コラム

 公開日: 2015-08-31 

積極的平和とは何か?(その3) ―半世紀前から積極的平和を説くヨハン・ガルトゥング博士―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈クモの糸に絡み、宙に舞って落ちない枯葉〉

 8月26日付の朝日新聞に掲載された「『積極的平和』の真意」と題するインタビューである。
 以下〈〉内は北郷美由紀記者の質問、「」内はヨハン・ガルトゥング博士の言葉である。

〈世界各地で紛争の解決にかかわってきました。〉

「200以上の紛争で仲介役をしてきました。
 1958年に米国・バージニア州で人種隔離政策の調査をしていた時、黒人の子が白人の子と同じ学校に通うかどうかでもめていた地域の話し合いを手伝ったのがきっかけです」

〈20世紀に戦争を繰り返したエクアドルとペルーの国境紛争の解決がよく知られています。〉

「1995年に当時のエクアドル大統領から、国境線について意見を求められました。
 私は、土地を共同で管理するという想像力を持つことはできませんかと持ちかけたのです。
 当初は創造的すぎると受け入れてもらえませんでしたが、同国は3年後に二国間ゾーンを提案、これを一部採り入れる形で和平協定も結ばれました」

〈紛争解決の経験をもとに理論化を重ねてきました。〉

「暴力による解決ではない、別の方法はないものかとずっと考えてきたことが大きいですね。
 母国のノルウェーはナチスドイツに占領され、医者で政治家でもあった父は強制収容所に送られました。
 私は当時13歳、地下新聞を配りました。
 ガンジーの非暴力の思想にも大きな影響を受けています」

「私はずいぶん悩んで良心的兵役拒否をしたのですが、平和について学ぼうとしたら、戦争について書かれた本しかありませんでした。
 それで59年に『オスロ国際平和研究所』をつくりました」

 紛争仲介者による現場からの言葉は説得力がある。
 特に「共同管理」は重大な方法ではなかろうか?
 日本では、北方領土問題における現実的な解決策となりはしないだろうか?

 暴力に頼らず、当事者の双方が納得できるような論理的解決策を目ざす。
 平和裡の解決は誰しもが望む道だろうが、よけいな思惑などがからみ、根本的なところへ手をつける決心もつかないうちに抜き差しならぬところまで行ってしまい、ついには血が流され、いのちが失われる。
 ガンジーという普遍的模範があるのに、その何歩も手前でお茶を濁そうとしてしまう。
 権力者になったり、有名人になったり、莫大な資産を手にしたりすると、それらを失いたくない欲望がはたらき、目前を繕う方向へ行くのだろうか。

〈独自のネットワークを通じ、中東情勢をどう見ていますか。〉

「『イスラム国』(IS)の勢いは止まらないでしょう。
 イスラム教徒にとっての夢を語っている側面があるので。ある調査では、サウジアラビアの9割以上の人が、ISはイスラムとして正しいと答えています。
 首を切り落とすことは残虐ですが、民間人もいる地域に空爆を加えることも残虐です。
 ISの側からすれば、自分たちは米国よりも人を殺していないとなります」

 私たちは普段、こうした情報を得ているだろうか?
 ISは残酷非道な悪魔的集団であるかのように言われるが、いかに「(ISと同じ)スンニ派の盟主」と称されているサウジアラビアとはいえ、9割以上の人々が正しいと判断するのには、理由があるはずだ。
 思えば明治時代、日本人は、廃仏毀釈という政府の大号令によって、それまで祈っていた仏像の首を切り落とし、寺を焼き、僧侶を兵士や神官に衣替えさせ、従わない僧侶は殺されもした。
 ISが異教徒の文化遺跡を破壊する行為に対して「狂気である」と避難する資格があろうか。
 世論が一方的に動かされる時、人はたやすく狂気に走るが、空気が変わり正気に戻ると我が行為に唖然とし、深い悔悟の念にとらわれたりする。
 イスラム教徒であろうと仏教徒であろうと、アジアの人であろうとアラブの人であろうと、人はたやすく正気を失う。
 古人は、私たちが正気であるために、「人の振り見て我が振り直せ」と教えた。
 もし、私たちがISに戦慄し、嫌悪感を覚えるなら、私たちの歴史や社会に似たようなことはないか、また、自分自身の心に、同じような状況であれば同じように振る舞いかねない危うさはないか、よくよく省みたいものである。

