コラム

 公開日: 2015-09-21 

二階は無事なれば帰雁の見えにけり(友岡子郷)

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈「恒」の元字です〉


〈月の女神〉

 平成7年1月17日、阪神淡路大震災が起こった。
 当時61才だった友岡子郷は、自宅の二階から地上の事態と雁の群れを眺めていた。

「二階は無事なれば帰雁(キガン)の見えにけり」

 高層マンションに住むことが普通になった現代の人々はあまり感じないかも知れないが、二階というのは一種、独特の空間だった。
 立っても座っても横になっても、地上の一階に暮らしているのと何ら変わりはないのだが、視点が違う。
 足元は何ら不安がないのに、視点だけが空中にある。
 それは地上全体を俯瞰し、空に近づいている。
 物理的には地上にいるのとそれほどの違いはないはずだが、心理的には明らかに地上から遠く、空は手を伸ばしたくなるあたりに感じられる。

 小生は子供の頃、倉庫の二階に小さな勉強部屋を造ってもらって以来、東京のあちこちでアパート暮らしをする時も、必ず二階建ての二階を選んだ。
 今でも夢の中で、あの勉強部屋にいたり、当時、まだ田畑や林が残っていた国立の小さなアパートにいたりする。
 だから、この句が二階にいたからこそ詠めた事情はよくわかる。

 ここで言う「無事」は、ただ、地震で崩れなかった、あるいは火の手が廻らなかったというだけではない。
 自分がいつも世界を観る不動の〈眼〉は、周囲の崩壊に関わりなく確保されていることを意味する。
 その眼が、時節という天地の巡りに合わせ、地上のできごとに何らの影響も受けず淡々と北へ向かう雁の群れをとらえたのだ。
 雁は動き、子郷は動かないが、両者共に恒久の世界に住む〈恒〉なる存在だ。

 孟子は、「恒産(コウサン)無くして恒心(コウシン)無し」と説いた。
 人々は、住む家や継続できる職業を持たないと、往々にして道義心を失いかねないという戒めである。
 安定した生活を保障するモノのあるなしによって、私たちの心持ちも安定したり、不安にかられたりしがちであることは否めない。
 しかし、この句にまつわる「恒」は、そのあたりとかなり意を異にする。

 そもそも「恒」の字は、月中に住む恒娥(コウガ)と呼ばれる女神の姿に発している。
 何があっても月は照り、満月の日を迎えると、女神はそこに居る。
 恒久なのだ。
 行く雁も、見送る子郷も、不動である。

 そんな子郷は二階を降りた。
 そして詠んだ。

「倒・裂・破・崩・礫の街寒雀」

 崩壊した世界でなお、寒雀はさえずっている。
 いつもの冬と変わらずに。
 大寒に四国八十八霊場を巡ったおりに出会った寒雀」を思い出した。
 何十年ぶりという大雪に見舞われた四国では、どこの霊場も閑散としていた。
 小生を待っていたかのように雪かきされた参道の脇で、雪を被った笹竹と赤い実の見える植物があるあたりに雀の軍団がいた。
 チチチッ、チチチッという鳴き声とバサバサッという羽音、そして振り落とされる雪。
 閉ざされる人間世界とお構いなしの活躍ぶりに力をもらったような気がしたものだ。
 一方、同じ〈鳥〉に出会っても、ドイツ戦没学生リヒャルト・シュミーダーにとってはこうなる。

「青いフランスの服が灰色のドイツ服と地上に入りまじり、死者は場所によっては非常に高く積み上がっていたので、それを砲兵に対する掩蔽(エンペイ…土堤)にすることが出来る位でした。
 騒音の中で、命令が耳から耳へとどなり伝えられました。
 戦いの騒音と負傷者の呻き声の間に短い休止が生じると、高い青空に鳥が嬉々と歌い囀(サエズ)っているのが聞こえました。
 故郷の春の鳥の歌!
 あゝ、心臓をむしり取ってしまいたいような気持です。」

 不動の視点と心を持ちたい。
 そして、それが限りなく不可能へ近づく戦争を避けたい。
 
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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