コラム

 公開日: 2015-08-18 

夜叉と埋もれ火 ―高倉健『夜叉』に想う─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。







 今からちょうど30年前の8月31日、高倉健主演の映画『夜叉』が公開された。

 漁師の修治(高倉健)はかつて大阪・ミナミで「人斬り夜叉」と呼ばれたヤクザである。
 足を洗い、若狭湾の小さな港町で妻や義母や子供たちと静かな生活を営んでいる。
 ある日、子連れの謎めいた美女螢子(田中裕子)が町に居酒屋『螢』を開く。
 やがて、螢子の情人矢島(ビートたけし)が現れて猟師たちへ麻雀を勧め、覚醒剤を売り始める。
 運び屋は何と、かつて修治の舎弟分だったトシオ(小林稔侍)だ。

 修治はミナミで出会った冬子(いしだあゆみ)の実家へ入り、地域の人々から結婚を祝福され、まじめにはたらいているが、冬子は修治が夜叉の魂を捨てられずにいることを知っている。
 母親うめ(乙羽信子)は言う。
「男は変えられんよ。どうするかは女房の腕次第だよ」
 冬子は修治へ尽くし切る。

 ある日、修治から忠告された螢子に覚醒剤を捨てられた矢島は怒り狂って本性を現し、刃物を振りかざしながら螢子親子を追い回す。
 町中がパニックになり、取り押さえようと駆けつけた修治のジャンバーが切られて、背中の入れ墨が顕わになる。
 その日から、修治も矢島も同類のヤクザと見る人々の眼が修治の家族を射す。
 居酒屋『螢』は閑古鳥が鳴き、覚醒剤の代金を払えない矢島は組織に監禁され、町へ来ては螢子から有り金を巻き上げる。
 矢島の子を宿していた螢子は、修治へ矢島の救出を依頼し、矢島が助かったなら腐れ縁を切ると約束する。

 修治は美しい螢子に接し、凶暴な矢島とぶつかり、二人の不幸を前にして〈自分のやり方〉で決着をはからずにはいられない。
 その自分とは夜叉である。
「他人をあてにせず自分そのものを懸ける。
 筋道を通す。
 根本的解決をする」
 これが修治にとっての不条理へ立ち向かう作法であろう。
 穏便に、傷や出血をできるだけ少なくしながらその場をやり過ごそうとする日常生活的作法とは根本的に違う。
 だから、夜叉だ。

 螢子の相談について修治から事態を告げられた冬子は言う。
「船を売ったら?」
 漁師にとっての魂である船を売っても、お金で解決できるのならと、妻は最後の望みを口にする。
 しかし、修治は斜め下を向いて答える。
「俺は金で金で始末をつけたことはない。俺のやり方でやるんじゃ」
 冬子は悲しみの涙が浮かんだ眼を見開く。
「あんたはやっぱりミナミの男だったんやね」
 子供たちの寝顔を見ながら、コートの下に拳銃を隠し持ち、「決めたんじゃ」と妻へ言い遺してミナミの修羅場へ赴く。

 ミナミで修羅場へ乗り込んだ修治は矢島を組織から奪い返し、トシオに身柄を託すが、トシオは救うふりをしながら矢島を刺殺する。
 そして修治へ土下座をして詫びる。
「わしがここで生きるには、こうするしかなかったんじゃ」
 夜叉として自分を懸けられる世界がもはやどこにもないことを悟った修治は、失意のまま港町へ帰った。
 修治から矢島の死を知らされた螢子は、その夜、ミナミへ旅立つ。
 冬子に迎えられた修治は、何ごともなかったかのように漁師の生活へ戻る。
 しかし、夜叉はきっと鎮まっているだけであり、消えてはいない。

 私たちは心のどこかにそれぞれの〈夜叉〉を宿しているのではなかろうか?
 修治にとっての夜叉は前述した三つの方法であり、解放空間としてはミナミの酒場であり、生死を懸けて意地をぶつけ合うヒリヒリした渡世人の世界であろう。
 私たちもまた若き日のどこかで、修治とタイプは異なっても、〈自分なりの作法や、魂が真に解放される空間〉をつかんでしまっているのではなかろうか?
 もちろん、その方法を通し、その空間にのんびりしていられるほど、人生は甘くない。
 妥協に妥協を重ねながら不条理の海を泳ぎ、どうにか生き存(ナガラ)える。
 しかし、修治同様、夜叉は埋もれ火のように〈その時〉を待つともなく待っている。
 多くの場合は、老いと死の訪れが夜叉を消し去る。
 哀しくも美しく懐かしく、最後の夢ともなってくれる夜叉は愛しい。
 
 修治と同じく私たちにも、消えぬ埋もれ火があるのではなろうか。
 それが幸か不幸かはわからないが……。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

この記事を書いたプロ

大師山 法楽寺 [ホームページ]

遠藤龍地

宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL:022-346-2106

  • 問い合わせ
  • 資料請求

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

0

こちらの関連するコラムもお読みください。

<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
Q&A
セミナー・イベント
お客様の声

○Aさん(中年女性)の場合 心身の不調を縁としてご加持を受け、自分の願いが通じると実感されました。 そして祈り方を覚え、商売や家庭にさまざまな問題を抱えなが...

 
このプロの紹介記事
遠藤龍地 えんどうりゅうち

人々が集い、拠り所となる本来の“寺”をめざして(1/3)

 七つ森を望む大和町の静かな山里に「大師山 法楽寺」はあります。2009年8月に建立されたばかりという真新しい本堂には、線香と新しい畳のいい香りが漂います。穏やかな笑顔で出迎えてくれた住職の遠藤龍地さんにはある願いがありました。それは「今の...

遠藤龍地プロに相談してみよう!

河北新報社 マイベストプロ

宗教宗派を問わず人生相談、ご祈祷、ご葬儀、ご供養、埋骨が可能

所属 : 大師山 法楽寺
住所 : 宮城県黒川郡大和町宮床字兎野1-11-1 [地図]
TEL : 022-346-2106

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

022-346-2106

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

遠藤龍地(えんどうりゅうち)

大師山 法楽寺

アクセスマップ

このプロにメールで問い合わせる このプロに資料を請求する
プロのおすすめコラム
自衛隊員の本音 ─出征する覚悟、辞める無念─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 不戦堂建立への道 ]

12月の守本尊様は千手観音菩薩です ─救われる時─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 今月の守本尊様・真言・聖語 ]

Q&A(その32)自業自得なら廻向で救われない? ─因果応報と空の話─
イメージ

 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故...

[ 仏教・密教 ]

一年と一周忌供養 ─あの世でもこの世でも救われる話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 葬儀・供養の安心 ]

消えた因縁 ─心の檻(オリ)から脱した話─
イメージ

 おはようございます。 皆さん、今日もお会いできましたね。 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被...

[ 世間は万華鏡 ]

コラム一覧を見る

スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