〈文明の衝突が起きているのでしょうか?〉

「いいえ。今起きていることは、もっと深刻で重大なことです。
 コロンブスの航海に始まる西洋の植民地主義と、民族を分断する形で人工的にひかれた国境線。
 これを解消しようとする動きが生まれ、対立が起きているのです。
 ISは、かつてイギリスの植民地であったイラクを、フランスの植民地だったシリアを取り戻そうとしています」





 中東やアフリカの地図は、誰が見ても異様である。
 国境線があまりにも直線的に長く長く伸びている。
 そこに暮らしている人々の生活圏と無関係に(きっと強制的に)引かれたことを物語っている。
 博士は、民族や言語や慣習や宗教などを無視して引かれた線に従って生きてきた人々が、矛盾と不条理に耐えきれなくなったのだろうと観ている。
 科学的知恵を武器に応用し、世界中のあらゆる地域を自分の領土として切り取り、世界中から富をかき集めようとしてきた西欧諸国の〈侵略の歴史〉へ「否」が突きつけられていると言うのだ。
 ならば、アメリカが最も尖鋭にIS撲滅を叫んでいる理由がよくわかる。
 イギリスから流れ着いた人々が先住民を滅ぼして奪った場所に建国されたのがアメリカ合衆国だからだ。
 侵略と線引きの歴史に対する否認が根底にあるとすれば、ISの挑戦はまことに「深刻で重大」だ。
 世界全体の激動に結びつきかねない。

〈日本はどのように向き合っていけばよいでしょうか?〉

「西洋の植民地主義に対抗した唯一の国が日本でした。
 当時の日本が非暴力の形で、支配されている人たちに呼びかけていれば、歴史は変わっていたかもしれません。
 安倍首相は戦後70年の談話で、戦前、日本が国際秩序への挑戦者となってしまった過去に触れました。
 けれども、植民地主義というものは挑まれて当然のものだったと思います」

 日本は今、「西洋の植民地主義」への挑戦と戦争の歴史を今の時点で正当化すべきだろうか?
 沖縄の翁長知事は述べている。
「沖縄県は自ら基地を差し出したことはありません。
 米軍に強制的に接収されて基地ができました。
 政府は、普天間飛行場の問題の原点は危険性の除去であると言っていますが、更なる原点は、在沖米軍基地が形成された歴史的経緯にあります。」(7月29日に東京で行われたシンポジウム「いま、沖縄と本土を考える」における発言)
 沖縄県民の8割が辺野古への移設に反対している本当の根拠を考えねば、沖縄における基地問題は解決できないところへ来ている。
 政治は、妥当な地点まで歴史を遡る智慧と覚悟が求められていると言えるだろう。

「日本が米国と軍事力を一体化させていけば、中東で米国の主導する作戦に従事することになるでしょう。
 そうなれば、植民地主義の継続に加担してしまいます。
 米国に追従するのではなく、歴史にもとづく独自性を、外交において発揮してもらいたいです」

 かつて、「西洋の植民地主義に対抗した唯一の国」だった日本の自衛隊が現在、西洋の雄アメリカ軍と一体化しようとしている。
 博士の「植民地主義の継続に加担」という言葉こそ、戦慄して受け止めるべき指摘ではないだろうか。
 私たちは、明治に始まり太平洋戦争の敗戦まで続いた「植民地主義に対抗」する姿勢を、戦後70年経った今こそ、軍事力ではなく、「非暴力」の形で主張すべきではなかろうか。
 そして、世界から戦争と核兵器をなくすという人類の理想を掲げる〈資格のある国〉としての立場を揺るぎなきものにしてこそ、70年を振り返る真の意義が見出せたことになるのではなかろうか。

〈■取材を終えて

「日本の平和運動は一国平和主義」「メディアは暴力ばかりとりあげて、解決策を探ろうとしない」。
 辛辣(しんらつ)な言葉が続いた。
 特別な思い入れがあるだけ、日本の今の状況がもどかしいのだろう。
 博士の指摘や提案を「理想に走りすぎ」「浮世離れしている」と遠ざけてしまうことは簡単だ。
 その方が頭も心も乱れないですむ。
 けれども、それこそが思考停止なのではないかと思う。〉
  
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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