コラム

 公開日: 2016-01-31 

戦争に加担せず、世界的役割を果たす道 ─アフガニスタンの医師中村哲氏─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 1月30日付の朝日新聞は、待ちに待ったインタビュー記事『アフガン復興を支える』を掲載した。
 30年以上にわたり、アフガニスタンの人々を救済し続けるNGO「ペシャワール会」の現地代表中村哲医師(69才)の話は、文字どおり〈現場〉の〈現実〉を伝えている。
 人道に立つとはどういうことか?
 飢え、戦争で殺され、死んで行く人間に手を差し伸べるとはどういうことか?
 人と人とが殺し合わず平和に生きる空間は何によってもたらされるか?
 太平洋戦争を体験した日本人が、それを深く省みてこれからの国作りを考え、日本ならではの世界的役割を果たすとはどういうことか?
 人生をかけてきた医師の言葉をよくよくかみしめたい。
 そして、日本国と国民一人一人がいかなる決断と実践を行うべきか、よくよく考えたい。
 以下、同記事を転載し、各項目を考える。

 米軍などが「対テロ戦」を掲げ、タリバーンが支配するアフガニスタンを空爆してから15年。タリバーン政権は倒れたものの、いまだ混乱は収まらず、治安も悪化したままだ。
 この国の復興を、どう支えていけばいいのか。
 NGO「ペシャワール会」の現地代表として民生支援を続ける医師の中村哲さんに聞いた。

 ――19ロ80年代から90年代は医療支援でしたが、今は灌漑(かんがい)事業が中心です。
 お医者さんがなぜ用水路を引くのですか?

「農業の復興が国造りの最も重要な基盤だからです。
 2000年からアフガニスタンは記録的な干ばつに襲われ、水不足で作物が育たず、何百万という農民が村を捨てました。
 栄養失調になった子が泥水をすすり、下痢でいとも簡単に死ぬ。
 診療待ちの間に母親の腕の中で次々に冷たくなるのです」

「医者は病気は治せても、飢えや渇きは治せない。
 清潔な水を求めて1600本の井戸を掘り、一時は好転しました。
 しかし地下水位は下がるし、農業用水としては絶対量が足らない。
 そこで大河から水を引き、砂漠化した農地を復活させようと考えたのです。
 合言葉は『100の診療所より1本の用水路』でした」

「道路も通信網も、学校も女性の権利拡大も、大切な支援でしょう。
 でもその前に、まずは食うことです。
 彼らの唯一にして最大の望みは『故郷で家族と毎日3度のメシを食べる』です。
 国民の8割が農民です。
 農業が復活すれば外国軍や武装勢力に兵士として雇われる必要もなく、平和が戻る。
『衣食足りて礼節を知る』です」

(食えない人は食うしか助かる道はない。
 食えない人が武器を渡されれば戦争に加担するしかない。
 まず、食えることが戦争をなくす道であることがよくわかる。
 仕事と家を与えず、武器を与えるのは地獄への導きである。)

 ――自身で重機を操作したこともあるとか。

「03年から7年かけて27キロの用水路を掘り、取水堰(せき)の改修も重ねました。
 お手本は、福岡県朝倉市にある226年前に農民が造った斜め堰です。
 3千ヘクタールが農地になり、15万人が地元に戻りました。
 成功例を見て、次々に陳情が来た。
 20年までに1万6500ヘクタールを潤し、65万人が生活できるようにする計画ですが、ほぼメドが立ちました。
 政権の重鎮らが水利の大切さにやっと気づき、国策として推進しなければと言い始めました。
 現地の人たちの技術力を底上げする必要を感じています」

(誰かがやらねば〈成功例〉は生まれない。
 しかも、成功例が国策に反映されるまでは長い年月がかかる。
 砂利を積んで造られた朝倉市の斜め堰は、生態系への悪影響がほとんどなく、補修を続ければいつまでも使える。
 江戸時代の知恵が世界を救いつつある。)

 ――工事はだれが?

「毎日数百人の地元民が250~350アフガニ(約450~630円)の賃金で作業し、職の確保にもなります。
 元傭兵(ようへい)もゴロゴロいます。
『湾岸戦争も戦った』と言うから『米軍相手か』と聞くと『米軍に雇われてた』とかね。
 思想は関係ない。
 家族が飢えれば父親は命をかけて出稼ぎします」

「最近は、JICA(国際協力機構)の協力も得て事業を進めていますが、基本は日本での募金だけが頼り。
 これまで30億円に迫る浄財を得て、数十万人が故郷に戻れました。
 欧米の支援はその何万倍にもなるのに、混乱が収まる気配はない。
 これが現実なのです」

(一人の日本人と、志を同じくする人々が知恵と慈悲によって膨大な人々を救ってきた。
 日本の政府にはこの成功例がどう見えているのか?
 30年も経っているのに。)

    ■    ■

 ――現地の治安は?

