コラム

 公開日: 2015-07-23 

幸せな死とは?(その2) ―人を幸せにする医学―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。





〈40年前の結婚式〉

 外科医中山祐次郎著『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと』を読んでいます。

 医師は、「誰もいないはずの部屋のナースコールが鳴った」「誰も入院していない個室で、窓が閉めてあるのにカーテンがずっと揺れていました」「お見舞いに一緒に来た赤ん坊が、何もないところを見てきゃっきゃっと笑っていたり、小さい子どもが誰もいないところを指さして『あれ誰?』なんて言う」などと、意外な事実を述べます。

「医療者であればみな、実は万物を超越した存在を感じていると思います。
 合理的な説明のつかない現象を目の当たりにしている我々は、その見えない『ある力』の存在を否定できないのです。
 だから私は、想定外のことも想定します。
 というより、想定外のことなど何もないと考えています。
 本当に、何が起きても不思議ではないこの世の中、『事実は小説より奇』です。
『何が起きても不思議ではない』と心底思うことができたなら、不測の事態にも動揺が少なくてすみますよね。」

 そして、「医師には、結構ゲンを担ぐ人」がおり、中山医師は執刀の際、「必ず赤いパンツをはくように」しているそうです。

 ある患者さんが亡くなり霊安室を訪れた時のことをこう書きました。

「地下の霊安室の前の廊下は朝からひんやりとして、物音ひとつしない。
 霊安室に近づくにつれ、私は感じる。
 人が死ぬということ。
 死んだ人がいるということ。
 その事実がまわりの空気を冷やしている。」

 また、意外な事実が述べられます。

「以前こんな面白いアンケートを見ました。
『死ぬより辛い状態は存在するか』という質問に、一般の人は三割くらいしか『存在する』と答えなかったのに対し、医師はほぼ100パーセントが『存在する』と答えたのです。
 めちゃくちゃ痛かったり、息苦しくて暴れ回ったり、不安と哀しみで地獄を味わったり、医師は患者さんのそういった辛い状態を実際に見ているので、こういうアンケート結果になったのでしょう。
『いのちを延ばす』ことを至上目標にしている医師たちは、患者さんにも『一時間でも一分でも長く生きることがいいことなのだ』と言って、治療にあたります。
 でも自分たちは『いのちを終えた方がまだマシ』という状態があることに同意している。
 なんとも皮肉なアンケート結果ですね。」

 そして、医師はひとりひとり「口に出すことすらはばかられる『葛藤』」を抱いていると告白します。
 人工呼吸器、点滴、輸血などをどうするか、生死に直結する判断の場面から、医師は逃れられません。

「医学の至上目標は『いのちを延ばす』ことだと言いながら、医師はしばしば、神様が下すような判断を迫られることがあるのです。」

 医師はさらに先へ行きます。

「一度精神科のお医者さんの講演を聞いたときに、質問したことがあります。
『自死はいつも病的なものなのですか。
 死にたいと思う気持は、病気なのですか。
《正常な》自死なんてものは存在しないのですか』と。
 答えは、『きわめて難しいが、精神医学では自死を病気として扱う』とのことでした。
 医学の目的が『いのちを延ばす』ことであれば、自死はひとつの病気として治療の対象になるでしょう。
 でも本当でしょうか?
 死ぬより辛い状態があるということを、いのちを終えるよりほかに解決策がないような苦痛がこの世に存在していることを、医師たちは知っているのに。
 医学の語彙は、自死というもの全体を語るには十分ではない気もしています。」

 私たちも知っています。
 苦痛のみの生から脱するために、自らチューブなどを外して欲しいと頼む、あるいは外してしまう患者さんがいることを。
 家族への負担を打ち切るために、点滴などを外して欲しいと頼む患者さんがいることを。
 あるいは、死期を悟り、残りの人生を治療以外のものに使いたいと願い、治療を受けない病人がいることを。
 小生は、命日を予言し、その日に向けて淡々と法務をこなしたお大師様もそのお一人であると固く信じています。
 
 さて、医師はとうとうたどり着きます。

「そしてさんざん悩んだあげく、今私はこう考えます。
 医学の目的とは、『いのちを延ばす』ことではなく、『人を幸せにする』ことであると。」

「幸せのかたちは人それぞれです。」

 だから、長生きしたい人にはその手助けをし、苦しく痛い治療を避けたい人には無治療という選択肢もあると示し、臓器を提供したい人にはそうした手続きをし、痛み止めを求める人にはたくさん使い、家で最期の時を迎えたい人にはその準備をし、医師へ任せたい人には道を決めてあげます。

「人を幸せにする。
 そのために医者はいるし、医学はあると思うのです。
 ひょっとしたら、『幸せにする』なんて、傲慢でおこがましいかもしれません。
 でも、私は『幸せになるお手伝いをする』なんて他人行儀名ことは言いたくありません。
 そこには『患者さんを幸せにする』という覚悟と、責任を持っていたいのです。」

 ここにある決意は、小生の旗「(人々の)この世の幸せとあの世の安心のために」と何ら変わりありません。
 小生は、役に立たせていただきたいという偽らざる願いを持っていますが、医師は「覚悟と、責任」まで踏み込んでおられます。

 かつてお送りしたAさんは、バブル崩壊後に100億単位の借金を抱えて危機に瀕した企業を守り抜き、傍からはいかなる神力を持っているのかと訝られるほどでした。
 いよいよという頃、震える手を合わせながらAさんは言われました。
「住職さん、私はろくでもないことをさんざんやってきました。
 もう、おすがりできるのはお大師様と住職さんしかありません。
 どうか、極楽へ送ってください。」
 あの時の手の震えと温もりは年月が経ってもまだ、鮮明です。
 低い声で小さく「はい」としか応えられませんでしたが、ベッドにかがみ込みつつ背筋を伸ばす小生の心にも〝必ず〟という石のように動かせない思いが生じました。
 覚悟と責任だったのかも知れません。

 ようやく白みかけてきた窓外の世界はヒグラシの声に満ち、湿り気を帯びた空気はひんやりしています。
 すでに暦は6月の夏至において隠遁(イントン…陰の世界へ入ること)しており、立秋まであと半月です。
 ひょっこり出てきた40年ほど前に撮った写真(友人の結婚式)を目の端に入れながらこの稿を書き終えました。
 今日も引導を渡さねばなりません。
 南無大師遍照金剛。
 
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0



 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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