コラム

 公開日: 2015-11-26 

自死に表れた時代の空気 ─教師と僧侶の対話─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈ジャズスポット・エルヴィン(宮城県登米市迫町佐沼)様のサブスピーカー〉



1 将来を属望されていた青年の死

 人格識見に申し分なく順風満帆だったはずの若者が配転先で自死に及び、周囲の方々は驚き、困惑したという。
 原因はパワハラではないかと推測されるものの、彼が追いつめられていたという感触を持っている人は誰もいない。
 あまりの脆さ、あっけなさに、本人をよく知っているAさんが、人生相談に来られた。
「これは、彼の個人的事情だけの問題とは思えません。
 何か現代の病のようなものがからんでいるのではないでしょうか?」
 二つ、気になっていることを申しあげた。

2 自分だけの関心事に絡め取られた容疑者

 一つは11月14日に容疑者の自首で発覚した東京都江戸川区における女子高生岩瀬加奈さん(17才)殺人事件である。
 アルバイトで生計を立てていた青木正裕容疑者(29才)は「生活が苦しくて自暴自棄になっていた。殺したのは興味半分」と供述している。
 絞殺に異常な関心を持っていた容疑者は、実行後、〈普通に〉2日間を過ごしていたという。
 自分が殺した相手の遺体を浴室に放置したまま日常生活を続けていた容疑者は、かねてもっとも関心を持っていた絞殺があっけなく実現し、いわば人生の目的が達成されたかのような放心状態に陥っていたのではなかろうか?
 人を殺す重大さ、それが自分や家族にもたらす苦渋、人生の行く末、もちろん、殺す相手の思い、破壊される人生、そしていのちの愛おしさ、何もかもが、〈自分の関心事〉に対する執着心によって、考慮の外へ追いやられていた。

 今は多くの国民にとって生きにくい時代になったが、敗戦後、半世紀を越える平和のもとで経済の発展に専心して生きた日本は、誰もが生きられる国にまでなった。
 生きるために鍬を取り、網をかけ、工場へ通うといった、生まれた環境における必然的な人生の推移から自由になり、一億総〈自分探し〉が行われてきた。
 立候補した政治家が「自分の人生勝負です!」などと絶叫しても、聴衆が了見の異様さに気づかず、乗せられる国になった。

 誰もが、いつでも、自由に、生き方を選べることは、人として生まれた以上、誰にでも具わった権利であり、そのように生きようとすることは本来、誰にも止められない──、とされた。
 しかし、希望も夢も頭の中でいかに広がろうと、自分の肉体、能力、生まれた環境など、自分を限定する条件の中でまず誠実に生きる先にしか実現し得ないという現実が、あたかも〈ないもの〉であるかのように忘れられ、すべてを選べ、実現できて当然という錯覚が広がった。
 その錯覚は、次々とモノを得させようとする消費社会が助長した。
 モノや金を得た者が自由の体現者として英雄視され、若者たちは、早くそこへ行ける自分なりの道を見つけようと浮き足立った。
 しかし、当然ながら、自分を限定する条件からは誰一人、逃れられない。
 生きつつ体現して行くことの困難さに直面した人びとは、〈自分の関心事〉という王城を築くようになった。
 王城はどんどん頑丈になり、果てしなく〈自分だけの関心事〉となり、王城を守ることがもはや、人生の目的となってしまっている。
 他者はその目的に合致した相手しか必要でなくなり、それに手をかけようとしたり、批判を向ける者は許せない。
 青木正裕容疑者のことは何も知らないが、彼の行動がこうした時代の特徴と無縁であるとは思えない。

3 矛盾や曖昧さを許さない社会

 二つ目は、心理療法家だった故河合隼雄京都大学名誉教授の言葉である。

「人間の思想とか、政治的立場とか、そういうものを論理的整合性だけで守ろうとするのはもう終わりだ、というのがぼくの考え方なのです。
 人間はすごく矛盾しているんだから、いかなる矛盾を自分が抱えているかということを基礎に据えてものを言っていく」

 ついこの間まで、矛盾を抱えた人間同士が主張をぶつけ合う時は、多くの場合、お互いに〈落としどころ〉を考えていたものだ。
 それが〈大人の流儀〉とみなされていた。
 人間や社会の多様性、多面性、矛盾などについて、いまだ体験を通した知に達していない若者たちが論理のみで対決する様子を、大人たちは「まだ若い」と揶揄(ヤユ)したものだ。
 しかし、ほんのわずかな期間に、人間の姿勢と社会の気配が一変した。
 清濁併せ飲むはずだった政治家すら、あらゆる場面を斬るか斬られるかの修羅場とするようになった。
 単純なフレーズで賛成か反対かを問い、勝った多数派は敗れた少数派を相手にしない。
 掲げた論理を絶対視し、「原理主義」と言えば聞こえがよくないので、「ピュア」「本もの」などを標榜する。
 矛盾を包み込みつつ共存をもたらす智慧と思いやりが剥落し、我流の正義同士が戦う殺伐とした光景があちこちで広がっている。

 生身の人間と一対一で向き合う教授には、そうした社会の空気が、〈矛盾した存在である個人〉の心にも白黒、正邪の踏み絵を迫る緊迫した雰囲気と息苦しさを与え、ついには精神を病むところまで来つつある状況がよく見えていたのだろう。
 ここにも、勝者が敗者を見向きもしない弱肉強食の資本主義社会における無慈悲さが色濃く表れている。
 矛盾と曖昧さによってようやく生をつなぐ一人一人も、そうした一人一人によって構成されている矛盾とあいまいさを孕んだ社会も、本来のありようが許されないとしたら、社会はギスギスし、個人の心は傷だらけになってしまう。
 そもそも、矛盾と曖昧さがあればこそあらゆるものが変化しつつ過ぎ行く諸行無常なのであり、物理学もまた、世界が曖昧に成り立っていることを突きとめているというのに……。

 教授の言葉が発せられたのは28年前である。
 とっくに「もう終わり」になったはずの「論理的整合性だけ」を求める各方面の姿勢はますます先鋭化し、私たちはいつの間にか、常に白か黒かと迫られ、誰しもがそうした踏み絵を迫る正義の剣を持った闘士となりかけているのではなかろうか。
 目先の成果を競う経営者や政治家の性急さはその典型と言えるのではなかろうか。
 私たちは本当にこうした社会を望んでいるのだろうか。
 教授の言葉をあらためてかみしめ、一歩、先へ進みたい。

4 子供たちの指導

 こんなことを申しあげたら、Aさんは静かに言われた。
「彼が何とか城の門、いや、せめて窓を開けてくれれば、死なずに済んだかも知れませんね。
 私たちは、自分の城だと思って執着しているものに絡め取られている自分の姿を観る余裕を持ちたいですね。
 今後は子供たちへ、自分の夢を探せ、だけでなく、仲間の夢も大切にしなさい、と指導しようと思います」
 青年はあの世で、このやりとりをどう聴いているのだろうか……。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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