コラム

 公開日: 2015-11-03 

あの世のことがなぜ、わかるのか? ―『チベットの生と死の書』を読む(4)―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 ソギャル・リンポチェ師の著書『チベットの生と死の書』は、生と死を考える人びとへ重要な示唆を与える一冊である。
 伝統仏教の最先端を示し、かつ、最奧をもかいま見せる高貴な魂の結晶である。
 師は「仏法をより近づきやすいものに、現代的、実践的なものにするために著した」とされているが、700ページ近い力作で、なかなか読み通せないかも知れない。
 以下、全体の概要というよりは、いくつかのポイントを挙げておきたい。

1 バルドの教えは科学的か?

 師は弟子たちからよく訊ねられるという。

「わたしたちはどのようにしてこれらバルド(死と再生の間にある中間状態)の何たるかを知ったのか。」

 あの世に行って写真に納めてきたわけでもないのに、なぜ、死後の成り行きがこうであると断言できるのかという〈科学的〉思考に慣れ親しんだ私たちにとって至極、あたりまえな質問である。
 師は「現代西洋における〈精神〉の概念はきわめて偏狭なものだ」と言う。

「近年の、特に精神と肉体に関する科学や超個人心理学(トランス・パーソナル・サイコロジー)による目覚ましい現状打破の動きにもかかわらず、科学者たちの大半は相変わらず精神を脳における生理作用以上のものとみなしてはいない。
 しかしそれは、あらゆる宗教の神秘家たちや瞑想者たちの体験が数千年にわたって語り伝えてきた事実に反するものだ。」

 また、仏教についてアメリカの学者が述べた見解を紹介している。

「内なる科学は、実在についての徹底的で包括的な知識のうえに、自己と世界についての揺るぎない深い理解のうえに、成り立っているのである。
 言い換えれば、覚者(ブッダ)の完全なる覚醒のうえに成り立っているということである。」

 科学が研究者の発見と検証と利用の積み重ねとして成り立っているのと同じく、宗教的知見もまた修行者の観照とその追体験、及び工夫が重ねられて成り立っている。
 科学的真理は数値などを理解する人びとにとって明らかであり、宗教的真理は宗教的修練や覚醒、あるいは救済を求める祈りによって明らかとなる。
 また、分子式などを勉強しなければ科学的論述がチンプンカンプンで理解できないのと、教えを学び実践しなければお経がチンプンカンプンなのは同じである。
 当山では、お聴きいただく方々がある程度、理解されるように、お経の読み下し文を多用してはいるが、それには限度があり、ここ一番という法を結ぶ段階では、伝統的お次第に従い、最奧の経典を伝授されたとおりに用いるしかない。
 外科手術を受ける時、執刀医へメスの使い方を説明させようとする人はおられないだろう。
 それと同じく、修法もプロの行為であると考えていただくしかない。

「バルドの教えはその源を覚醒した精神に、完全に目覚めた覚者(ブッダ)の精神に発し、原初仏から連綿と連なる幾多の志たちによって体験され、語り伝えられてきたものである。
 師たちは、精神についての発見を、何世紀にもわたって、科学的といっていいほど周到に入念に探究し体系化してきた。
 それがわたしたちに生と死を望みうる最高の形で図式化して見せてくれているのである。」

 お大師様の密教体系も、ダライ・ラマ法王やソギャル・リンポチェ師が説くチベット密教も確かに精緻であり、万人へ開かれている。
 それを日々〈体験〉し、科学の成果にも深い関心を持ちつつ生きている一行者としては、科学と宗教が文明を導く車の両輪であることが実感できる。
 物理学者デヴィット・ボーム氏は言った。

「世界は流動し続ける完全無欠な全体性として存在している。」

 それは、あらゆるものが因と縁によって生じ滅する無常にあり、その全体が因果応報の理によって動いていると考える仏教の世界観と重なっているではないか。

2 「なぜ?」の問い方

 冒頭の疑問に対しては、覚者(ブッダ)が観た世界の真実性を確かめたいのなら、強い問題意識と探求心をもって教えに学び、仏法を体験してみればわかる、と答えるしかない。
 科学の発展も仏法の深化も、根本的問題意識なしにはあり得なかった。
 自分が紡いでいる生の頼りなさ、必ず訪れる自分の死に対する不安や恐怖と本気になって向き合う時、きっと「死後の世界がなぜ、そうであるとわかったのか?」ではない、別な疑問が湧いてくることだろう。
 
 小生もそうだった。
 受験の失敗に始まった彷徨での問いは、人生がかかっていたつもりでも、〈生きられる〉環境にあって発した甘いものだった。
 生きて行けるかどうかの崖っぷちで、ようやく本当の疑問、探求心が起こった。
 何もなくなったのに、自分をそのまま映し出す鏡が目の前にぶら下がり、逃げられない。
 自己弁護も逃避もできず、自分そのものをどうにかするしかない。
 偽りの自分にはもう、すがりようのないところで、一本の道が待っていた。
 ただし、幸いにも師は最初から、道の盲信を戒めた。
「教えは仮説じゃ」
 問いを忘れず生きてみよ、そこで自分の血肉になったものだけが真実であると説かれたのだ。
 だから、お釈迦様が「教えの内容を聴いたなら、必ず自分で咀嚼せよ」と溶かれ、ダライ・ラマ法王が科学者との対話を欠かさない理由がよくわかる。
 本当の問いを発しないではいられない人生の局面が真理・真実へと導く。
 『チベットの生と死の書』は、そうした疑問をまっすぐに受け止める。
 失意にある方、誰かを失った方、何かを失いそうな方、行き場のない方……。
 皆さんと共に読み進めよう。

「のうまく さんまんだ ぼだなん あびらうんけん」※今日の守本尊大日如来様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=LEz1cSpCaXA


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、この世の幸せとあの世の安心を祈っています。

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