コラム

 公開日: 2016-03-19  最終更新日: 2016-03-27

四国霊場を巡る話 ─88の意味、心の変容─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



  四国八十八か所巡りは、宗教宗派を超越した世界有数の聖地巡礼です。
 お大師様にゆかりの深い霊場を巡ると、各札所で何を体験したかという事実はもちろん大切な思い出になりますが、その全体が、日常的な自分を離れた〈何ごとか〉であったことを、あとからジワッとした充実感と共に感じとれるものです。

1 八十八の話

 ところで、「88になったのはなぜですか?」というご質問をよくいただきます。
 煩悩(ボンノウ)の数。
 男性42、女性33,子供13という厄年の数の合計。
 八十八の末広がり。
 その他いわれは多々あっても根拠はあいまいで、数にこだわる必要はなさそうです。
 ちなみに、星野英紀博士はこう書いています。

「開創については諸説あるが、信仰上では弘法大師空海が修行のため一寺一寺を巡ったことから始まったとされている。
 しかし、この説には史的データの裏付けがないこともまた確かである。
 無理のない学的推測の範囲でいえば、平安末期にはその祖型らしきものが確立し、鎌倉期、室町期を通じて次第に整備され、おそらく室町末期には八十八か寺が定まり、そして江戸期になって一般民衆の遍路者を多く迎えるようになったと考えられる。」(以下、「四国遍路の宗教学的研究」より)

「もし旧遍路道を徒歩で歩くとすると、現実には、参詣寺院は優に百か寺を上まわるのである。
 すなわち八十八の数は参詣のうえで、あまり実質的な意味を持っていなかったと考えることができる。」

「ある案内書には、八十八カ寺の他に『四国別格二十カ所霊場』を付加している。
 両者を併せると百八か寺となり、仏教のいう百八煩悩に通じると説明している。」

 実際、八十八カ寺以外のいわゆる番外札所も訪ねてみると、少なくともその〈聖性〉において、定められた札所にまったくひけを取らないすばらしい寺院が数多くある事実に気づきます。
 たとえば、細い山道の先に突然、光景が開け、山上とは信じられないほど広い駐車場に着き、本堂はいかにも修行寺らしい峻厳な空気を漂わせていて身が引き締まったりします。
 だから、あまり八十八という数字にはこだわらず、許された時間と体力の範囲で、ご縁に応じたお詣りを実践することが大切ではないでしょうか。

2 熟成される体験

 さて、私たちの日常生活は、家族や友人との関係、あるいは地域や会社の構造など、幾種類もの関係・構造が重なり合いつつ営まれています。
 それがあってこそ人間の社会であり、そこにこそ生きられる基盤がある一方で、関係や構造は、個人個人をつなぎ止めて救いとなるだけでなく、鎖としてそこに縛りつけるという一面も持っています。
 私たちは家族や会社に感謝しつつ、時には〈鎖〉から解放されたいという欲求も禁じ得なくなります。
 そうした欲求に導かれてでかけるお遍路さんは皆、平等であり、一切の階層や上下関係などが消えます。
 お遍路さんも地域の住民も互いに尊び合う四国遍路は、〈鎖〉の対称にある〈解放〉世界です。
 解き放たれたといっても孤独地獄へ放り出されるのではなく、自然な思いやりという信じがたいほど温かで柔らかい空気に包まれるのです。

 数々の苦しみや迷いから10代で四国遍路を体験した明治時代の女性史研究家高群逸枝(タカムレイツエ)は、苦闘の遍路体験を振り返り、20年後にこう書きました。

「その後、私の生活は、幾起伏(イクキフク)を辿(タド)ったけれども、それを一貫した態度としては、運命にまかせるところに、安心の境地をもつことであった。」

 お遍路の体験が、時の経過とともに高群の心へ「運命にまかせる」という根本的態度を育てたのでしょう。
 もちろん、そう意識されていようがいまいが、「運命」の成り行きと、「まかせる」気持を受けとめるのはお大師様です。
 霊場巡りは、いつしか、お大師様が目に見えない人生の同伴者となってくださる尊い修行です。

「〈生きている〉のではなく、〈生かされている〉のだという認識を得ることもできた。」(以下、体験者の話)

「心がきれいになったらいいなと、遍路に出る前に思った。
 終わってみて、心がきれいになったとはいえないが、世の中には優しい人がいることがわかった、接待などを通じて、ここまで心の優しい人がいるのかと思った。」

 四国は実に別世界であり聖地そのものです。

「おん ばざら たらま きりく」
 今日の守本尊千手観音様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=IvMea3W6ZP0

 ご関心のある方は当山のホームページ(http://hourakuji.net/)をご笑覧ください。
 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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