コラム

 公開日: 2016-02-04 

目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ ─セーラー服の鳥居─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




〈鳥居氏のサイトからお借りして加工しました〉

 2月3日付の朝日新聞『ひと』の欄で歌人鳥居氏を知った。
 まず経歴に驚いたが、何よりも最後に掲載された一首にはノックアウトされたような感を覚えた。

「目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ」

 嵐のような家庭的経験の結果、目を伏せて生きるしかなくなったが、それでもいつしかキリンの子は育つ。
 すくすくと、空へ向かって。
 喧騒の昼が去り、静かな夜がやってくると、月光が佇むキリンを優しく包む。
 キリンは目を伏せたままだが、月光はキリンの色と模様を際立たせ、表情を和ませる。
 遥か遠く、手の届かないところにいる「かあさん」は、立つキリンの存在を丸ごと祝福し、守っている。

 記事は書く。

「母が自殺し、自らも自殺未遂をした。
 児童養護施設でいじめにあい、公園の水を飲んで空腹をしのぐホームレスを経験した。
 絶望の縁の体験を短歌に詠む。

『1首1行。
 すっくと立つ短歌に一目ぼれした。
 短歌があるから私はひとりぼっちじゃない』」

 キリンはまぎれもなく「すっくと」立っている。

 ネットで探したところ、2月に出版される本の紹介と共に、6首が載っていた。
 読んでみたい。

「あおぞらが、妙に乾いて、紫陽花が、あざやか なんで死んだの」

 アジサイには雨が似合う。
 それなのに空が晴れ、アジサイは陽光に湿り気を奪われたまま、否応なくあぶり出されたように色鮮やかだ。
 瑞々しさを伴わぬ悲しい美しさ。
 氏が小学5年生のおりに、大量の睡眠薬を飲み、台所で倒れていた母親は美しいままだったのだろうか。

「揃えられ主人の帰り待っている飛び降りたこと知らぬ革靴」

 氏は自殺未遂を経験している。
 きちんと革靴を揃えて決行したのだろうか。
 何も知らない革靴は律儀にも、再び履かれる時をいつまでも待っている。
 哀れなのは飛び降りた者、そして、遺されたモノ。

「慰めに『勉強など』と人は言う その勉強がしたかったのです」

 氏は「中学校は満足に通っていない」し「施設にあった新聞を辞書をひきひき読み、字を覚えた」のだ。
 学校へ行けないお子さんへ「何も学校へなんか行かなくたって大丈夫」、「勉強などできなくたって立派な人になるのが一番」などと気安く言うが、学校へ行けない環境にありながらも勉学への意志を持っているお子さんにとっては、何の慰めにもならない。
 病気になり健康を取り戻したいと願っている人へ、「健康なだけが人生ではない」とかける言葉に、いかなる内容があろうか。
 氏は「成人した今も、学ぶことの象徴として」セーラー服を着続けている。

「花柄の籐籠いっぱい詰められたカラフルな薬飲みほした母」

 氏の母親はシングルマザー、「うつ病で寝たきり」だった。
 うつ病の人は突如、気分が高揚して力を回復し、驚くほど快活になったり、行動的になったりする場合がある。
 母親も「花柄」にはしゃいだ瞬間があったのだろうか、それとも、だれかが回復を願ってそうしたものを置いたのだろうか。
 いずれにせよ、何かの拍子に強い力がはたらいて「飲みほした」のは事実だ。
 ままならぬ生命力の谷と山……・

「ふいに雨止むとき傘は軽やかな風とわたしの容れものとなる」

 氏は「公園の水を飲んで空腹をしのぐホームレス」だった。
 そんな時、酷薄でない「軽やかな風」は嬉しい味方だったのだろう。
 傘は雨から守ってくれただけでなく、味方と共にいる自分をも守り、親和に満ちた空間を確保してくれている。
 これほどまで傘へ感謝できるものだろうか。

 そしてもう一首は冒頭の歌だった。
 記事はこう締めくくられる。

「家を転々とし、中学校は満足に通っていない。
 施設にあった新聞を辞書をひきひき読み、字を覚えた。
『育つ環境で義務教育もままならない人がいるよ、と伝えたい』。
 成人した今も、学ぶことの象徴としてセーラー服を着る。

 現実を忘れたくて訪れた図書館で、穂村弘さんや吉川宏志(ひろし)さんの歌集に出会う。
 五七五七七に様々な思いや情景がうたわれ、映画のように見えた。
 漢字にルビをふってもらい、歌集を日々読む。

 年齢も本名も明かさず、不登校や夜の街で働く人と歌会を開く。
 誰とも先入観なく向き合いたいから。
 好きな短歌を披露しあううち自然に悩みも打ち明けられる。
『短歌は心のセーフティーネットになれるんじゃないかな』

 大阪での暮らしは厳しく日に1食というが、声は明るい。
 第1歌集の題は『キリンの子』である。

 目を伏せて空へのびゆくキリンの子 月の光はかあさんのいろ」

 2月10日の出版が待ち遠しい。

「おん さんまや さとばん」※今日の守本尊普賢菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=rWEjdVZChl0


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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