コラム

 公開日: 2016-03-22  最終更新日: 2016-03-23

3世代同居住宅への補助について ─あの時代と今の時代、そしてこれからの時代─

 おはようございます。
 皆さん、今日もお会いできましたね。
 今般の大災害に際し、亡くなられた方々と、被災された方々と、原発事故の現場をはじめ、復興に尽力しておられる方々に、み仏のご加護がありますよう心よりお祈り申し上げます。



〈おかげさまにて彼岸供養会を無事、終了しました。「不戦日本」の願いは108返、堂内に響き渡りました〉

 3世代同居住宅へ補助するため150億円を投入するという。
 祖父母が孫の面倒を見れば、若夫婦が共稼ぎしやすくなり、「1億総活躍社会」が実現するという論理である。
 木造で3世代同居の家を建てれば30万円、同居のためにリフォームすれば50万円、耐久性に優れた住宅であれば、新築であれリフォームであれ165万円を限度として補助する。
 しかも、「家族の構成、出産の予定や意思の確認はプライバシーに関わる」ので、「同居への補助ではなく、同居できる住宅への補助」であり、同居実態の把握は不要とされている。

 70年間、人間をやってきた身としては、一見しただけで〈途方もない話〉と判断してしまう。
 平成15年、東京都知事石原慎太郎氏が首都主導の「金融改革」のため、「資金調達に悩む中小企業を救済すること」を目ざして設立した新東京銀行が、3年で1000億円もの累積赤字を抱えて破綻した事件を思い出させる。
 あの時も、詐欺師や、詐欺まがいの方法で手っ取り早く現金を手にしたい輩の餌食になることに思いが至らない人々にあきれたものだ。
 知事や上層部が、とにかく貸し出しを行って実績を上げろと現場の尻を叩くので、現場は貸し急ぎ、倒産に近づいている企業や最初から返済意思のない者たちへジャブジャブとお金を渡し、危惧は現実のものとなった。

 さて、今回の旗を危ぶむ理由はいくつかある。

 まず第一に、国家がシステムを管理して〈国民全員をはたらかせる〉といった発想そのものにとてつもない夢想と危険が見てとれる。
 アリの社会はほぼ3つのグループから成り立っているが、人間社会もまた、似たようなものではなかろうか?
 普段は約2割がリーダーシップを発揮し、約6割が黙々とはたらき、約2割は適当にやっており、はたらき者が死ぬなど何かの危機に際しては、休んでいたグループからはせ参じて対処するという。
 ファジーな部分があってこそ、全体が柔軟に生きて行ける。
 生きものとはそもそも、そうした存在であり、人間が例外でないことは論を俟たない。

 第二には、新東京銀行と同じく、お上が掲げた理想のために資金を用いる人々など、実際はたかが知れており、多くは棚ぼた的なお小遣いに消えてしまうだろうとしか思えないからである。
 そもそも、3世代が同居できるだけの生活環境にいる人々が、いくらかお金をもらうからといって急に祖父母と孫の距離が近づき、若い母親が勇んでどこかへはたらきに出るなどということが全国規模で起こるなど、これもまた夢想でしかない。
 小生の周囲を見渡しても、本当に祖父母が孫に手を貸している家族においては、すでに、それぞれの方法で何とかやっている。
 生きるためにやらざるを得ない現実があるからだ。
 どうしてもできない家族にもまた、それなりの精神的、物質的、金銭的な現実がある。
 もちろん、家族間の精神的関係も急に変えられない。
 あまり報道されないが、東日本大震災や原発事故で被災した方々が、どこかにいる家族や親族のもとへ避難したおりに、受け入れ側も含めてどれほどの苦難や困難が生じたか、その現実の厳しさは想像を絶するものがあろう。
 だから、家を新築して与えるならともかく、数10万円のお金が家族の生活形態を劇的に変えるなど、ほとんどあり得ない。

 第三に、これが最も根源的な理由だが、そもそも、3世代同居が私たちの多くにとって本当に幸せになれる生活形態であるかどうかという問題である。
 一家団欒の象徴として、よく〈昔のよき時代〉のシーンが挙げられ、語られる。
 何世代もの家族が一つのちゃぶ台を囲んで食事をしたり、親子が一つの炬燵に入って一つのテレビ番組を観ていたりする。
 小生もそうした体験をしているが、あれは果たして、家族全員が〈そう望んだ〉シーンだったのだろうか?
 モノが今のように豊富でなく、共有したり、分け合ったり、譲り合ったり、我慢し合ったり、助け合ったりしなければ生きられない社会であり生活環境だったので、〈ああして生きるしかなかった〉というのが真実ではなかろうか?
 もちろん、忍耐、尊敬、感謝、協同など、そうした日常生活で得られる得難い人格の陶冶があったことも確かだが、反面、家庭でも地域でも各種の抑圧はすさまじく、真の意味での〈個の自立や独立〉に障碍となる影の部分も多々、あったことは見過ごせない。
 そして、何よりも重大なのは、あの貧しい時代が私たちの理想としてもたらされたものではなく、大家族によってつくられた精神構造もまた、決して望まれたものではないという事実から目を背けないことである。
 同様に、あの時代の大家族が復活すれば、モノにあふれたこの時代に、〈あの時代の心〉が再び舞い戻るはずはなく、私たちの本音としてほとんど誰も、そんなことを望んではいないであろうという事実もまた、正面から見すえねばならない。

 私たちはすでに、家族としても、地域としても、バラバラになりつつある。
 生きて行くためのモノがあり、個々の行動の自由に制限がなくなれば、当然の帰結である。
 私たちはとっくに、新たな家族のありよう、新たな地域のありようを模索せねばならない段階へ入っている。
 私たち一人一人が家族として、社会人としてまっとうに生きる心がけや、生きざまや、生活スタイルを考えねばならない。
 あるいは自分の尊厳をかけて、権利と義務についてよく考えねばならない。
 そうした努力の総和として、やがて新たな時代が幕を開けることだろう。
 ちなみに、今の日本では、子供たちの6人に1人が凄まじい貧困状態に置かれ、1割の高額所得者の富が全体の4割を占めている。
 子供たちと未来のため、個人を、家族を、社会を、この国をどうするか、根本から考えねばならない。
 ゆめゆめ姑息な手段を用いるべきではないと思う。

※この稿は、複数の世代が心と生活様式をつなぐ麗しい家族関係など、昔の佳き文化を否定するものではありません。
 モノのありようが心へ影響を及ぼし、心がモノを動かし、モノと心が相関し合っている事実をリアルにとらえる必要性について述べました。
 そこを見逃せば、奇怪な幻想、熱狂、憎悪、不安が発生して私たちの心と社会に鋭い亀裂をもたらしかねず、また、タイプの異なる社会や国家と不要な軋轢や対立を生みかねず、戦争の〈後遺症〉が次の戦争を招いてきたことは歴史的事実です。
 私たちが本当に根差しているものは何か、依って立つべき確かなものは何か、虚実をよく見て考えたいものです。

「おん あらはしゃのう」
 今日の守本尊文殊菩薩様の真言です。
 どなたさまにとっても、佳き一日となりますよう。
https://www.youtube.com/watch?v=WCO8x2q3oeM


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 山里の寺から、有縁無縁の方々の、あの世の安心とこの世の幸せを祈っています。

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