コラム

 公開日: 2016-02-27 

猫カフェにて ─ひとときのスローモーション─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈我、関せず〉

 初めて猫カフェへ立ち寄った。
 名取市にある 「アミューズパーク名取りんくう店」である。
 カフェと銘打ってあるからコーヒーが出てくるわけではなく、喫茶店でもない。

 注意事項などを聞き、草履を脱ぎ、小さなおやつを買う。
 ドリンクバーで飲物を選び、猫ゾーンへ入る。
 広さは20畳ほどだろうか。
 大きなテレビがついている。
 
 さっそく足元へ5匹やってきた。
 歓迎してくれたというよりも、手にあるおやつがお目当てらしい。
 先客は、成人前のジーパンをはいた女性が一人。
 杯ってすぐのソファーに沈み込み、膝の上に1匹、そばのテーブルには2匹、かしずくように眠っている。

 邪魔をせぬよう、猫足になって左側の壁沿いにあるふかふかしたソファーへ腰を落とす。
 2メートルほど先に加湿器があり、近くには、水がぶくぶくと真ん中から流れる水飲み場がある。
 子供が遊ぶ遊園地のように、猫用の施設がいろいろと置いてある。
 ただし、猫じゃらしなどの小道具は、入店した際に選んで借りることもできるが、あえて持たずに入室した。

 すぐに白と黒のやや大きめの猫が、脇にあるテーブルへ飛び乗り、おやつを請求してくる。
 声は出さないが、手が招く。
 注意事項で「ケガをした時は、応急処置程度しかできません」と言われた理由がわかった。
 小さな器へ移すのを待ちかねてかぶりつく。
 チョコレート色をした小さめの猫は足元で背伸びするだけ。
 そっちへもやろうとして、小さな器に数粒、入れるのを待ちかねたようにテーブルへジャンプしたが、白黒が手元から離れず、ありつけない。
 恨めしそうに横から眺めている。
 いつの間にか、銀色に黒い縞の入った小型の猫も、足元からじっと見上げている。
 ケンカにならないところを見ると、猫社会にも序列があるらしい。

 何とかチョコレート君にも行き渡るころには、さらに3匹が周囲に集まり、視線を視線を送ってくる。
 手から直接やればやりやすいが、それでは引っ掻かれる危険性がある。
 ワッと全員集合にならず、先客にかしずいた3匹や、目の前1メートルほどのところで長々と伸びて熟睡している三毛猫がピクリとも動かないのは、適度にエサが与えられているせいだろうと思う。
 そうかといって、全員が満腹で寝てばかりいたのではおもてなしにならないから、そのあたりはきちんと工夫しているにちがいない。

 やがて大学性くらいのアベックが入店し、男性はまっすぐに一番奥のテレビの横にある座敷用テーブルでマンガを読み始める。
 地味な紺色のロングスカートをはいた女性は加湿器のあたりにしゃがんで猫と遊ぼうとするが、あまり寄って来ない。
 小生のそばにはおやつの余韻で数匹がおり、やや、気の毒になる。
 彼氏は猫に関心が無く、猫たちにもそれほど歓迎されないなら、一緒に来た甲斐がないではないか。

 やがて、ほとんど動かなかったジーパンさんが、思い出したようにおやつをパラパラッと撒く。
 たちまち数匹が駆け寄る。
 〝そうか、ああしてやれば引っ掻かれることもないし、猫も集まるのか……〟
 やはり、先輩には叶わないものだ。

 関心していると、それを見ていたロングスカートの女性も、おやつを買い求めてパラパラやる。
 案の定、4、5匹が集まり、賑やかになった様子に安堵した。
 彼氏はまったくお構いなくマンガに没頭している。
 最近、40才を過ぎた娘が妻へ、「お父さんは子供の頃、ちっともかまってくれなかった」と恨み言を言ったと聞き、仕事にまかけて自分勝手な時間だけを過ごして来た過去を突きつけられ、苦い思いをしているだけに、「おいおい、お前さん、それでは後が大変だぞ」と声をかけてやりたい気持が一瞬、起こり、すぐに消えた。

 客は誰も声を発しない。
 猫もほとんどニャーと鳴かず、カーペットの敷かれた床を足音も立てずに歩く。
 走りもしない。
 部屋全体の時間がスローモーションの無声映画のように流れる。
 そして、撫でられて逃げない猫の柔らかな感触──。
 ああ、これが「カフェ」と称する意味なんだなと気づいた。

 日常とはちょっと違う時間に憩いたい気持を受け入れてくれる空間がカフェなのだろう。
 フランスではまず貴族階級のサロン、そして芸術家たちの議論や発想の場、やがて庶民のくつろぎの場と性格は変遷しても、アジールという面を持つことは変わらない。
 そこは、何かから逃げ込める場であり、互いを決して傷つけ合わないある種の聖性すら伴う貴重な場なのだ。
 そうした意味では、温泉に通じるものがある。

 などと考えているうちに次のアベックが入店して来たので静かに立ち、猫のように足音を立てず、部屋から出た。
 見送ってくれる猫はいない。
 さぞや繁盛しているだろうと店員さんへ訊ねると、土日は順番待ちになるらしい。
 そうだろうと思う。
 しかし、こうした〈カフェ〉が誕生するなどとは、カフェ好きで1日に80杯もコーヒーを飲んだ文豪バルザックとて想像できなかったに違いない。
 人間が活動する人間圏がどうなって行くか、実に、未来はわからない。
 だからこそ、輪廻転生(リンネテンショウ)には楽しみがある。

 クロとミケ子を思い出しながら帰山を急いだ。

「おん あらはしゃのう」
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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