コラム

 公開日: 2016-03-10 

変化がもたらす逆境と希望 ―『チベットの生と死の書』を読む(13)―

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈有楽町駅〉

 無常をむやみに恐れぬようにしたい。
 希望は変化の中にこそ見出せる。

1 逆境と成長

 私たちは〈失う〉ことを恐れる。
 恋人を。
 財産を。
 名誉を。
 健康を。
 しかし、数10年、人間をやってみると、喪失や喪失の危機が自分を育ててきたことに気づく。
 ソギャル・リンポチェ師は『チベットの生と死の書』に説く。

「波が荒磯をたたいても、岩が崩れるわけではなく、むしろ波に洗われ浸食されて美景をなすように、人格も変化によって形づくられ、角がとれてゆく。
 絶え間ない変化に洗われて、わたしたちは穏やかにして不動の落ち着きを身につけるすべを学ぶ。
 自己への信頼が大きく育ち、その結果、善性と慈悲がごく自然に放たれ、周囲の人びとに喜びをもたらす。
 この善性こそが死をこえて生きぬくものであり、すべての人にそなわったものなのである。
 わたしたちの生はこのゆるぎない善性を見出すための実習であり、それに気づくための訓練なのである。」

 今から約40年前、故伊藤肇は『左遷の哲学―嵐の中でも時間はたつ』を書いた。
 彼は、人間を成長させる逆境として5つの苦難を挙げている。
 闘病、浪人、投獄、左遷、挫折である。
 闘病によってようやく他者の辛さが忖度でき、自分の存在の脆さを知り、一人で生きているのではないことも身に沁みる。
 浪人すれば、〈どうしても失わざるを得ない状況〉があることを実感し、去る人、去らない人、目をかけてくれる人、さまざまな他人の本心も見えてくる。
 投獄されれば、国家権力と個人のありようが体感され、不条理の壁が不動心を育てる。
 左遷されれば、力の限界を知り、隠されていた自分の力に気づきもする。
 挫折によって高慢心がへし折られ、地べたに叩きつけられる一方で、まったく新しい世界が見えてきたりする。

 確かに、逆境に磨かれた人はどこかに「不動の落ち着き」を持ち、信頼感をもよおさせるものだ。
 師は、逆境によって起こる変容が二つあると言う。

「変化のうちにくつろぐすべを学ぶこと」

「無常を友とするすべを学ぶこと」

 変化に流されず、悪あがきせず、泰然と対応できれば怖いものはなくなる。
 無常が不動の友であれば、執着という悪友は近づけない。

2 空と希望

 無常を深く見つめると、新たな真理が顔を出す。

「宇宙の本質に、さらにはその宇宙の本質とわたしたちとの途方もない結びつきに、あなたの目を開かせる希望。」

 つかまえるものがないところになぜ、希望が湧いてくるのか?

「すべてが無常であるのなら、すべては〈空(クウ)〉である。
 永続し安定した独自の存在などありえない。
 そして、それらすべては、分離独立しているのではなく、他のすべてと相互に依存しあっているのである。
 ブッダはこの宇宙を無数の光り輝く宝石が織りなす巨大な網にたとえた。
 そしてその宝石のひとつひとつがさらに無数の切子面を持っていて、その切子面のひとつひとつが他のすべての宝石を反射させている。
 つまり、ひとつが同時にすべてなのだ。」

 ある時、20才そこそこの一人娘が突然、男性との同棲を始め、しかもうまくいっていないらしいが、どうすれば家に引き戻せるかという人生相談があった。
 両親も祖父母も心配でたまらない。
 じっと状況をお聴きしているうちに、お祖母さんからこんな場面が語られた。
「突然、帰宅した孫は何も言わず自分の部屋へ入り、しばらくしてまた、黙って出て行きました。
 去る背中に向かって、いつだって帰って来ていいんだよ、ここはお前の家だからね!と叫びました。
 ビクッとした孫は一瞬、立ち止まり、チラッと見せた横顔で小さく頷きました」
 申しあげた。
「船着き場があるから、船は航海に出られるんです。
 別に毎日、顔を合わせていなくても、家族という糸があることをお孫さんが忘れなければ、それで家族の役割は立派に果たせています。
 そして、心配する一方で信頼もしている、という家族ならではの真実が揺るがないことをお孫さんが感じとっていれば、充分です。」

 どんなに離れていようと家族も一つの小宇宙。
 友人関係も、仕事場も、地域も、国家も、そして世界も、構成する無数の輝く宝石によって織り成されている網であり、マンダラである。
 大海から岸辺に打ち寄せる小さな波の一つも、他のすべての波と関わり合って海を構成しており、もしもその小さな波一つがなかったとしたら、それは海そのものがなくなることを意味する。
 公園にある一本の樹木も、土、陽光、雨、風、手入れする人、眺める人、おしっこをかける犬、など、ありとあらゆるものとの関係がその存在を支えており、しかも、関係すべてが刻一刻と変化してやまない。
 量子化学によれば、偏在する量子たちは、さまざまに結合する可能性をもって存在している。
 網のようであり、マンダラのようでもある。
 ありとあらゆるものが空(クウ)であり、同時に関係性という糸で結ばれているからこそ、望む方向への変化という〈希望〉がある。

3 逆境と希望

 変化が苦を伴って現れれば逆境となるが、それは試練として人間性を陶冶(トウヤ)する。
 変化を、望む方向へ動かせる可能性が希望を抱かせる。
 試練の時期をどう生きるか、空(クウ)とマンダラの真理を観ていかなる希望を持つか、それはその人次第である。

 3月9日、大津地裁は、関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分決定を出した。
 東日本大震災によって安全神話が崩壊し、きちんとした現実的な避難計画も策定不能なままに、国策として再稼働をしてきた原発に司法が危険信号を点した。
 変化の中にこそ発展と救済の可能性があり、いかなる〈壁〉も変化を拒みきれない。
 無常を恐れず、無常の中に悠然と、方向を見誤らずに生きたい。

「おん あらはしゃのう」
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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