コラム

 公開日: 2016-01-04 

【現代の偉人伝】第219話 ─限りない挑戦を続ける陶工森陶岳氏─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈NHK様よりお借りして加工しました〉

  1月3日、朝の慌ただしい中、天気予報をやっていないかとたまたまつけたNHKテレビで恐ろしい場面を見た。
 備前焼の陶工森陶岳(モリトウガク)氏が、その年の作品がすべて取り出されたあとの窯を眺めながら、呟いていた。

「もう窯から出た作品をしみじみ見ようという気はしていない。
 もうこれは終わったものであって、もう、次に気持が移って行かないといけない」

 創造者の真骨頂である。

 オンデマンドで番組を確認した。
 かいつまんで書いておきたい。

 78才になる氏は全長85メートルに及ぶ巨大窯を擁して、古備前を超えた作品に挑戦している。
 1人で寝起きしている工房はまさに道場、氏は行者であるる。
 絵付けや釉薬(ユウヤク)のない備前焼は炎と土だけで創られる。
 薪から出た灰が溶けて硝子化した胡麻と呼ばれる模様が、いわば天然の釉薬の役割を果たしている。

 氏は25才で美術教員をやめて家業を継ぎ、父親の窯(全長10メートル)で斬新的な作品を創り、奇才と称された。
 しかし、ある美術館で400年前の古備前を目にし、膨らみかけていた自信は崩れ去った。

「過去に作られた作品に触れた時は感動を覚えるにもかかわらず、自分で精いっぱい作った作品はそういった心が動くような内容になっていない。
 なぜならないのか、常に思うようになった。
 この疑問を解かない限り、これから先へ仕事が続けられない」

 気づいたのは自分だけであり、このまま有望陶芸家としてやってゆけば、何の不自由もないだろうが、〈なっていない自分〉を知った以上、このままではいられない。
 誰もが認める天才だったお大師様が高級官僚への道を捨てて乞食同様の行者となり、托鉢を行ったのも、〈わかっていない自分〉に気づいたからに他ならない。
 世間がどうであれ、自分を騙すことはできないのだ。
 氏はこの地点から古備前への探求を始めた。

 古備前については当時の文献資料がなく、窯の遺跡に答を求め、歩いて調べ、書き留め、全長50メートルの窯で焼かれていたことを突きとめた。
 36才になっていた氏は、ためらわず借金で兵庫県相生市に46メートルの窯を造った。

「疑問を解消するためには大窯でなければいけないのではないか。
 古備前の歴代の特徴である大窯に焦点を合わせて、その大窯自体にどのようなことを行ってきたか、まずそれで検証して行こう。
 この仕事にかかわる段階では、もう経験もないし、焼き物の知識もないし、哲学も持って入ったわけでもないので、もう何かわからないけど勢いだけで右往左往している。
 そのうちに何か肝腎な光に値するようなものがある時期、感じられる時がある。
 それを感じた時にはもう、その焼き物の世界から抜けられない。
 突き進むしかない、ということを思い知らされる時がある」

 光をたよりに50メートルの窯で作品を創り始めて10年が経った頃、ついに古備前の域に達したと感じられる作品ができた。
 色合いも模様も古備前と並べて何ら遜色のない作品である。

 しかし、古備前に追いつこうとしていた氏はやがて、〈超えよう〉という野望を持つようになる。
 氏にはそれまで、溶けない謎があった。
 三石(サンゴク)もの大甕がいかなる方法で均一な美しい形になったのか、わからなかったのだ。
 またもや窯の遺跡に答を求め、かけらの表面に3つの窪みを見つけた。
 甕の中に三本の柱を立てて組み合わせ、上から錘を一つぶら下げ、、錘の示すぶれない支点を中心にきれいな円を描きながら甕を創っていたのだ。
 深化への飽くなき探求心が、古備前の発する力の源であると知った。

「確かな内容の作業を真摯に続けて死んでいった人が大半でしょうけれども、その中で一花咲かせた人も多々おられて、それが文化の重みと成って積み上げられたものになっている」