「私たちが活動しているアフガン東部は、旧ソ連が侵攻したアフガン戦争や、国民の1割にあたる200万人が死んだとされる内戦のころより悪い。
 この30年で最悪です。
 かつて危険地帯は点でしたが、今は面に広がった。
 地元の人ですら、怖くて移動できないと言います。
 ただ、我々が灌漑し、農地が戻った地域は安全です」

(金と軍隊が投入されながら悪化の一途を辿る治安。
 一方、見返りを求めぬ志と汗によって確かに確保される安全な地帯。
 目まいのするような〈現実〉である。)

 ――反政府勢力タリバーンが勢いを盛り返しているようです。

「タリバーンは海外からは悪の権化のように言われますが、地元の受け止めはかなり違う。
 内戦の頃、各地に割拠していた軍閥は暴力で地域を支配し、賄賂は取り放題。
 それを宗教的に厳格なタリバーンが押さえ、住民は当時、大歓迎しました。
 この国の伝統である地域の長老による自治を大幅に認めた土着性の高い政権でした。
 そうでなければ、たった1万5千人の兵士で全土を治められない。
 治安も良く、医療支援が最も円滑に進んだのもタリバーン時代です」

「欧米などの後押しでできた現政権は、タリバーンに駆逐された軍閥の有力者がたくさんいるから、歓迎されにくい。
 昼は政府が統治し、夜はタリバーンが支配する地域も多く、誰が味方か敵かさっぱり分からない。
 さらに(過激派組織)イスラム国(IS)と呼応する武装勢力が勢力を伸ばし、事態を複雑にしています」

(宗教が権力者の暴政から人々を救う場面もある。
 外国人は〈有力者〉とコネクションをつくり、効率的に支配しようとするが、権力と財力に任せて地位を守っている有力者へ、人々は厳しい目を向けている。
 かつてイラクへ行った自衛隊員は、武器を用いず地域に溶け込もうとする姿勢が人々に認められ、撤収に際して「還らないでくれ」と懇請されるまでになった。
 世界で困っている人々のためになりたいのなら、やるべきことは明白だ。) 

 ――アフガンは世界のケシ生産の9割を占めるといわれます。

「我々の灌漑農地に作付け制限はありませんが、ケシ畑はありません。
 小麦の100倍の値段で売れますが、ケシがもたらす弊害を知っているから、農民も植えないで済むならそれに越したことはないと思っている。
 先日、国連の麻薬対策の専門家が『ケシ栽培を止めるのにどんなキャンペーンをしたんだ』と聞くから、『何もしていない。みんなが食えるようにしただけだ』と答えたら、信じられないという顔をしていました」

(儲けた者が勝ちという価値観にどっぷりとに浸っている人々は、悪や罪が待っているとしても、儲けに走らない事態は想像できない。
 しかし、上記のとおり「衣食足りて礼節を知る」であり、特に、足るを知りつつ自然と共に生きる農民には、目先の儲けより大切のものが見えている。
 監視カメラに取り囲まれ、それでもなお、足るを知らず、儲けたいがためにたやすく悪行へ走る人々が日々、新聞の紙面を賑わす我々の文明は恥ずかしい。)

    ■    ■

 ――戦争と混乱の中でよく約30年も支援を続けられましたね。

「日本が、日本人が展開しているという信頼が大きいのは間違いありません。
 アフガンで日露戦争とヒロシマ・ナガサキを知らない人はいません。
 3度も大英帝国の侵攻をはねのけ、ソ連にも屈さなかったアフガンだから、明治時代にアジアの小国だった日本が大国ロシアに勝った歴史に共鳴し、尊敬してくれる。
 戦後は、原爆を落とされた廃虚から驚異的な速度で経済大国になりながら、一度も他国に軍事介入をしたことがない姿を称賛する。
 言ってみれば、憲法9条を具現化してきた国のあり方が信頼の源になっているのです」

「NGO(非政府組織)にしてもJICAにしても、日本の支援には政治的野心がない。
 見返りを求めないし、市場開拓の先駆けにもしない。
 そういう見方が、アフガン社会の隅々に定着しているのです。
 だから診療所にしろ用水路掘りにしろ、協力してくれる。
 軍事力が背後にある欧米人が手がけたら、トラブル続きでうまくいかないでしょう」

