コラム

 公開日: 2016-02-15 

東日本大震災被災の記(第175回) ―掘り起こされたご遺体─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



 東日本大震災においては、いったん土葬し、掘り起こしてから荼毘に付するというまったく想定外の状況が発生した。
 「呼び覚まされる 霊性の震災学」第六章「ご遺体の掘り起こし」を読んでみよう。

「仮埋葬=土葬を行った要因は大きく分けて二つある。
 一つは、あまりにも遺体数が多く、あふれてしまったことがある。」

「短期間に大量のご遺体が発生するだけでなく、津波で流されたご遺体の身元確認に多くの時間が費やされ、その結果、ご遺体があふれる事態を招いてしまった。」

「二つ目の要因は、火葬場の対応能力に限界が生じ、ご遺体の搬送ができなかったことにある。」

「わずかに稼働する県内の火葬場に大量のご遺体が集中し、対応能力の限界を超えてしまった。」

「道路の寸断やガソリン不足のために早急に遺体の搬送を行うことができなかった。」

 当山は、天井板が外れ、埃の舞う仙台市の葬祭会館で掃除を手伝いながらご葬儀を行った。
 ガソリンがないため、農協さんの車で初めて送迎をしてもらいながら自宅葬も行った。
 友人や知人の車でお骨を預かりに来る方々もおられた。
 関係者の誰もが、何もかもが〈間に合わない〉中で最善、全力を尽くしていた。

 石巻市では、半月ほどしてご遺体の掘り起こしが始まった。

「石巻市で2週間後にご遺体の掘り起こしが始まった理由は、遺族の気持ちを汲み取ったことにある。
 遺族は身内をいつまでも冷たい土中に閉じ込めておくことに耐えられなかった。」

 石巻市役所の担当者は率直に語っている。

「遺族の心情が第一とすべての職員が感じたからです。
 ご遺体の搬送手段や火葬施設の手配ができた場合、[遺族が]自ら改葬し始め[たため]、それを知った担当者全員が一日も早く、できれば新盆には遺骨にして、すべてのご遺族にお返ししたい、そうしないとご遺族の心の復興ができないということを感じたと思います。」

 しかし、火葬の国日本では、こうした仮埋葬や掘り起こしなどの技術を持った葬儀社はない。
 それでも総合葬祭業者(株)清月記は「絶対にNOと言わない」という経営理念のもと、石巻市役所の条件に応じた仕事をやり遂げた。
 現場はすさまじい状況だった。

「仮埋葬から短期間で掘り起こされたご遺体の状態は、想像をはるかに超えていた。
 対面するご遺体は、通常のご遺体とは大きくかけ離れていた。
 なかには体液と地下水が混じった、液体とも何とも区別がつかない物質が棺から染み出しているものもあった。」

 気温が上がり、梅雨に打たれながらの苦闘については、誰も全体を書ききることはできないだろう。
 現場の西村恒吉氏は言う。

「一つのご遺体を棺に納めてお弔いするわれわれの仕事を見て、作業という人はいない。
 多数のご遺体を、合同で、集団でということが異常事態なんです。」

 現場の藤島翔太氏も言う。

「通常の精神ではできなかったと思う。」

 彼らは未体験の異常事態に対し、誠意と創意工夫で役割をまっとうしたのである。
 常態を超えた現場と事実を記した章はこう締めくくられる。 

「災害時の大量のご体の処理において、一連の作業にみえる葬祭業者の行為には、遺族の感情を大切にする弔いの意味があり、ご遺体に敬意を抱き、ご遺体の尊厳を守ろうとしたのである。
 遺族がご遺体と最期の時間をどのように過ごすかで、遺族が悲しみに向き合う悲嘆のプロセスが変わってくるのではないだろうか。」

 ご遺体はモノだが、単なるモノではない。
 なぜ、「敬意」を抱かれ、「尊厳」が守られるのか?
 それは私たちが、そこに〈宿るもの〉を信じているからである。
 本書ではこの冒すべからざるものを「心」「霊性」と表現している。
 つまり、誰もが、意識せぬ間に無垢の宗教心を目覚めさせ、すなおにそれに従ったがゆえに、苦を厭わず、損得を離れ、最善を尽くせたのである。
 
 小生は、ご遺体を前にして枕経を唱える時も、お骨を前にして引導を渡す時も、お位牌を安置してご供養を行う時も、まず相手の霊性を感得すべく、魂のすべてをかける。
 中には「まだ逝きたくない」という若い女性の悶えがのしかかり、必死で耐えたこともある。
 あるいは、ご家族によれば無宗教だったはずのお祖父さんが壇上に正座しておられ、切腹する武士にも似た覚悟のほどに深い畏敬の念を抱いたこともある。

 私たちは大震災後、日常生活の崩壊によって、恥知らずの自己中心や勝手なこだわりといった煩悩から切り離され、敬虔な気持になったがゆえに、苦しみつつも清浄な次元で時を過ごした。
 何よりも「心」を、「霊性」を、大切にしたのである。
 あの時の思いこそが、私たちの文明が抱えている病を克服させる力ではなかろうか?

 エピローグである。

「日本では近代化に伴って、死をあらゆる場面で遠ざけタブー視してきた。
 しかし、死者を彼岸の世界へと追いやる文化的対処法が、震災時においては有効に機能せず、災害死は死をタブー視する社会はきわめて脆弱であることを露呈する引き金となった。
 それでも災害地の人びとは災害死という痛切な現実に直面して、文化的対処法ではない独自のコントロール法を創意工夫のなかで見出していた。
 この痕跡を本書から読み取っていただけるだろう。」

 確かに読み取った。
 ──湯川秀樹博士による原子核の解明という偉業が核爆弾・核発電へとつながった〈モノの創意工夫〉とは異なる〈まごころの次元における創意工夫〉を。
 ここに立って進むことこそが御霊への真の供養となるのではなかろうか。
 当山は今年も、3月6日(日)に東日本大震災で犠牲になられた方々へ捧げる般若心経108巻の供養会を行う。
 覚悟を新たにしたい。

「おん あらはしゃのう」
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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