 氏はここで古備前の模倣を捨て去った。
 伝統を引き継ぎつつもそこに自分なりの深化を加えたい、それが、古備前の大きさを遥かに超える85メートルの巨大窯だった。
 窯の大きさに深化の可能性を託した。

「古備前を超えて行かなければならないんですから。
 どんなことをしようとも、半歩でも一歩でも超えて行かないといけない」

 この巨大な窯を用いれば、焼くのに窯焚き100日 冷ますだけで90日かかる。
 その長い過程では多々、問題が発生し、真剣勝負がいっときの休みもなく続けられる。
 氏の志に共鳴する同志が7人、作業を共にする。
 氏は時に、手作りの料理をふるまう。
 まさに、同じ窯で生きる仲間である。

 3ヶ月と2週間で窯焚きの作業が終わり、急激な温度変化から器を守るために、窯の穴を閉じる。
 それから3ヶ月間、焼きしめられた器が冷めるのを待つ。
 お正月に焚き始めたのに、早くも夏になっている。
 氏は不安がつのると言う。

「自分にいくら言い聞かせても、実際に目にしていないということは不安要素がどんどんつのってきますから」

 窯出しの日が来た。
 挑戦した大甕は胡麻が窯垂れとなり、縁から満遍なく流れている。
 古備前の陶工たちが手がけた大甕で最大なのは3石だが、氏は5石の大甕を見事に焼き上げた。
 炎の跡が焼き付いてできる緋襷(ヒダスキ)をまとった徳利も出てきた。
 かつて氏が魅せられた古備前の徳利に似ているが、これまでとは違う炎の赤が力強い。

 やがて、氏の目が、窯の奧に釘付けとなった。

「見慣れないもんができとるなあ、これは恐ろしい。
 恐ろしいことが起きている。
 恐ろしいことになっている。
 まあ、見てみい、真っ白じゃ」

 女性の助っ人が、明かりはいいですか?と声をかける。

「うん、もう輝いとる」

 出てきたのは、雪のように真っ白い胡麻をまとった花入れだった。
 助っ人も、胡麻が吹き上げたみたいだと驚く。

「綿菓子みたいな焼き物じゃな」

 氏はあらためて花入れを眺め、レポーターへ呟く。

「うーん、人間離れした力をもっているんじゃないでしょうか。
 人の力で小細工したという内容でなくて、自然にこれが生まれ出たというそういう強いエネルギーを持っているんじゃないでしょうか。
 何か化けものみたいですね。
 うーん、力が……、尋常なものとは思えません」

 古備前を超えてみせると挑戦した43年の努力が1人の陶工にもたらした奇跡の色だった。
 人智を絞り、汗を流した結果、「人間離れした力」を持つものが生まれ出る。
 自然と人工の調和がこの世ならぬ美を創り上げる。
 
 番組の最後に、氏は、秋までかかってすべての作品が取り出された薄暗い窯の奧を眺めていた。

「もう窯から出た作品をしみじみ見ようという気はしていない。
 もうこれは終わったものであって、もう、次に気持が移って行かないといけないんで」

「(次の作品がどうなるか)見たいんです、見ようとするわけです。
 いのちある限り見ようとするわけです」

 創造は止まらない。
 陶工にとって、結果への工夫が生きているということのすべてである。
 これは、あらゆる行者に共通した姿勢であり、宿命ではないだろうか?
 もちろん、僧侶も例外ではあり得ない。
 この世の苦は尽きないし、自分は未熟なままである。
 無限の問題へ挑戦しつつ己を高め続けるしかない。

 考えてみれば、生きつつ行うことのすべては、自分の心次第で〈創造的行為〉になるのではなかろうか?
 何ごとであれ、真摯に対象へぶつかれば、見出すことごとがある。
 気づいたならば放置せず工夫する。
 こうした工夫はすべて人間としての創造的活動となるのではなかろうか?
 これが本当の〈前向き〉ということではなかろうか?

 お正月らしい発見をさせていただいたような気がしました。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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