コラム

 公開日: 2015-10-24 

死の悲しみから立ち直る道(その2) ―喪失の苦痛と向き合う―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 今回は、死の悲しみから立ち上がる方法の第二番目、喪失の苦痛と向き合うことです。

2 死の悲しみがもたらす苦痛を知り、そのはじめから終わりまでを体験すること。

 親しい人、身近な人の死は、たとえようのない精神的苦痛をもたらし、多くの方が、何とかしてその現実から逃れたいと願います。
 しかし、寝ても覚めても、仕事をしていても故人のことが不意に頭へ浮かび、たまらない気持になったりします。
 ある方は仕事が上の空になります。
 ある方は酒に浸ります。
 ある方は旅に出ます。
 ある方は引っ越します。
 ある方は後を追いたくさえなります。
 何をしても逃れられないのですが、何かをせずにはいられず、苦しみます。

 お釈迦様は一人娘を亡くして半狂乱になっているキーサゴータミーへ、芥子の種をもらってきたなら救われると約束しました。
 ただし、条件があります。
 死者を出したことのない家からもらわねばなりません。
 ご先祖様のいない人は誰一人いないので、村中を歩いても、ついに種はもらえませんでした。
 彼女は、この過程を通じて死と向き合い、自分だけでなく誰しもが親しい人の死を体験しているという事実に気づきました。
 無常の鬼はすべての人びとへ訪れていたのです。
 うちひしがれて戻って来た彼女へ、お釈迦様は諭されました。

「この宇宙にはたったひとつけっして変わることのない法則があります。
 それは、すべてのものは変わるということ、すべては無常だということです。
 子供の死があなたの目を開かせてくれたのです」

 彼女はやがて、アラカンさんになりました。
 
 こうして「人は必ず死ぬ」という単純な事実を〈本当に知った〉人びとは、執着心という苦しみの元を手放すことができます。
 そして手放した後には、必ず、優しい心がはたらきだします。
 臨死体験者もそうです。
 あるいは重篤な病気になって気づいた方もおられます。

 医師フレダ・ネイラーは書きました。

「わたしはこういう事態にならなければしなかったような体験をしている。
 それについては癌に感謝しなければならない。
 わたしは謙虚になった。
 死ぬべき存在としての自分を甘んじて受け入れるようになった。
 自分の内なる強さを知った。
 これにはつねづねわたし自身が驚かされている。
 他にも自分自身に関する多くのことを知った。
 それは、わたしがここにきて立ち止まり、振り返り、再び歩きはじめることを余儀なくされた結果に他ならない」

 死を前にしたお祖母ちゃんは笑顔になり、こう言って孫の頭を撫でてくれたそうです。

「私は世界中で一番幸せな病人だよ」

 お別れの言葉が継げた真実です。

 東日本大震災で娘さんを亡くされたAさんは、四国遍路を始めました。
 一回目は無我夢中、おりおりに娘さんとの思い出が瞼に浮かび、泣き泣き歩きました。
 路傍の小さなお地蔵様が愛おしく、哀しく、とても身近に感じられました。
 二回目は歩き方を覚えましたが、やはり、とても泣けました。
 ただし、それが、我が子を失ったせいなのか、それともご加護のありがたさによるものなのか、よくわからない瞬間もありました。
 三回目は、どの札所でもただただ、ありがたく、涙が感謝の涙であることを確信しました。
 お仏壇でお線香を上げる時も、意識がお位牌へ向かうだけでなく、真ん中におられるご本尊様のありがたさを実感できるようになったそうです。

 夫を亡くし、七回忌の法要で、ようやく喪失感から抜け出るまでに回復されたBさんの例もあります。
 たった一人で行われた法要後の法話で申しあげました。
「七回忌は阿閦如来(アシュクニョライ)様のお導きの時期に当たります。
 この如来様がおられるのは、瑠璃(ルリ)の光に満ちた東方浄土です。
 小生はいつも、こう感じながら拝んでいます。
 三回忌で、日が沈む方位の西方浄土におられる阿弥陀如来様のもとでゆっくり休み、七回忌の頃には、東から昇る太陽のような転生(テンショウ)の動きが始まっているのでしょう。
 故人は素晴らしい方だったし、こうして追善供養という尊い廻向(エコウ)も重ねて来られたのですから、きっと、よい世界へ生まれ変わられることでしょうね」
 あの時、Bさんの目には涙が浮かび、その涙には、いつもと違う光も宿っていました。
 数日後、「立ち直れました。しっかり生きます」という手紙が届きました。

 当山では、ご葬儀の後で行う短い法話において、しばしば、こう申しあげます。
「故人は今、自分の死をもって、皆さんへ大切なことを知らせておられます。
 皆さんは立ち止まり、日常の忙しさから離れたひとときを持っています。
 そして死と、無常と、向き合っています。
 普段、忘れている無常の真実に気づいておられます。
 そしてもう一つの真実について知ることができました。
 お線香を点すのは精進を誓い、精進する姿を故人へ見せて安心してもらうためであり、花を飾るのは忍耐を誓い、忍耐強く生きる姿を故人へ見せて安心してもらうためであり、故人は、供養という尊い文化にあらためて気づかせ、私たちへ人生修行の機会をつくってくださったのです」

 親しい人や可愛いペットなどの死と向き合うのは、かけがえのない何ごとかの入り口です。
 すべては時々刻々、変化して止みません。
 悲しみも辛さも、永久に続くわけではありません。
 無常の真実が観えてくれば、そうした感情をおこさせる〈無常の忘却〉はなくなります。
 そして、無常が肌身に沁みてわかれば、キーサゴータミーのように、悟りを開けるかも知れません。
 フレダ・ネイラーさんのように、謙虚になり、自分の強さを知るかも知れません。
 Aさんのように、み仏のご加護を実感できるかも知れません。
 Bさんのように、しっかり生きられるかも知れません。
 始まる〈何ごとか〉は、きっと、救いの道に違いありません。
 真言やお経は、その強力な伴走者になり得ることでしょう。
 
 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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