コラム

 公開日: 2016-02-14 

東日本大震災被災の記(第174回) ―幽霊現象に向き合う─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。




 1月20日、『霊性の震災学』が発売された。
 大学のゼミが記録と調査により幽霊現象へ肉薄した。

1 霊性に気づかされた被害日本大震災

「災害において身を削られるような思いで別れの時を過ごした人たち、行方不明のまま宙吊りにされた人たちの体験がただの数値に還元され、過ぎ去った歴史の一コマとして『復興』や『絆』の歯切れのよい掛け声の陰で葬られようとしている。」

「タブー視される『死』に対して、震災の当事者たちはどのように向き合わなければならなかったのかを、綿密なフィールドワークを通して明らかにする。
 この試みを、意識の古層にあった死が呼び覚まされる〝霊性〟の震災学と名づけることにしよう。
 未曾有の災害において艱難辛苦を嘗め尽くした経験の末に、彼ら彼女らが到達したのが〝霊性〟であった。」

「人間の秘められた高次の感情である〝霊性〟を、知識や概念としてではなく感覚的に〝わかる〟境地に、震災の当事者たちは到達している。」

「狭量な因果関係による科学的説明では捉えきれない、もっと深い宗教性にまで降り立った死生観が、災害地の現場では求められている。」

「津波や原発によって文化の虚構性が暴かれた社会において、一足飛びに天に向かう動きに飛躍するのではなく、眼の高さを起点とする天と地の間の往復運動によって、身体性を伴う言語以外の、コミュニケーションの場を設定しうる可能性が示される。
 生者と死者が呼び合い、交換し、現世と他界が共存する両義性の世界が、すなわち〝霊性〟である。」

 こうした問題意識をもって霊性の体験者たちと対話し、「被災者の耐えがたい『災害期』を短縮する防災・減災策に新たな死生観をもたらし、災害社会学に意義深い射程を与え」ようとしている。
 白眉は第一章「死者たちが通う街」であろう。
 ここでは、タクシードライバーの方々が体験した「幽霊現象」を集めている。

 怪奇現象の特に多いのが宮城県石巻市であり、そこでは、「明らかに『リアリティ』を伴う幽霊現象」が多数、聞き取り調査されている。
 ドライバーの方々は、普通のお客様と同様に幽霊との対話や接触を行っていたのだ。

 たとえば、男性タクシードライバー(56才)の体験談である。

 震災後の夏、彼は「ふっかふかのコートを着た女の人」を乗せた。
 行く先を訊ねると「南浜まで」と言う。
 不審に思いもう一度、声をかけた。
「あそこはもうほとんど更地ですけどかまいませんか?
 どうして南浜まで?
 コートは暑くないですか?」
 震える声が返ってきた。
「私は死んだのですか?」
 驚いて振り向くと、誰もいなかった。
 最初は怖くてしばらく動けなかったが、今はもう何ともない。

「今となっちゃ別に不思議なことじゃないな~。
 東日本大震災でたくさんの人が亡くなったじゃない?
 この世に未練がある人だっていて当然だもの。
 あれ[乗客]はきっと、そう[幽霊]だったんだろうな~。
 今はもう恐怖心なんてものはないね。
 また同じように季節外れの冬服を着た人がタクシーを待っていることがあっても乗せるし、普通のお客さんと同じ扱いをするよ。」

 震災で娘さんを亡くしている彼は微笑みつつ語った。

 同じく男性タクシードライバー(49才)の体験談である。

 震災から2年後の8月、深夜に「小さな小学生くらいの女の子が季節外れのコート、マフラー、ブーツなどを着て」手を挙げていた。
 彼は車を停めて訊いた。
「お嬢さん、お母さんとお父さんは?」
 一人ぼっちだと聞いて迷子だろうと思い、女の子が住所を告げた家まで送った。
 女の子が降りる時、手を取ってやったら「おじちゃんありがとう」と言い、そのまま姿が消えた。
 彼は「恐怖というか驚きと不思議でいっぱい」だったが、今はこう思う。

