コラム

 公開日: 2015-12-09 

自己と非自己の境界はどこにあるか? ─ファジーさの救い─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈私たちを導く叡智〉



〈浜に感謝、届けてくださった浜の方へ感謝です〉

1 胸腺の不思議

 今から約20年前に故多田富雄博士によって書かれた『免疫の意味論』はまったく色あせないどころか、人と人、国と国との関係が硬直し、ぶつかり合う度合いを強めている状況下にあって、私たちに重要な示唆を与えてくれる。

 そもそも、免疫とは〈自己を守るシステム〉だが、では、どこまでが〈自己〉であり、どこから先が〈非自己〉であるかという境界は、研究を進めれば進めるほど、曖昧であることが明らかになったという。

「非自己は自己の延長線上にあって、自己と非自己の境界はその時その時で自ら決めているという、そういうことになってきています」
 
 現在、免疫の中枢臓器と考えられているのが胸腺である。
 この臓器は、約半世紀前までほとんど注目を浴びなかった。
 生後まもなく最も活発に動き、10才ほどで最大の大きさになった後はどんどん縮んで40才ぐらいで10分の1になり、老年期では何10分の1でしかなくなる。

「胸腺は年令を非常によく反映するわけですが、小さくなってしまった胸腺を若い動物に移植しますと、また大きくなるんです」

「若い動物の胸腺を老化した動物に入れますと、しばらくは働いているんですけど、やがてまた小さくなってしまうんです。
 ですからどうも胸腺を動かしているものがほかに何かあるらしいんです。
 それがわからないんです。」

「(寿命に至る)プログラムは、胸腺の中にある程度まで書き込まれていると思いますけれど、またさらにそれを調節している上位のものがあるらしい。
 そんなことが最近わかってきたんです。」

 これほど重要で不思議なはたらきをしている胸腺は、子どもの時期に大きく膨らむので、かつては何かの病気に関わっていると疑われた。
 その結果、病気になった子どもを救おうとしてX線で破壊されるケースが多々、あった。
 今日では、脳神経系、胸腺を含む免疫系、内分泌系などが複雑に絡み合って身体の統合能力を保っていることが解明され、悲劇はなくなった。
 しかし、それら全体を統御している臓器は発見されていない。

「システムは完全にプログラムされているものではなくて、外部から何か刺激があればそれに反応するけれど、内部的に調節が働いて、結局は自分の中にもともとあった全体性のようなものを保つ、いわゆるホメオスターシスを保つための臓器系といわれています。
 しかし、それらの全体を統御しているもう一段上の臓器があるわけではない。」

「発生から免疫反応にいたるまで、完全にDNAで決められているというわけではなくて、状況に適応しながら新しいものをつくっていくというシステム、そういう仕組みがあって、そのへんが生物学の面白いところなんじゃないかと思いますね。」

2 ファジーな身体と心

 私たちは、生まれ持ったDNAの指令によって個体の身体がつくられるというイメージをもっているが実際は違う。
 そもそも人間の身体の99・99パーセント以上は同じものでつくられているのだ。
 生まれ持った条件に、まったくプログラムと無関係の外部環境がかかわり、〈一人の人〉を特定する新しい生きものとしての身体がつくられ、保たれ続ける。
 しかも〈一人の人〉全体を統御しているものはわからない。
 実に神秘的ではないか。

 こうしたありようは、心の姿にも通じている。
 心が幾重にもなり、変化しやすい部分と変化しにくい部分があることはある程度、わかってきたが、何によって特定の〈自分〉という意識が生み出されたのかはわからないし、確かに自分であるはずの身体のどこを探しても自分の心は見つからない。
 何が〈自分〉の全体を統御しているのかもわからない。
 しかし、生まれる前に何らかの原因があってこそ、自分は自分として生まれ、ここにいる。
 育ちや生き方によってどんどん変わり、中には〈別人〉のような人へと変貌を遂げる人もいるが、どんなに変わろうと、依然として〈その人〉は〈その人〉以外の人にはなり得ない。
 これまた神秘的ではないか。

3 ファジーさと危機管理

 私たちは、身体も心も、それを特定する境界がある程度不確か(ファジー)であればこそ、恒常性(ホメオスターシス)を保ちつつ存在できる。
 それは危機管理上、必須の条件であるとも言える。

「体のほうは見事にプログラムされているわけではありませんから、かなりファジーなやり方で、条件次第で反応しているんですけど、そのほうが危機管理としてはうまくいっているということもあると思いますね」

 さて、多田富雄博士の発言は、平成7年に新潮社より刊行された対談集『こころの声を聴く』に載っている。
 この対談の締め括りに故河合隼雄博士はこう述べた。

「危機管理という点でいうと、ファジーなほうがいいというのは、たとえばわれわれのところに相談に来られる人がみんなそうなんです。
 みんな思いがけないことに遭遇して不幸になっておられるわけですね。
 思わぬ事故にあったとか、思いがけない人が亡くなったとか、思いがけなく先生に怒鳴られたとか、そういうようなことがあって、みんないろいろな状況になって相談に来られる。
 その時、だいたいファジーなところが少ない人は、その状況にガツーンといかれてしまうわけですね。
 ファジーさをもっている人は、危機状況の時に強いといえますね。
 ただ、人間の思想とかの体系でいうと、ファジーすぎる人は、危機でない時に負けたりしますので、難しいんですけども、との点でいうと、身体のシステムはすごいですね」

 日本文化の研究者ヨーク大学教授テッド・グーセン氏は対談を読み、すぐに『免疫の意味論』を買ってきた。
 実際に読んでみなければ心の〝声〟を聴けないと思ったからである。
 そして、『こころの声を聴く』のあとがきに述べた。

「この対談集は『国家の知的健康』によく効く薬であることはまちがいないと私は思うのです」

 知的とは何よりも自己を絶対化せず、自己を省み、自己を客観的に観て全体を想う視点に立つ姿勢ではなかろうか?
 多田富雄博士の言葉は忘れられない。

「非自己は自己の延長線上にあって、自己と非自己の境界はその時その時で自ら決めている」

 敵対も親和も決して自動的に決まりはしない。
 相手だけが決めているのでもない。
 最終的に決めるのは「自ら」である。
 ぜひとも、知的健康さを失わない日本であって欲しい。

 今日の守本尊勢至菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=qp8h46u4Ja8


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。合掌

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