると言えます。」

 そして「精神的支柱を持たぬ」人が独りで「精神的なショック、いや全人的なショックを簡単に医師から与えられる」ようになった現場で立ちすくんでいます。
 だから「新興宗教」や「生き方のマニュアル」などに引きずられるよりも、こうしてはどうかと勧めます。

「死を想い、自分の本音に耳をそばだて、自分にとって本当に大切な人と一緒にいることは、あなたという家を、ささやかながら頑丈にします。
 大嵐の衝撃を和らげてくれるのです。」

 最近また、〈家族を厭う〉、あるいは〈独りを勧める〉、あるいは〈独りであの世を目ざす〉本が売れているそうです。
 人生相談を受け、死を前にした方や、家族をお送りする方々と日々接している現場の宗教者としては、そうした方々の言い分はさておき、ほとんどが各種の意味で〈恵まれた〉人々だから言えるのだろうと感じざるを得ません。
 病気に罹り、旅立つ市井の方々は、家族に助けられて生き、家族の視線を感じつつ安心して旅立ちます。
 家族の縁が薄い方も、「おかげさま」「おたがいさま」と暮らしつつ、信頼と感謝に包まれて旅立ちます。

 医師は述懐します。

「緩和ケアと言う学問にこんな言葉があります。
『人は生きたように死んでいく』
 このフレーズは、『人の最期のときは、その人の人生そのものを凝縮している』というような意味でしょうか。
 一生涯をかけて誰も愛してこなかった人、誰にも本気で尽くしてこなかった人。
 そういう人は、残念ながら誰からも付き添われず、病院のベッドでひっそりと淋しい最期を迎えます。」

「私たち医師や看護師は、薬剤を使って痛みを取り、いろいろな手段で『ソフト・ランディング』を目指します。
 でも、最期を迎える人に寄り添い、手を握り、涙を流して『ありがとう』という人の代わりはできません。
 だから、日頃からご家族や友人など、大切な人との関係を育んでいただきたいと思うのです。」

 もちろん、医師は、お見舞いしてくれる人が多ければ幸せだといった単純なお話をしておれるはずはありませんが、最後に小生の体験を述べておきます。
 Aさんはごく普通のサラリーマン生活をやり遂げました。
 定年になり、ご夫婦でのんびりしようとしていた矢先、末期ガンと宣告されました。
「これも運命だ」
 平然と一言で受け止め、淡々と最期を迎えました。
 枕経が終わり、お戒名をご本尊様へ祈るために、どういう方だったか、ご家族へお訊ねしました。
 ほんの数日前、一緒にある寺院をお詣りしたという奥様の一言。
「とにかく優しい人でした」
 沈黙が流れ、小生はどうにか声を絞り出しました。
「お幸せでしたね」
 目を伏せ、涙をこらえる奥様の前から退去する小生もまた、涙をこらえるのに精いっぱいでした。
 故人のおられる小さな和室を包む沈黙の深々とした情感は忘れられません。

 今日の守本尊阿弥陀如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=4OCvhacDR7Y


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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