コラム

 公開日: 2016-02-09 

臨死体験と治癒への道 ―『チベットの生と死の書』を読む(9)―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 ソギャル・リンポチェ師の著書『チベットの生と死の書』は、生と死を考える人びとへ重要な示唆を与える一冊である。
 伝統仏教の最先端を示し、かつ、最奧をもかいま見せる高貴な魂の結晶である。
 師は「仏法をより近づきやすいものに、現代的、実践的なものにするために著した」とされているが、700ページ近い力作で、なかなか読み通せないかも知れない。
 以下、全体の概要というよりは、いくつかのポイントを挙げておきたい。

 臨死体験者は、死との身近な出会いが真の目覚めをもたらし、生に対する姿勢そのものを変容させる「良い例」だと言う。

「臨死体験者は死を以前ほど恐れなくなり、より深く死を受けいれるようになる。
 他人を助けたいという気持が強くなり、愛を非常に重要なものとして認識するようになる。」

 ある男性は、初めて臨死体験学を提唱したコネチカット州立大学のケネス・リング教授へ語った。

「わたしは人生の目的といえば物質的な富を追い求めること以外に知らず、あてもなくただ漫然と彷徨(サマヨ)っていただけの男でした。
 それが、強い意欲と、人生の目的と、はっきりした方向づけと、人生の終わりには必ず報われるのだという絶対の確信を持った人間に変わったんです。
 物質的な富への関心と所有欲は精神的な理解への飢えと、より良い世界を求める熱い思いに取って代わられてしまったんです。」

 人は死にそうになると、欲のはたらきが変わるものなのか?
 
 自らがガンにかかったフレダ・ネイラー医師は日記に書き残した。

「わたしはこういう事態にならなければしなかったような体験をしている。
 それについては癌に感謝しなければならない。
 わたしは謙虚になった。
 死ぬべき存在としての自分を甘んじて受け入れるようになった。
 自分の内なる強さを知った。
 これにはつねづねわたし自身が驚かされている。
 他にも自分自身に関する多くのことを知った。
 それは、わたしがここにきて立ち止まり、振り返り、再び歩きはじめることを余儀なくされた結果に他ならない」

 師は言う。

「もしもわたしたちが、この新たに獲得した謙虚さと率直さ、さらには真の死の受容をもって実際に『振り返り、再び歩きはじめる』ことができたらどうだろう。
 精神的な指導や修行に対するわたしたちの受容ははるかに高まるに違いない。
 しかも、この受容はさらに驚くべき可能性の扉を開くのである。
 文字通りの治癒の可能性である。」

 師がニューヨークでドゥジョム・リンポチェの通訳を務めていた時のできごとである。
 医者からあと2・3ヶ月のいのちと告げられた女性が来訪し、泣いた。
 ドゥジョム・リンポチェは「優しい、慈悲のこもった」笑いで応じた。

「いいですか、わたしたちはみんな死ぬのです。
 単なる時間の問題にすぎません。
 ただ他の人より少しばかり早く死ぬ人もいるという、それだけのことです。」

 不安の和らいだ彼女へ、「死にゆくこと、死を受けいれること」、そして「死の中に秘められた希望」と「治癒の行」について語った。
 この行を熱心に実践した彼女は死の不安が消えたどころか、〈不治の病〉すら癒えてしまったという。
 それを目の当たりにした師は確信した。

「私たちが死を受けいれ、生に対する姿勢に変容をもたらし、生と死の根源的なつながりを見出したとき、劇的な治癒が起こる可能性があるということである。」

 チベットの人々は、病気を警告として受けとめるという。
 警告と言っても「あなたのいのちが危険に晒(サラ)されていますよ」といった肉体的、物質的なものではない。
 そんなことはわかっている。

「自分が生命の奧深くにある何かを見過ごしてきたことに、たとえば宗教的な欲求といったような何かを見過ごしてきたことに気づかせてくれる警告になりうると信じているのである。
 わたしたちがこの警告を真摯に受けとめ、人生を根本から方向転換させたとき、治癒への希望が、肉体のみならず、全存在の治癒への希望が、立ち現れてくるのである。」

 当山では日々、同様の実感をもって法務に邁進している。
 ある時、仙南の町から年配のご夫婦が二組、人生相談へご来山された。
 病気がちになり、自分の死をどう受け入れればよいか、また、どう送ってもらうべきか、そして、死後の家であるお墓をどうすればよいか、などなどについて根本から相談したいと言われる。
「死の迎え方は、自分の生涯全体が何だったのかを明らかにすることでもあると思えてなりません。
 だから、懸命に生きてきたのと同じように、安心して死と死後を託せる方を探していました。
 大変失礼な言い方ではありますが、自分で選びたいのです。」
 お応えしました。
「私たちは、自分や愛する人が大病に罹ると、より安心していのちを託せる医師や病院を真剣に探します。
 しかし、死者を送る際には、導師がいかなる人物であるかも確かめず成り行き任せにしたり、安く便利に処理したいといったケースも少なくないように見受けられます。
 それでは死者の人生を冒瀆することになりかねません。」
 また、皆さんはこうした心配もされた。
「私たちは年金以外、頼るものがありません。
 伴侶を送り、自分が送られることの重さは年々、身に迫ってきますが、先立つお金は年々、心細くなってゆきます。
 心苦しい思いをどうすればよいのでしょうか。」
 お応えしました。
「まごころを尽くすしか方法はありません。
 たとえば、愛する人へ千本のバラを送って思いを告げたくても、お金がなければ1本しか買えませんが、1本へ千本分の思いを込めて通じさせることはできます。
 こうしたまごころの行き着くところこそ、宗教の世界です。
 娑婆の経済原理では、千本分のお金がなければ千本のバラは買えませんが、宗教の世界は原理がまったく異なります。
 だから、お布施の内容は、自分を偽らない価値観と、財布の事情とのバランスで決めるしか方法はありません。
 もちろん、当山では、お布施の金額にかかわらず、御霊の安寧のため法力の限りを尽くします。
 損得を離れたみ仏の世界では〈救済の量〉を計ることなどあり得ず、〈救済力の出し惜しみ〉もまたあり得ません。」

 経済の仕組みに寺院が取り込まれようとしていることに疑問と危機感を持っていた4人の善男善女は、大きく頷いて帰られた。
 病気に罹ることも、老いることも、そして身近な人の死も、深い警告を孕(ハラ)んでいる。
 その時に「生命の奧深くにある何かを見過ごしてきたこと」に気づくかどうかで、その後の生き方も、人生の締め括り方も天と地ほどに異なってくる。
 ご夫婦が異口同音に言われたとおり、「自分の生涯全体が何だったのか」が問われているのだ。
 臨死体験者ならずとも、誰かのためになり、思いやりをこそ最も大切にしつつ生き抜き、死を迎えたいものである。

 今日の守本尊不動明王様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=EOk4OlhTq_M


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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