(中村医師はこれまでも同様な〈証言〉を繰り返してきた。
 日本の世界的価値について語る資格がもっともある一人と言えるのではなかろうか。
 支配しようとせず、儲けようとせず、信者にしようとせず、純粋に人道的行為を行う国であり国民であると信頼されているとは何という光栄だろう。
 この信頼が持つ価値と力に比べたなら、経済的あるいは軍事的優位を誇ることなど、どれほどのことであろうか。)

 ――「平和国家・日本」というブランドの強さですか。

「その信頼感に助けられて、何度も命拾いをしてきました。
 診療所を展開していたころも、『日本人が開設する』ことが決め手になり、地元が協力してくれました」

(信頼される日本人であること以上の〈安全保障〉はない。
 武器で得られる安全はすべて、相手との関係で成り立つ相対的な安全でしかないが、相手から狙われない安全は絶対的である。
 狙われないなら守るための武器など不要だ。
 ここには、武器が不要な究極の安全と平和がある。)

 ――日本では安保法制が転換されました。影響はありますか。

「アフガン国民は日本の首相の名前も、安保に関する論議も知りません。
 知っているのは、空爆などでアフガン国民を苦しめ続ける米国に、日本が追随していることだけです。
 だから、90年代までの圧倒的な親日の雰囲気はなくなりかけている。
 嫌われるところまではいってないかな。
 欧米人が街中を歩けば狙撃される可能性があるけれど、日本人はまだ安心。
 漫画でハートが破れた絵が出てきますが、あれに近いかもしれない。
 愛するニッポンよ、お前も我々を苦しめる側に回るのか、と」

(かつて、中村医師はこう書いた。
「ヨーロッパ近代文明の傲慢さ、自分の『普遍性』への信仰が、少なくともアフガニスタンで遺憾なく猛威をふるったのである。
 自己の文明や価値観の内省はされなかった。
 それが自明の理であるのごとく、解放や啓蒙という代物(シロモノ)をふりかざして、中央アジア世界の最後の砦を無惨にうちくだこうとした。
 そのさまは、非情な戦車のキャタピラが可憐な野草を蹂)躙(ジュウリン)していくのにも似ていた。
 老若男女を問わず、罪のない人びとが、街路で、畑で、家で、空陸から浴びせられた銃弾にたおれた。
 原爆以外のあらゆる種類の武器が投入され、先端技術の粋をこらした殺傷兵器が百数十万人の命をうばった。
 さらにくわえて、六百万人の難民が自給自足の平和な山村からたたきだされ、氷河の水より冷たい現金生活の中で『近代文明』の実態を骨の髄まで味わわされたのである」
 私たちは、この〈現場〉を想像してみたい。
 現場をもたらしたのは、我々の文明である。
 それでも日本は一歩、手前で踏みとどまっている。
 踏みとどまっていることが〈現地〉で認められている。
 だからこそ、人道に立つ行動が可能であり、狙われずに役割を果たせている。)

 ――新法制で自衛隊の駆けつけ警護や後方支援が認められます。

「日本人が嫌われるところまで行っていない理由の一つは、自衛隊が『軍服姿』を見せていないことが大きい。
 軍服は軍事力の最も分かりやすい表現ですから。
 米軍とともに兵士がアフガンに駐留した韓国への嫌悪感は強いですよ」

「それに、自衛隊にNGOの警護はできません。
 アフガンでは現地の作業員に『武器を持って集まれ』と号令すれば、すぐに1個中隊ができる。
 兵農未分離のアフガン社会では、全員が潜在的な準武装勢力です。
 アフガン人ですら敵と味方が分からないのに、外国の部隊がどうやって敵を見分けるのですか?
 机上の空論です」

「軍隊に守られながら道路工事をしていたトルコやインドの会社は、狙撃されて殉職者を出しました。
 私たちも残念ながら日本人職員が1人、武装勢力に拉致され凶弾に倒れました。
 それでも、これまで通り、政治的野心を持たず、見返りを求めず、強大な軍事力に頼らない民生支援に徹する。
 これが最良の結果を生むと、30年の経験から断言します」

(かつて、中村医師はこうも書いた。
『たとえ文明の殻をかぶっていても、人類が有史以来保持してきた野蛮さそのもの、戦争そのものが断罪されねばならないと思うのである。
 我われの敵は自分の中にある。
 我われが当然とする近代的生活そのものの中にある。』
 日本人は何を得ようとしているのか?
 日本人は何を失おうとしているのか?
 私たちの文明は、このまま〈謳歌〉し続けてよいのか?
 私たちの足元はどうなっているか?
 よく省みたい。)

「おん ばざら たらま きりく」
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0


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