コラム

 公開日: 2015-12-31 

大三十日定めなき世の定哉 ─井原西鶴と飯田蛇笏の大晦日─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 井原西鶴(イハラサイカク)は大晦日(オオミソカ)を詠んだ。

「大三十日定めなき世の定哉」

「大三十日」は大晦日である。
 この「晦」には、不明確という意味があり、そもそもは太陰暦において、15日に満月になった後、新月へ向かって月が欠けて行く時期、そして、すっかり欠けきり真っ暗になった30日を指した。
 やがて、「晦日」は月の〈末日〉として用いられ、一年の間に12回ある末日のうち、もっとも重要な日として12月31日が大晦日となった。

 井原西鶴は、名にし負う元禄のベストセラー作家だった。
 浮き世のありさまや人情の機微を知り尽くした西鶴にとって、大晦日に繰りひろげられる人生模様には、特に哀れさ、健気さ、あるいは諦観を感じさせられたのではなかろうか。
 すべては変化し有為転変(ウイテンペン)して、流れゆく時間の中で何一つ屹立し続けるもののないこの世にありながら、私たちは、それを知りつつも何かへしがみつかずにはいられない。
 義理、人情、名誉、あるいは儲けといったものが、私たちに我と我が身を懸けさせる。
 特に師走や大晦日といった大きな区切りの時期には、そうした〈けじめ〉の意識によって、悲喜こもごもの〈決着〉がはかられてきた。

 江戸時代には、盆と正月が商売上の支払期限となっていたこともあり、借金している者はいよいよ返済に迫られ、切羽詰まるのが大晦日だ。
 敗戦後の昭和20年代にあっても、大晦日には、衣類はもちろん鍋や釜や布団なども質草になった。
 子供の頃、やもめ暮らしの中年女性が胸の前で腕を組み、親指と他の4本の指とで二の腕を挟みつつ、コートも羽織らず俯(ウツム)いて質屋の門をくぐる光景に出会った。
 娑婆にいた頃、支払いができず正月を迎えられない小生のため、風邪をひいた幼子を背負いながら資金を用意してくれた友人の姿は、夜の暗さ、風の寒さと共に、今も記憶に鮮明である。

 私たちは明日のいのちも確かでない〈定め〉なき身であり、何一つ確かなものとてない〈定め〉なき憂き世ではあるが、時の流れだけは確かであって、大晦日は誰にでも等しく訪れる。
 ──否応なく。
 定めなき身が、定めとしての大晦日をどう過ごそうか。
 因果応報の〈果〉をどう生きつつお正月を迎えようか。

 答の一つが飯田蛇笏(イイダダコツ)の一句である。

「父祖の地に闇のしづまる大晦日」

 一年の終わりは、いのちの終わりを連想させる。
 誰もが上上大吉(ジョウジョウダイキチ)を願う新たな年を迎える夜の闇はいつにも増して深く黯(クロ)い。
 かつてこの世に在り、いのちと心を受け継いでくださったご先祖様たちは、この地のどこかに、気配を留めておられる。
 そもそも、私たちが生きて在る以上、必ず気配をまとっているはずなのだ。
 忙しい日常生活にあっては、誰もそのことに気づかない。
 しかし、否応なく訪れた区切の時を前にして、敵や獲物に全身の神経をそそぎつつ物陰で息をひそめる獣のように、密やかな静けさへ身を置く時、我が身にまとっていた気配が天地と感応して闇の中から気配が立ち昇る。
 あくまでも静まり、鎮まりながら。
 
 きらきらしいお正月を前にして、せめてこの日ぐらいは、その静まりに身を置きたい。
 そして、冥界から降りて来られる無限のご先祖様方と共に新たな年を迎え、祝いたい。

 今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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