「噂では、他のタクシードライバーでもそっくりの体験をした人がいるみたいでね、その不思議はもうなんてことなくて、今ではお母さんとお父さんに会いに来たんだろうな~って思っている。
 私だけの秘密だよ。」

 彼は「どこか悲しげで、でもそれでいて、確かに嬉しそう」に語った。

 聞き取り調査したタクシードライバーの方々は、できごとを真剣にとらえ、メモや書類を残している。
 幽霊現象は事実上、「無賃乗車」扱いになっているのだ。
 不思議なことに「幽霊」のすべてが若年者で、お年寄りを〈乗せた〉という報告はない。

「『心』というのは宿している肉体がなくなっても残り続けるものであると、調査を通じて改めて考えさせられた。
 離れ離れになって会えなくなってしまった両親に会いたい。
 愛しい彼女に会いたい。
 忘れられない故郷に帰りたい。
 そんな『無念』の思いを、条件が重なって、タクシードライバーたちの『畏敬の心』が受け取った。
 受け取った彼らは各々の感情の推移を通して、怪奇現象を理解してきたのである。
 したがって、彼らに『わからないから怖い』として発生する恐怖はなく、今ではむしろ受容している。
 この心の相互作用は、霊の無念さと、タクシードライバーの畏敬の念によって起こったのである。」

「人は『わからない』のが怖い。
 しかし、霊魂の本質を明らかにできるかどうかは、『わからない』から怖れるのではなく、各々が受け入れ、理解できるかどうかにかかっていることに気づかされる。」

2 今の日本

 フランスの歴史学者エマニュエル・トッド氏は指摘した。

「今後30年で地球に何が起きるか予測したければ、近代を切り開いてきた欧米や日本について考えなければ。
 本物の危機はそこにあります。」

 そして、宗教的信仰、イデオロギー、未来への夢など、自分たちの存在に意味を与えるものが消え去り、経済的合理性という最後の「信仰」に取り憑かれているが、残念ながら、それは「手段の合理性をもたらしても、何がよい生き方かを定義しない」と言う。
 欧米の人々も日本の人々も、生きる意義を見失い、ただただ〈儲けて生きる〉しかない世界にいるのではないか。
 生きる〈手段〉に夢中で〈目的〉がない状態は危うい。
 誰かがそこへポンと〈目的〉を投げ込めば、飢えている心は、エサに群がる魚のように、たやすく群がり、取り込むかも知れない。
 それが、高慢心や、憎悪や、敵対心をかき立て、やがては争いや戦争へ誘うものであっても。

3 未曾有の災厄に学ぶこと

 今回の出版は、非宗教者による霊性の確認という重大な役割を果たした。
 自分という存在の根本に「心」や「霊性」があることを教えてくれた。
 たくさんのタクシードライバーの皆さんが体験談をもって示したとおり、その次元では死者と交感できる。
 ならば、生者とも無論、その次元での交感が可能ではないか?
 お互いに「心」や「霊性」を尊び合えば、株価など儚い数字の世界に一喜一憂させられることのない安心な世界に住めるのではないか?
 それこそが、エマニュエル・トッド氏の言う「本物の危機」を乗り越える道ではないか?
 心で通じ合い、霊性で通じ合う真の宗教心を取り戻し、心の空洞を確かなもので満たす道ではないか?

 もうすぐ震災から5年となる今、金菱清教授が率いる「東北学院大学 震災の記録プロジェクト」の皆さんによって貴重で重要な一歩が踏み出された。
 一人でも多くの方々にこの労作を読んでいただきたいと願ってやまない。

 今日の守本尊虚空蔵菩薩様の真言です。
「のうぼう あきゃしゃきゃらばや おん ありきゃまりぼり そわか」
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IY7mdsDVBk8

 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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